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日本酒「醸す森」がグランプリ〜 モナコSAKEアワード授賞式 & 特別ディナー@Andaz東京

2025年2月18日、「アンダーズ東京 虎ノ門ヒルズ」にて第4回モナコSAKEアワードの授賞式がおこなわれ、その後、受賞酒「醸す森 純米大吟醸 火入れ」を楽しむ特別ディナーが開催されました。

私はこの特別なイベントに参加し、日本酒の可能性を改めて実感しました。この記事では、授賞式やディナーの様子、そして苗場酒造の酒造りへのこだわりを紹介します。


モナコSAKEアワードとは?

モナコSAKEアワードは、日本とモナコの文化交流を目的とした日本酒のコンクールです。
在モナコ日本国名誉総領事であり、AMFJ(Association Monaco Friends of Japan)の会長のエリック・ベンチモル氏が、モナコと日本の文化交流を促進するため、モナコ・ヨット・クラブやAMFJとともに、2021年11月に第1回「MONACO SAKE AWARD」を開催しました。

審査員には、モナコ公国のアルベール2世公、宮廷料理人、トップソムリエなど、世界の食のプロフェッショナルが名を連ねます。
主催はモナコフレンズオブジャパン アソシエーション(AMFJ)、協力はYacht Club de Monaco、MONACO Emu。

モナコSAKEアワードのトロフィーは、米粒の形

このアワードは、日本酒の優劣を評価するのではなく、モナコと日本の友好の一環として、モナコやヨーロッパの食文化に調和する日本酒を選ぶことを目的としています。

モナコのグルメ層は、ワインとのペアリングには精通していますが、日本酒はまだ発展途上の段階。その中で、このアワードは「日本酒の新たな可能性を世界に広げる」役割を果たしています。

(実は、わたしも「モナコ酒アワード」日本での予備審査の審査員を務めました。)

モナコについて

モナコはフランス南東部に位置する世界で2番目に小さな国で、公用語はフランス語です。地中海沿岸にあり、豪華なカジノやF1モナコグランプリで知られています。1956年、ハリウッド女優のグレース・ケリーがモナコ公レーニエ3世と結婚し、プリンセス・グレースとして国の象徴となりました。観光と金融が経済の中心で、税制優遇により多くの富裕層が居住。治安が良く、世界で最も人口密度の高い国の一つです。

モナコに居住するためには、一定の資産要件を満たす必要があります。具体的には、モナコの銀行に最低でも500,000ユーロ(約7,000万円)を預け入れることが求められます。また、モナコ内での住宅所有や1年以上の賃貸契約を結ぶことも必要です。さらに、犯罪歴がないことを証明する書類の提出も求められます。これらの条件を満たすことで、モナコの居住権を取得することが可能となります。

苗場酒造がグランプリ受賞! 2年連続の快挙

今回のグランプリに輝いたのは、新潟・苗場酒造の『醸す森 純米大吟醸 火入れ』です。苗場酒造は、前回の「深然ーMIZENー 純米吟醸」に続き、2年連続のグランプリ受賞という快挙を達成しました。

※本受賞後、2024年10月より「醸す森」は製造方法や酒質は変わらず「ゆきのまゆ」にリブランドされました。

深然ーMIZENー 純米吟醸

授賞式では、苗場酒造の新保光栄社長が、「雪深い津南町で生まれる酒が、モナコの方々に受け入れられたことは大きな喜びです。今後も日本酒の魅力を世界に伝えていきたい」と語りました。日本の伝統と革新を融合させた酒造りが、世界的にも高く評価された瞬間でした。

受賞酒「ゆきのまゆ 純米大吟醸 火入れ」の魅力

受賞した「醸す森」は、昨年10月から「ゆきのまゆ」にリブランドされましたが、その酒質は変わらず、しなやかで芳醇な味わいが特徴です。

  • 味わい: ふくよかな旨みと繊細な甘み、きれいな余韻

  • ペアリング: 繊細なフレンチや魚介料理との相性抜群

受賞の決め手となったのは、「モナコの食文化に馴染む味わい」。「ゆきのまゆ」は、従来の日本酒より”酸”が強く、新時代の味わいです。ワインを飲み慣れた審査員たちが、日本酒の新たな可能性を感じた一杯だったのではないでしょうか。

苗場酒造 ~酒蔵を買収した理由と想い

新保社長

苗場酒造は、新潟県津南町に位置する酒蔵で、もともとは117年の歴史を持つ老舗でした。しかし、後継者不足や日本酒市場の縮小といった課題に直面していました。2014年、リゾートホテルやレストラン業を営む(株式会社エンゼルグループ)新保光栄社長が、地元の銀行の紹介を通じてこの酒蔵を買収しました。買収当時、売上は約6,000万円でしたが、現在では3倍以上に成長しています。
2024年8月には、作業動線が良く、衛生的で年間を通じて温度管理ができる新蔵を建設しました。
買収後も伝統的な酒造りを守りつつ、最新の設備投資や海外展開など積極的な経営を行っています。

新保社長の奥さまと、娘さんも授賞式、ディナーともに参加し、参加者と交流をした

酒蔵の買収は、単なる事業拡大ではなく、日本酒文化の未来を見据えた決断でした。新保社長は、ホテルなど、もともとの事業でも、「地元・津南」を大切にしていました。「地酒を置きたい」という想いも強く、苗場酒造は、「日本酒文化の創造と継承」をテーマに掲げ、伝統技法を守りながらも、新しい試みに挑戦しています。たとえば、全量手作業での搾りや、2次発酵によるシャンパンのような製法の導入など、こだわりの製造方法を採用しています。

