「兵庫県は、日本最大の酒どころです。」関友美の日本酒連載コラム(リカーズ2月号)
「兵庫県って酒どころなんですか?」
昨秋おこなわれた飲み歩きイベントで、兵庫県・播州一献の法被を着て接客していたわたしはお客様から問われました。「灘って聞いたことありませんか?」と聞き返しても、首をかしげます。なんてこった!
兵庫県は日本一の清酒生産量を誇ります。たとえば2023年8月の都道府県別・清酒課税移出量(≒日本酒の出荷量)を見てみると、24,572.9㎘のうち、第1位は兵庫県で全体の24%を占めています。第2位は京都府、第3位は新潟県と続きます(醸界タイムスより)。瀬戸内海から日本海まで面積が8,400k㎡と、全国12位の広さを有します。酒蔵数も70近くと多いのです。
生産量だけでなく、歴史を語るうえで欠かすことのできない土地です。奈良時代初期に編纂(へんさん)された「播磨風土記」には、こうじから酒を醸したという記述が残っており、その舞台は現在の兵庫県宍粟市です。それから時代は進み、大阪寄りの伊丹で酒づくりが盛んになりました。伊丹市に建つ碑に、「鴻池家は酒造によって財をなし,慶長5年から200年も続いている。鴻池家は,はじめて清酒諸白(もろはく)を製造し,江戸まで出荷した」と刻まれています。諸白(もろはく)とは麹米と掛米の両方に精米した米を使った、現在の日本酒のルーツです。それまで当たり前だった濁り酒ではなく、ろ過した「澄み酒」が生み出された「清酒発祥の地・伊丹」と伝えられています。
江戸時代初期から中期には、灘五郷の造り酒屋が続々と創業されました。南側に六甲山がそびえ、湧き出る伏流水「宮水」はミネラル分が多く酒づくりに適した水質。発酵が旺盛になることで生まれる淡麗な味わいは「灘の男酒」と評判になりました。さらに六甲山からの急流を生かし水車式精米が発達し、大量に精米できるようになり、きれいな酒をつくれるようになりました。兵庫県北部から出稼ぎに来る、研究熱心な「丹波杜氏」や、山田錦をはじめとする良質な「播州米」の存在も兵庫の日本酒を発展させました。それから一大消費地・江戸への海上輸送の利便性が高かったこともあります。
「樽(たる)廻船(かいせん)」で伊丹、池田、灘などから江戸まで運航されました。上方(かみがた)から下ってくる酒=「下り酒(くだりさけ)」と呼ばれ、江戸で爆発的なブームとなり、それ以外の「下って来ない酒」は、あまり美味しくないつまらないものだ、とまで言われるようになり、現在の「くだらない」という言葉の語源にもなりました。
「兵庫はれっきとした酒どころです」。
胸を張ってお伝えしたいです。灘五郷や西宮には、昔の酒造道具や写真が展示される記念館がいくつもあります。国内外の多くの人に訪れてもらいたいです。
今月の酒蔵
白鶴酒造(兵庫県)
1743年創業の老舗酒蔵にして、最大の生産量を誇る。灘五郷のひとつ、神戸・御影(みかげ)郷(ごう)に位置する。「まる」のイメージが強いが、全国新酒鑑評会の金賞、南部杜氏自醸清酒鑑評会1位などの実績も持つ実力派。木の麹室など手づくり専用の設備も持つ。自社開発米・白鶴錦や自社酵母を数百種類持ち、新しい取り組みにも積極的。清酒市場をけん引している。白鶴酒造資料館は酒造道具だけでなく、かつての蔵人(くらびと)の蝋人形があるため当時の様子がわかりやすい。
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」2月号転載
(庄司酒店様に許可を得て掲載しています)