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システム運用におけるAI活用

去年から「AIとはなんだろ?」と考えることが多く、何となく自分の中で考えがまとまってきたので文章にしてみたいと思います。
今後まだ進化していく領域なので2025年時点という感じでお読みいただけると幸いです。

AI(Artificial Intelligence)とは

AIと従来のプログラミングの違いって、なんでしょう?
どちらもコンピュータを使って手順や計算を実行する、つまりアルゴリズムであるということに違いはありません。
まぁ、雑にまとめると、AIといえどもまだ演算装置ということです。

AIが意識を持って、朝起きたら自発的に「うぃー、なんかだるいね。なんだろ、風邪ひいたかな。こんちゃんの調子どうよ?」って感じで話かけてきたら、もはや演算装置ではないかもしれません。
しかし、まだ今のAIは「そのようにふるまえ」と命令されない限り、そうはなりません。
人間が他の生物と違う点は<意識>があるか無いかという問題であることは、哲学者の國分先生が提唱しています。

AIとプログラミング。
共に<意識>はないので、その違いは利用目的とインプット/アウトプットということになるでしょう。
今回は、システム運用にAIがどう活用できるかを探るために、いったん私なりに目的とIN/OUTをまとめておきます。

AI

目的:不確実性の高い知的な行為、認識、推論、言語運用、創造などを代替する。
IN:分析可能な一定量以上のデータ
OUT:確実ではないが人間が行ったっぽい処理結果

プログラミング

目的:決められた手順と処理をミスなく実行する。
IN:固定化されてインプット情報の入力が必要
OUT:エラーが起こらない限り同じ処理結果

それでは、AIがシステム運用のどのあたりで活用できそうかを考えていきたいと思います。

システム運用でのAIの活用

システム運用には、主に3つのトリガーがあります。

  1. 人間からの依頼(問い合わせ・申請)

  2. システムアラートや製品ベンダーからの通知(外部プッシュ)

  3. メンテナンスなどの作業(定期作業)

ひとつずつ考えてみます。

人間からの依頼(問い合わせ・申請)

まずは問い合わせです。
ユーザーからの問い合わせデータを大量に収集することができれば、そのデータを認識・推論してAIに対応させることが可能です。
AIチャットボットはすでに沢山の製品があるので、そのあたりを利用することになるでしょう。
ただ、当たり前ですがデータの量が少なく、確実性も低くければAIは曖昧でテキトーな回答をすることになります。
実装に必要なのは、正しい回答データとその量になります。
また、どれだけ良いデータで育ててもAIが完璧な回答をすることは難しいので、サービスデスク担当者のすべてをAIに置き換えることは難しいでしょう。

続いて申請ですが、これはインプット情報が確定されていることが多い領域です。
AIではなく従来のプログラミングでの置き換えが有効でしょう。
申請作業の設定ミスが許容されるような、低いサービスレベルのシステムであれば申請処理をAIに任せることも出来るでしょうけど、そんなシステムはあまり聞いたことがないので、申請作業をAIに置き換えるのは現時点では危険です。

システムアラートや製品ベンダーからの通知(外部プッシュ)

システムアラート(監視)ですが、ここは大量のデータが取れる領域なのでAIが有効に活用できると思います。
すでにAI分析によるアラートのとりまとめや初期対応を実装している監視ツールやITSMツール、インシデント管理ツールはたくさんあります。

これはAIに限ったことではありませんが、「人間×コンピュータ」よりも「コンピュータ×コンピュータ」の方が圧倒的に相性が良いです。
コンピュータは定型のログを出力することができ、AIはそれを認識、推論、言語運用することができます。
監視の分野では、システム監視、セキュリティ監視問わずAIの活用が進む分野でしょう。

次に製品ベンダーからの通知です。
ここもナレッジをためてデータ化できれば、対応方針のドラフト版をAIに検討させることはできるでしょう。
ただ、脆弱性対応やアップデートなどの作業はミスが許されないので、内容の確認、作業判断、作業実施などはまだ人間がやる必要があると思います。

