見出し画像

コンテンツ作りのモジュール化

日経産業新聞コラム更新です2020.10.23掲載 
最近のテレビは、スタジオにいない出演者が姿見のような縦長画面で参加する。オンライン会議のような簡便な形で出演する際も、画質の荒さは気にならない。同一の場所で一貫制作することを避ける「コロナ禍の工夫」に視聴者は慣れた。制作物の「部品」を異なる場所で作り、最後に「統合」させる。こうしたコンテンツ制作のモジュール化が進む。
モジュール化とは、作業工程の一部を「まとまった部品」として扱うこと。製造業が発端だが、情報制作の現場でもモジュール化が広がる。従来も分割しやすい部分は外部化されてきた。古くは浮世絵制作の例がある。絵師・彫り師・摺(す)り師が分業し、版元はプロデューサー。絵を描く、版木を彫る、摺るという制作過程がモジュール化されていた。現代のメディア産業も、撮影後のポストプロダクションなど様々なモジュール化が存在する。分業で制作時間を短縮しコストを下げる「効率志向」と、各工程のプロフェッショナル化による「創造志向」が要因。そこにコロナ禍で人と人の接触を減らす「安全志向」がモジュール化を加速した。
コンテンツ作りにおけるモジュール化は多様(図参照)。スタジオにおける「生素材」、中継による「遠隔素材」に加え、番組アーカイブが充実し「過去素材」も使える。過去の素材を使いながら、現在の視点から制作する「過去+現在」番組も増えた。科学番組や災害シミュレーションでは、CGによる「仮想素材」も多用される。スポーツやイベントにおいては、選手・出演者に対して、観客・聴衆の存在が必須だ。両者は一体のものだったが、昨今、会場は無観客または一部が参加、残りはネット経由など「観客モジュール」の構成にも工夫がなされる。当然、「料金システム」の柔軟なモジュール化も必要になる。メディア産業の例は、教育現場のモジュール化にも示唆を与える。教育コンテンツは「生素材」「遠隔素材」「過去素材」「仮想素材」など多彩になり、受講の場も、教室・サテライトキャンパス・自宅など多様化。入学金・授業料など「料金システム」の改変も迫られる。創造的なモジュール化は新しい市場機会を生み出す。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?