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46 口に何かを入れて考える

   殻付きピーナッツとか、栗のように、わざわざ手間のかかる食べ物を選んで、それをむきつつ、食べながら考えを進める知人がいます。手仕事に時間を取られる、それが思考の刺激剤になるようで。ある意味、たばこも同じ役割を果たしたのでしょう。脳の活動の句読点になる。   

 チョコレート派は、男性にも増えています。オフィスには、チョコをキーボードのそばに置いて、時々かじりながら文章を打っている人がいますね。カカオポリフェノールに期待しているのでしょうか。少なくとも、糖分はすかさず脳みそを動かす栄養になるはず。せんべい派の人もいますが、オフィスでは少々具合が悪い。音がしないようにそっと噛んでいると、そちらに気を取られてしまいます。

 カフェをのぞいてみましょう。ケーキを一口すくっては、スマホやパソコンに向かう人をよく見かけます。面白いのは、みんな一口分は残しておいて、最後に、しっかりとそのケーキやお皿を見ながら食べていること。食べ終わると、カップに残ったコーヒーを飲み干して、スッと席を立つ。仕事にリズムをつけるには良い場所です。もっとも、最近では、テレワークのせいか、パソコンの場合、ずっと席で働き続けて、時にはコーヒーのお代わりを頼みに行く人も増えました。    

 昔々の喫茶店では、沈み込んでしまうような妙に低いイスに腰を下ろすと、考えるというよりグタッとして。出入り口のあたりに置いてあるスポーツ新聞や週刊誌を取りに行って、読み出すことが多かったと思います。それでも、気を取り直して、「コーヒーのつまみ」に出ていたピーナッツをかじりながら(昔の喫茶店ではこうした「おまけ」がついていることも多かった)、考えごとを始めたものです。

 食べ物は、考える小道具。考え始めるきっかけを与えてくれます。その際には、手がべとべとしたりせず、それでいて少しだけ手間がかかるのが良いようです。殻をむく、缶のふたを開ける、スプーンですくう。この程度の作業が入ると、脳の働きを活性化させます。     

 自宅の場合、ミカンをむくのはいいけれど、リンゴの皮をむくのは少々面倒。とはいっても、行きづまったときなどは、皮むきに集中するのもいい。しばし、他の「手仕事」に気持ちを注いだあと、先ほどの問題に立ち戻ってみると、意外にすんなりと解決するものです。  

 もうひとつ、ガムについて。これは頭を集中させるのに役立ちます。覚醒作用とくつろがせる効果、その両面があるとのこと。まあ、かんでいる本人としては、そうした「効用」よりも、単に「退屈しのぎ」になるということか。眠くならない効果もあるね。咀嚼することは、脳にも刺激を与える。あごを動かしながら、考える。あごも考えることを手助けしてくれているようです。

 脳を刺激するという点では、高級食パンよりも固いバゲッドがいいでしょう。フランスパンを時々、食いちぎりながら、午前中にできなかった仕事を続けると、意外に良いアイデアが浮かぶこともある(もちろん、おにぎりをかじりながらもいいけれど)。「口に何かを入れる」ことは、仕事中であっても、私生活の「くつろぎ感」が漂って、新しい考えが出てくるのかも知れません。


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