夕方のロバ #3
泡の記憶
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私はひとつの気泡に過ぎない。
薄暗い海の中を、ゆらゆらと昇っていく気泡。
時に魚の群れに飲まれ、または偶然にも海面に辿り着く。あわつぶ。
海底に目を凝らしても、もはや生まれ出でた理由など見えない。
私は海底から噴き出す有毒ガスだったかもしれないし、
潜水艦の吐き出す二酸化炭素だったかもしれないし、
シロナガスクジラの吐息だったかもしれない。
ただ一つわかっていることは、
いつか消えて無くなるということだけだ。
その時何か、シグナルがあるだろうか。
例えば白い光や、弾けるような音、鮮やかな色
それが存在していた意味になるのだろうか。
そんなことを考える度に、
今、海を漂っていること
いつか無に帰すること
そこには何の違いも無いように思えるのだ。
「わかるかい。言わば死ぬことと消えて無くなることは、全く別のものさ。
死は原因、無は結果
死は過程、無は終点
死はend、無はand more
死はあらゆる点、無は一つの面
死はclose、無はopen
全くみんなわかっちゃいない!
ところでさっきからなんだ。ザアザアと耳障りな。海で雨の音を聞くなんて、雨、
あ、空が
」
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