「中華蕎麦 とみ田 × 日本酒「旦」」関友美の日本酒連載コラム
先日、『中華蕎麦 とみ田』の社長・富田治さんに取材する機会がありました。富田さんは“ラーメン界の絶対王者”の異名を持ち、つけ麺を日本の食文化として押し上げた立役者です。松戸を中心に全14店舗と自社工場1社を展開しています。
集合場所は成田空港の直営店『松戸富田麺旦』でした。店名のこの“旦”という字は、富田さんが山梨県で日本酒『旦』をつくる笹一酒造の社長、天野怜さんに使用許可を得て付けられました。そこには2023年10月、店がオープンするまでの4、5年間の不思議なめぐり合わせがありました。
もともと富田さんはお酒が強くなく、1合飲むだけで真っ赤になるほどだったといいます。でもある時、山形県のラーメン仲間のもとを訪れ、日本酒のテイスティングを勧められ、「たしかに美味しい」と気づきました。
出身地の茨城県笠間市には酒蔵が4つもあり、身近な存在だったことも影響しているでしょう。また、海外イベントや映画出演で日本代表として立ち回ることが多く、「日本酒こそ日本文化だ」と考えるようになったのです。
そんな折、一番弟子で唯一の独立店『中華蕎麦 うゑず(山梨県)』の上江洲恵介さんに「地元の酒はなに?」と尋ねると、七賢、青煌の名を挙げた後、「そうだ!コレを飲んで欲しいです」と出してきたのが、『旦 山廃純米大吟醸 播州愛山 無濾過生原酒』でした。
そのボトルは、上江洲さんの下で働いていたスタッフが偶然甲府の居酒屋で飲んで惚れ込み、笹一酒造に直談判して蔵人になり仕込んだ1本目の酒だったのです。
「これは美味い…!」
今風ではないけれど、しっかりとした旨味が凝縮された『旦』の味わいに、富田さんは一気にファンになりました。酒屋さんを通じて笹一酒造との交流がスタート。やがて成田空港に出店することになりました。店名は東京駅なら“絆”、千葉駅だと“業”、『松戸富田麺』の後に一文字つけるのがルールです。
『旦』は、水平線から太陽がのぼる様子を表す漢字で、万物の始まりを意味します。旅立ちの場であり、日本の玄関口である成田空港にぴったりです。
これだ!と閃き、早速天野さんに連絡し快諾を得ました。日本酒『旦』は流通限定酒ですが、富田さんの熱望により、別注モデル「旦 純米吟醸 とみ田別誂」が完成しました。『松戸富田麺旦』と本店で販売される予定です。
富田さんが惚れただけあり、無濾過生原酒のしっかりとした味わいが『とみ田』の濃厚魚介スープのつけ麺によく合います。
今まで日本酒を合わせるのは日本料理が主流でしたが、日本の“国民食”であるラーメンと日本酒という新しいペアリングが、成田空港から流行し浸透していく予感がします。大いに期待しています。
その際に執筆した対談記事はコチラです。ぜひご覧ください。
今月の酒蔵
宮尾酒造(新潟県)
1819(文政2)年創業。新潟県北部の村上市に位置する。1960年代、大手の甘い酒が流通する市場にキリッとしながらも旨味がある、淡麗旨口の「〆張鶴」は、新潟地酒ブームをけん引し、日本中を席巻した。江戸末期には北前船を持つ廻船問屋も兼ねており、北海道の港が詳細に記された古い航海図や古文書が残っている。2代目・宮尾又吉が記した『酒造伝授秘法之巻』も伝承されており、当時から「品質第一」の教えを頑なに守り続けている。
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」7月号転載
(庄司酒店様に許可を得て掲載しています)
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