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Akechiは、D坂で何を見たのか

Kogoro Akechiとして、海外でも知られる明智小五郎ですが、江戸川乱歩によって、初めて小説に登場したのは、「D坂の殺人事件」においてでした。その冒頭あたりに、次のような文章があります。

「その時、先ほどちょっと名前の出た明智小五郎が、いつもの荒い棒縞の浴衣を着て、変に肩を振る歩き方で、窓のそとを通りかかった。彼は私に気づくと会釈をして中へはいってきたが、冷しコーヒーを命じておいて、私と同じように窓の方を向いて、私の隣に腰をかけた。そして、私が一つところを見詰めているのに気づくと、彼はその私の視線をたどって、同じく向こうの古本屋をながめた。しかし、不思議なことには、彼もまた、いかにも興味ありげに、少しも目をそらさないで、その方を凝視し出したのである」(江戸川乱歩「D坂の殺人事件」)

この小説の主人公は、「私」となっていますが、いつもD坂(団子坂。現在の千代田線千駄木駅のそば)の白梅軒というカフェで、コーヒーを飲んでおります。「安いコーヒーを二杯も三杯もお代りして、一時間も二時間もじっとしている」ときに知り合ったのが、「頭の良さそうな妙な男」の明智小五郎です。

発想において、大切なのは、観察すること。それが充実した1次情報を得るコツですね。「少しも目をそらさないで、その方を凝視」する「私」と「明智」は、まさにお手本であります。

彼らは、白梅軒から、真向かいの古本屋を眺めているのです。いま、街には、たくさんのカフェがあって、「真向かい」を見やすいところもたくさんあります。歩行者信号の前の店ですと、後ろ姿で青信号を待つ人々を観察できますね。持っているカバン、履いている靴、髪型、洋服など、いまの流行をチェックできます。後ろ姿ですから、カウンターの席からじろじろと見ても大丈夫です。

道路の向こう側から交差点を渡ってくるひとについては、歩き方を見てみましょう。スマホを見ながらハイヒールの足を引きずっている女性、黒カバンを右手に闊歩しているおじさん、トレーニング途中のご年配など、いまの世の中が感じられます。

カフェの2階席だと、もう少し、歩行者の全体を把握できます。盛り場の午前10時、昼下がり、夕方の退社時、夜も更けたころ、と街の人々が変化するのが、一目瞭然です。商圏の調査をする場合、歩行者数のカウントなどを専門家に依頼するわけですが、そうした結果の表を見る際も、実際に自分の目でとらえた「実感」があると解釈の深みが違います。

生活者の実態を知るためにも、明智たちに学んで、目をそらさないで、凝視することは基本といえるでしょう。電車のなかも、観察に向いています。とくに最近では、みんながスマホの画面に熱中しているので、チラチラと見ていても、だあれも気づきません。

気づいたひと、おやっと思った現象に「名づけ」をしておくと、発想のヒントになります。80年代の若かりしころ、先端のおしゃれをしていて、いまも突出したファッションの「アパレル還ギャル(還暦ギャル)」だとか、スマホに育児をさせている「スマ保母」とか、ひざの上のパソコンや足下のカバンと雰囲気の合わない「ホストスーツ系営業マン」とか・・・。

世の中を、からだにしみこませる。そんな感じで、Akechi Methodをご活用ください。

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