結婚願望
34歳独身。小さい頃に自分がこの年になったときのことを一度も想像したことがない年齢になった。小学生の頃くらいは学校で将来の夢を発表させられる時には歌手になりたいとかお医者さんになりたいとか言ってたがどちらかというとその時はまっていた趣味に夢中で、本心ではあまり大人になったらこうなりたいなんて考えたことがなかった。というよりは私は大人になりたかった。とりあえず大人というものに憧れていた。
30代半ばにもなると家庭をもっている人が多い。学生のときや歯学部卒業したての頃は母は一人前に生活力がつくまではまだまだ、と言っていたがさすがにあなたに子どもがいたらおもしろいだろうね、と話している。人は二言目に逆のことを言う。
自分でもふしぎだが『結婚願望』というものがこれまでずっとない。誰かと付き合っているときはずっとこの人と一緒にいれたらいいなとだいたい思っているので結婚したくないというわけではなく、例えばフラれたときとか誰かいい人がいる状況じゃないときに誰かと結婚したい、と思ったことがない。
というのも20代で結婚した子や長く付き合っていた子は別として、アラサーすぎて結婚を成功させた子は『私は結婚して家庭をもちたい』という本人の強い意志のもと幾多とない困難を乗り越えて婚活に励んだ勝者たちにしか見えない。なんというか私には自分の底から湧き上がる願望が全体的に薄いような気がしている。
欲がないわけではない。可愛いお洋服を見れば欲しくて買うし、美容医療にはお金をつぎ込むし、音楽とお酒がある場所には遊びにいきたいし、海外旅行にもいきたいし、家族友達ふくめて好きな人たちには会いたい。ただそういう比較的お手軽なものでわりと満足してしまって、あとは仕事で体力が奪われて毎日が過ぎていくのである。忙しさにかまけて自分と向き合う時間が足りていないのだろうか?
それに大人になるとお互い探り合いしてるだけで踏み込んだ話を避けようとしがちになる。というか、ほんとはどう思っているの?と聞くのは気力が要る。時々若い子と話すと向こう見ずで肝をつくようなことを言われたりして若さとは勢いだと分かった。今の私は日々の些細なことに気力体力意力を消費しつくしているような気がする。
美容外科で緊急連絡先を書くときはやっぱり結婚はしたほうがいいなと思うが、施術が終わればすぐに忘れてしまう。気が乗らない飲み会や食事で疲れた後に一人で黙々と本を読んだり料理をして楽しむ自分を顧みるとやっぱり結婚は向かないんじゃないかと極端になったりする。
仕事帰りに銀座を少し散歩した。パステルカラーの春服につられてZARAに入りウィンドウショッピングをしている自分がガラスにうつった。子どもの頃にママになりたいと夢見たことはなかったが、東京に住んで門限も気にせずお洒落な街を自由に徘徊しているとこれはこれで夢かもしれないと思う。