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「奥能登の酒蔵復興への願い」関友美の日本酒連載コラム(リカーズ4月号)

2024年1月1日に能登半島地震が発生しました。被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

石川県の輪島や珠洲(すず)など奥能登3市町にある日本酒の酒蔵全11社も大きな被害を受けました。古くから酒造りに秀でた「能登(のと)杜氏(とうじ)」の故郷であり、銘醸地である能登には、国内外に出荷している銘柄もあれば、主に地元で人気の銘柄もあります。

能登半島にある酒蔵。赤丸が震源地

建物が全壊したところも多く、今季の酒の仕込みを断念するところが相次いでいます。苦しい現状ではありますが、各蔵元の再起への想いが続々と届いています。現在わかっている情報を記しておきたいと思います。

輪島市で「金瓢白駒」をつくる日吉酒造店は、大規模火災に見舞われた朝市通りに面しています。揺れにより酒蔵3棟が崩れ、仕込み中のタンクも倒れましたが、ぎりぎりのところで火の手が止まり、焼失は免れました。新聞の取材に対し、5代目蔵元の日吉智さんは、「火災を免れたのも何かの運命。今の場所で再開させる」と話しています。

能登町で「竹葉(ちくは)」をつくる数馬酒造には、津波が到達し浸水しました。地面に亀裂が入り、揺れで貯蔵タンクから酒が流れ出すなどの被害も出ましたが、タンク内の発酵中のもろみは石川県内の車多酒造、福光屋、加越、吉田酒造店、宮城県の新澤醸造店など他の酒蔵によって引き取られました。上槽と瓶詰め作業がおこなわれ、製品化されて市場に流通する見込みです。

2017年の「竹葉」数馬酒造 数馬社長 ※古い写真ですみません。。

能登町にて兄妹で「谷(たに)泉(いずみ)」をつくる鶴野酒造店でも、家、店舗、酒蔵ともに全壊しました。14代目蔵元の鶴野晋太郎さんは新聞の取材に対し、「能登町のため酒造りを再開させたい」と、決意を述べています。

 輪島市で仲良し夫婦が「奥能登の白菊」をつくる白藤酒造店では、建屋が倒壊し、蔵内ではタンク3本以外は沓石から落ち、米を蒸す和釜も破損。製品保管用のプレハブ冷蔵庫も壊れ、庫内では多くの酒が破損しました。東日本大震災で大きな被害に遭った鈴木酒造店が駆け付けて、もろみを救済したそうです。

2021年「奥能登の白菊」白藤酒造店 蔵元と
2021年「奥能登の白菊」白藤酒造店 蒸米を放冷機の上で放冷する様子
白藤酒造店 外観
白藤酒造店 昔ながらのかまどがある台所
蔵人さんたちと一緒にご用意いただいた朝食。地元の海苔も米も本当に美味しかったです。

 おなじく能登町で「大江山」をつくる松波酒造も、建物が全壊しました。地震発生直後に女将の金七(きんしち)聖子さんがSNSにアップした動画では、屋根瓦は落ち、窓や扉はことごとく倒れ、ガラスが飛散して、啞然とする人々の様子が映し出されていました。無事だった原料米は小松市の酒蔵・加越に移送されたので、この米から(酒蔵を間借りして)酒をつくり出荷する見込みとのこと。心待ちにしています。

2023年8月 「大江山」松波酒造 金七聖子さん

日常生活もままならない状況に置かれながら、酒蔵の方たちは事業を未来に繋ぐために暗中模索しています。わたしは取材で訪れたときの風光明媚で魚介類がおいしくて、あたたかい人々が住む能登が忘れられません。もちろん酒蔵との交流もあります。石川県酒造組合の義援金口座を通じて、わずかでも応援していきたいと思っています。このコラムを読んで、関心を持ってくれる人がひとりでもいたなら幸いです。被災地域の一日も早い復興をお祈りいたします。
 
※情報は2024年1月末時点のものです。状況が変わっている場合があります。ご留意ください。

今月の酒蔵

株式会社 加越(石川県)
1963年に設立された、石川県小松市を拠点とする酒蔵。銘柄は「酒峰加越」「加賀吟醸」「加賀ノ月」「こっそり」。霊峰加賀白山の清らかな水と地元産の米を用いた酒は、国内外のコンテストで受賞している。特に代表銘柄「加賀ノ月」は2012、2013年のノーベル賞晩餐会で採用されるなど定評を得ている。1951(昭和26)年の福井地震で創業家の酒蔵が壊滅的な被害を受けた歴史があり、その後1961年に北陸3県の蔵元が合併し再生。今日の加越が形成された。


庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」4月号転載
(庄司酒店様に許可を得て掲載しています)

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