夕方のロバ #11
顔のないカエル②
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記憶の中で、カエルはロバと見つめ合っていた。
カエルは見つめられていることで、存在することができた。
そこには何の言葉もない。
一切の音も、光も無い。
ただ胸の中には、雨上がりの草原のような美しいイメージが広がっていた。
降り注ぐ日差しの暖かかさ。
南から吹く風。葉の擦れ合う音。
ロバの鼓動。
カエルはイメージの中でそれらの音を聴いていた。
周囲が静寂であればあるほど、
イメージの中の音は、ボリュームを上げたラジカセのように頭の中に鳴り響いた。
そしてカエルは、再び目を閉じた。
ロバの心臓の音を、イメージの中で聴きながら。
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