47 ピリッと辛口で考える
暑いとボーッとします。なかなか考えが進みません。そんなときは、辛いものを食べたくなるという人、いるでしょう? 唐辛子とかを、食べ過ぎるといけないようですが、適量だと、脳が活性化する。ピリッとすると、シャキッとします。
食べ物でなくても、思考が停滞したときは、極端に走るといいのでしょう。良くできたコンテンツは、そうした効果を持っている。刺激物なのです。先日ネットで見た映画では、現在の自分を、子ども時代の自分(たち)が取り囲んで非難します。「お前は、幼い頃、こう言っていたのに、そのざまはなんだ」と叱られる。画面としては、大人の俳優を、子役や青年期の時代を演じた役者が取り囲むという形です。
こんな風に今の自分を過去の自分(たち)が取り囲んだら、何を言われるのでしょうか。昔、日記を付けていた人は、実感できるでしょう。読み返すと現在の有様を省みて、赤面するかも知れない。「ああ、初心を忘れてしまったな」と。
例えてみれば、普通の冷し中華を作って昼食。ふと、冷蔵庫から豆板醤やコチジャンを取り出して、少し加えてみると、味がピリッと締まる。そんな日があっても良いかもしれません。
SFは、普通、サイエンス・フィクションのことですが、スペキュレティブ(思弁的)・フィクションのイニシャルだと言う人もいて。いずれにしても、「極端」を考えて、現状を省みるという特性があります。前提となる科学的事象とか、事実をひっくりかえすとどうなるかという思考実験。もちろん、普通の小説にも、優れた作品には野心的な実験が仕込まれています。食べ物屋さんに例えるなら、SFは、店の看板を見ただけで「刺激物」がたっぷりということが分かる。一方、ジャンル分けを標榜しない小説は、普通のレストランで、この皿は薄めの味だなと食べ始めて、二口目にピリッとさせるものを感じさせ、食べ進むほど、既存のイメージが壊されていく感じかしら。
「辛」という漢字は、入れ墨を入れるための尖った鍼を示す象形文字だとか。どうりで、シャキッとしそう。そう言えば、「辛」と「幸」は似ている。入れ墨の鍼である「辛」が、「幸」の文字の上端の横棒、つまり皮膚という平面を上向きに突き破った姿にも見えたりして…幸せにもピリッと刺激が必要ということかしら。
考えるための100の方法 より
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