人気を博していた「醸す森」は、商標登録などの問題があり、2024年10月より、製造方法や酒質は変わらず、「ゆきのまゆ」と名称を変えました。

その名称は、津南町特有の自然現象「雪繭(ゆきまゆ)」に由来します。湿気を多く含んだ雪が石の上に丸く積もり、その様子がまるで繭玉のように見えることから、この地方では「雪繭」と呼ばれています。

「ゆきのまゆ」というひらがなの表記には、雪の丸みや柔らかさを表現する意図が込められています。また、袋搾り特有のうす濁りが口の中で雪のように溶け、繭玉のようにしっかりとした味わいを醸し出すことから、この名前が選ばれました。

酒蔵がある新潟県中魚沼郡津南町は、日本有数の豪雪地帯として知られています。新保社長によると、毎年数メートルもの雪が積もり、山間部では10メートルを超えることもあります。この豪雪がもたらす豊富な雪解け水は、日本を代表する軟水の一つとされ、全国のファミリーマートでも販売されるほど高い評価を受けています。

津南町のもう一つの特徴は、標高の高さと気候条件が育む米の品質です。標高300〜600mに位置するため、温暖化の影響を受けにくく、特にコシヒカリや酒米の生育に適した環境とされています。このため、日本酒造りにとって最適な米が収穫できる地域としても知られています。

また、津南町は伝統的に農業と林業が盛んな地域であり、地元の人々は農業を基盤としながらも、地域資源を活かした産業を展開してきました。苗場酒造も、その地の利を活かし、地域と密接に結びついた酒造りを行っています。新保社長は、「津南町は、日本酒造りにおいて最高の環境」と述べ、豪雪地ならではの水資源と、伝統的な米作りの文化が、日本酒の品質向上に大きく貢献していることを強調しています。

特別ディナー会:苗場酒造 × 町田智也シェフ

授賞式の後は、南青山「NICE」の町田智也シェフによる特別ディナー。町田シェフは「食のサステナビリティ」を理念に掲げる気鋭の料理人で、日本酒とのペアリングにも深い理解があります。

◆Menu◆◆◆
Amuse-Bouche

寒ブリと自家製からすみのタルトレット
+ゆきのまゆ 純米吟醸 生酒

Entree
春野菜とごぼうのロワイヤル
+ゆきのまゆ 純米大吟醸 生酒

Entress
フォアグラと焼きリゾットのキャベツ包み
+深然-MIZEN- 純米吟醸
※2023グランプリ、Monaco Sake Award マリアージュ賞

Poissons
サワラのソテー 酒粕のブールブランソース
+Domaine Bassac - Tranquille Rosé

Viandes
イタリア産仔牛のムニエル 白いんげん豆のトマト煮込み
+ゆきのまゆ 純米吟醸 火入れ

Desserts
いちごのクレームダンジュ
+ゆきのまゆ  純米大吟醸 山田錦 40

ディナーの途中にサプライズが。
普段、フォアグラにはワイン。魚には日本酒、とされがちですが、「サワラのソテー 酒粕のブールブランソース」に合わせて、ロゼワイン「Domaine Bassac - Tranquille Rosé」が提供されました。

そして私の友人でもある、南フランスのワイナリー「Domaine Basset(ドメーヌバサック)」のLouis Delhon(ルイ・デルホン)氏が、日本酒とワインのペアリングの新たな可能性について語りました。

ルイは、日本酒「ゆきのまゆ」がモナコ酒アワードで高い評価を受けていることに敬意を表しながら、フランスのワイン文化との共通点について言及しました。特に、日本酒の繊細な味わいとフランスのロゼワインが互いに補い合う点を強調し、食事とのペアリングの面白さを伝えました。ドメーヌ・バサックは、フランス南部のオーガニックワイン生産者であり、持続可能な農業を重視しています。ルイは、バサックのロゼワインが軽やかでエレガントな味わいを持ち、南フランスの人たちは、夏、海辺でロゼのボトルを持って行って気軽に楽しむのだ、というエピソードも添え、単純な味わいだけではない、情緒や文化についても言及しました。日本酒と同じく食事との相性を考えて造られていることを説明しました。スピーチの最後に、ルイは「日本酒とワインは異なる文化を持ちながらも、どちらも職人の技術と情熱によって生まれる芸術品である」と述べ、日本酒とフランスワインがともに世界に広がることを期待していると締めくくりました。

「Domaine Basset(ドメーヌバサック)」のLouis Delhon(ルイ・デルホン)氏。ルイちゃん

まとめ:日本酒の未来を感じた夜

左からエリカさん、モナコ酒アワード 日本事務局長の白石さん、著者


アンダーズ東京からの素晴らしい夜景を見下ろしながら、苗場酒造の新しくもおいしい日本酒と、それにあわせた料理を楽しみ、もっと多様な場所で日本酒が活躍してほしい、と強く願いました。

今回のモナコSAKEアワード授賞式&特別ディナーを通じて、日本酒の可能性を改めて実感しました。

  • 日本酒はワインと同じく、世界の食文化に溶け込む存在になりうる

  • 日本の伝統的な酒造りが、世界の舞台でも認められつつある

  • ペアリングを通じて、日本酒の新しい楽しみ方が生まれる

苗場酒造の挑戦、町田シェフの料理、そしてモナコの審査員たちの評価——すべてが「日本酒の未来」を示唆しているように感じました。

日本酒の可能性を探る旅は、まだ始まったばかり。
「2025年 モナコSAKEアワード」はエントリーがスタートしました(2025年5月28日(金)17時まで)。今回の結果も楽しみにしたいと思います。


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