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27 即興を活かして考える

 ジャズの演奏では、プレイヤーによる即興演奏も聴きどころです。ジャズの名演と言われる映像を見ると、実に楽しそうに即興演奏しています。心理学者のチクセントミハイは、このように我を忘れるほどのめり込んでいる状態をフロー体験と呼んでいますね(『フロー体験 喜びの現象学』今村浩明訳 世界思想社 1996年)。
 すばらしい即興演奏を成り立たせるためには、演奏者たちがフローの状態になっている必要がありますが、もうひとつ重要な要素があるとか。
「とくにジャズミュージシャンは、即興で演奏するときは、互いをよく見ている」(Sawyer,R..K. Group Creativity. LEA 2003.)。
 逆に言うと、自分以外のプレイヤーのことをよく見ていないようでは、すばらしい演奏は期待できない、ということでしょうか。
 演劇の世界にも、台本のない即興演劇というものがあります。台本や事前の打ち合わせなどは一切なし。当日、観客に与えられたテーマから、その場で文字通り即興によってストーリーを作り上げていく芝居。先ほど引用した『集団創造性』とでも訳せる本によると、その際に大切なことは、「肯定する」ことです。「そう、そして……」という形で、前の俳優のせりふを、受け止めながら、先へと進行させていく。
 「質問形式の台詞をいわない」こともコツだといいます。質問をすると、された方はそれに答えなければなりません。プロの役者ですから、答えに詰まってしまうことはありませんが、それでも「間(ま)」が生まれ、舞台に停滞感を生んでしまいます。停滞感ということで言うと、「頭の中で筋書きを作らない」ということも重要。即興演劇に慣れていない役者は、先々のストーリー展開を頭の中で組み立てようとすることが多いのですが、そうすると、セリフが一瞬遅くなってしまいます。考えている間、相手の役者が何を言っているのか、それを聞くのがおろそかになり、セリフのバトンタッチがうまくいかない原因をつくりかねません。
 即興演奏や即興演劇から学べるものは、多いと思います。
 たとえば、ブレイン・ストーミングのような場においては、結論を出すことではなく、あくまでアイデアをみんなで出し合うことに意義があって、そこで他者の発言を否定してしまうと、活発な発言は期待できません。「そのアイデアいいね」とか「おもしろいね」などと受け止めることで、どんどんとアイデアが出てくるのでしょう。
 そして、次に何を言おうか考えるばかりで、相手の話を聞かないことも、場の停滞につながります。笑われたり否定されたりすることを怖れず、頭に浮かんだアイデアを口にしてみる。そのアイデアの芽が誰かのアイデアでもうひとつ先の段階へと進み、それを受けたあなたがそれをさらに先のアイデアへとふくらませていく……、こうしてアイデアがだんだんと形をなしていくのでしょう。
 熟考することも大切ですが、即興で考えることも大切。一言で言えば、ジャズ的に考えようということになるのかしら。
 


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