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30 異質な語を出会わせて考える

 経営学者の伊丹敬之さん(一橋大学名誉教授・国際大学学長)に『よき経営者の姿』(日本経済新聞社・2007年)という著作があって、すぐれた経営者には、共通した3つの顔つきがあるとか。
 まず、「深い素朴さ」。素朴とは素直、何かにとらわれることなく、ありのままということ。入ってくる情報を拒まない。「寛容の心」があるということでしょう。そこに、「深い」という形容詞が重なっています。ちなみに素朴さは表情に出ますが、深さはその人の目を見ないと分からないかも知れません。
 2番目は、「柔らかい強さ」。強さは、他の意見に振り回されず、「自分なりの物事の筋」を通していること。強さが「硬さ」につながると、近寄りがたく、人を遠ざけてしまう。で、「柔らかさ」が求められます。
 3番目は、「大きな透明感」。トップは、どんなことがあっても、最終責任を負うのです。自分の力でいかんともしがたい場合でも、最後は自分の身で責任を取ることになります。いまの時代では珍しくなった覚悟といったものが求められるわけです。
 「透明感をもたらす覚悟は、経営者として必要な複雑な総合判断、矛盾する要請にどこかでけりをつける判断をするからこそ、生まれてくるのであろう」(同書)。
 「大きな」という形容がされるのは、あまりにピュアな透明感だと、経営者としては「切れすぎ」の感を与えるからだとか (切れすぎると人がついてこない)。
 伊丹さんの言いたいことは、「さまざまな対立軸の中で矛盾に引き裂かれそうになるところをそこから止揚してさらに高い解をめざす」(同書)というところにあります。「深い+素朴さ」「柔らかい+強さ」「大きな+透明感」と、異質な単語を結びつけたのも、矛盾を引き受けなければならない組織のリーダーの姿を何とか表そうとしたのでしょう。
 いずれにしても、遠いものが、出会うほど、そこから喚起させられるアイデアが斬新になります。注意すべきは、詩の場合もそうですが、言葉同士が異質過ぎて理解不能ということもありえる。その兼ね合いが表現する者の技量ということになります。
 ただ、矛盾しており、どうしても理解し得ない乖離があっても、きっぱりとスローガンとして掲げると、みんなが必至に考え、創造性を高めると言うこともあります。禅の公案にも似ていますね。


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