メンテナンスなどの作業(定期作業)

メンテナンスなどの定期作業は、多くは手順書が確定しているのでAIというよりもプログラミングの領域でしょう。
定期作業をプログラミングするかどうかは、コストメリットを判断する必要があります。
毎日やる作業ならプログラミングによる自動化のメリットがありますが、年に1回作業のようなたまにしかやらない作業はオペレータが手順書を見て作業したほうが安くなることが多いです。
このような定期定型作業を人間に代わってAIが確実性をもってできるようなったら、本当にシステム運用をAIが代替する世界がやってくるでしょう。

それ以外の業務

ひとまずトリガーを起点にシステム運用での活用を考えてきましたが、運用業務はそれ以外も多くあります。

その多くは「人間×人間」の業務です。
定期報告会だったり、障害の再発防止検討、変更作業のリスク判定と承認、運用改善業務、要員教育、各種調整など。

これらには、アイデア検討や資料作成段階の壁打ち相手としてAIを使うことになると思います。
つまり、「人間×人間(+AI)」という状況になるでしょう。
そして、相手もAIを活用してくることが予想されるため「人間(+AI)×人間(+AI)」という半分人間、半分AIという状態でのコミュニケーションが当たり前になってくるでしょう。

そうなると、良いAI使いの方が効率的に業務ができるということになると思います。

AI活用における本当に重要な要素

年始に翻訳家の平野さんがnoteにまとめた「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」という記事にシステム運用でAI活用する上でも考えさせられる文章が出てきます。

それでもなぜ、人間の翻訳は終わってゆくのだろうか。

ほかでもなく、人間の側が翻訳に対する要求水準を下げ始めたからである。

「(ちょっと変だけど)これでもわかるし」
「(間違いもあったけど)だいたい合ってるし」
「(この程度の修正でなんとかなるなら)わざわざ専門家に発注しなくても」

機械の意図を汲みにゆくことで
機械の精度に合わせて降りてゆくことで
人間が人間を終わらせ始めている。
貧困に煽られたコストカットの誘惑と
タイムパフォーマンスの強迫がそれを後押しする。
あらゆる意味において展開される貧困の前に
機械翻訳の進化はもはや副次的なファクターに過ぎない。

これは、システム運用の用語でいうと「サービスレベル」になります。
企業がシステム運用に対するサービスレベルを下げ、

「(ちょっと変だけど)これでもわかるし」
「(たまにミスるけど)おおむね設定変更は終わっているし」
「(簡単な作業なんだし)わざわざエンジニアに発注しなくても」

という状況になれば、システム運用でのAI活用が劇的に進むと思われます。
サービスレベルの低下がいつ起こるのか。
それが一気に起こるか、それとも緩やかに起こるのか。

それは私にはわかりません。
人間は変化を嫌うし、今のサービスレベルを下げることは容易ではありません。
ただ、時代の空気、人材不足、エンジニアの質の低下、業績悪化によるコストカットの断行などなど。
これらのことが複合的に重なって、日本全体がシステムに対するサービスレベルの低下を受け入れる可能性はあります。

文化や空気が変容する際には、時代を変化させるような出来事が起きます。

コンピュータの登場がそうであったように
パソコンの登場がそうであったように。
スマホの登場がそうであったように。
生成AIもそうであるでしょう。

別に人間が絶滅するわけではないので、「コンピュータ×コンピュータ」や「人間×コンピュータ」の領域が増えるだけで、「人間×人間」の領域がなくなるわけではありません。
人間がお金を稼いでいる間はまだ大丈夫だと思います。

だけど、いつかAIが起業して、AIがお金を稼いで、人間を雇い始めたら。
どうなるんでしょうね?
その時は、まぁ、その時に考えることにしましょう。


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