35Mで取得した中古木造アパートを85Mで売却するまでの愚直で堅実な不動産投資の話。(実話)
先日、妻代表の資産管理法人の「創業と同時に取得した一棟目」の築古木造アパートの売却の契約が完了しましたので、振り返りながら内容を綴って行こうと思います。
尚、決済前のため「あれ?これってあの物件かな?」とか思い浮かんでも深く追求しないことを推奨。
・・・
買手の登場
それは、突然のことだった。
昔、一緒に働いていたこともある高位の不動産営業マンから、半年ぶりくらいのLINEが入った。
テキストでも書いておく。
このような「物件求むLINE」だ。
前半の「エリアが一都三県、境界非明示」などは特別目新しくもないが、やはり特徴的なのは
◆木造アパート:築22年以上
◆鉄骨アパート:築34年以上
この部分だろう。
「法定耐用年数を超過しているモノが欲しい」というニュアンスだ。
加えてRC、鉄筋コンクリート造が入っていないのは、上記を満たしつつ、旧耐震の物件は遠慮したいということが伺える。
当然のことながら、この背景にあるのは、
「土地建物割合で、建物を大きくして減価償却食いたい」といった勢力の買主か、その需要を持った投資家を抱え込んでいる不動産業者だ。
予想の裏付けのため、TEL。
先方の意図を組んだ上で、いくつか思い当たるもの、保有物件で合致する可能性があるものを添付してみた。
その中の1件、京王線沿線の都下エリアに所在する
妻法人保有の木造アパートが引っかかった。
ここで物件のスペックを簡単にお話する。
こんな物件だ。
外観は本note記事のTOP絵。
都下エリア、とはいえ、駅5分。
スーパーなども徒歩1分圏内にあり、利便性良好。
将来的に、自分が戸建てを建築して住むことも、やぶさかでもない立地。
「間取りとしての訴求力」は今どきのものと比較すれば弱いものの、立地の面からか、極端に空室が増えて困るようなことはなく、加えて修繕費用やランニングコストも低廉であった。
満室想定の年間のお家賃収入が約606万円。
年間返済額が186万円。
運営コスト年額で80万円ほどだった。
年間CF約340万円。
売却するということは、当然ながら
この600万円の売上と340万円のCFが無くなるということだ。
基本的には売りたくないし、売るのであれば、ある程度良い値段でなければ当然に売りたくない。
そんなことからも、積極的には販売活動をしておらず、不動産仲介業者様とのリレーション作りに活用してきた物件だった。
大手仲介時代の同期や
物件を買わせてもらった営業担当者だったり、
物件を売ってもらったりしたとき営業担当者だったりの、
さらなる「1媒介」として、
相手が欲しいタイミングで「売物」として(高値で)提供してきた。
エンドとして物件を預けているわけだから、少なからず相手の頭の片隅には「当該物件の現役の売主、かつ以前の売主or買主orエンド投資家or業者だけどエンド投資家」として残る。
新たに彼らが媒介を取得する査定段階の案件を頂けたら吉、それを取得できたら最高、万一物件が売れたらそれはそれでラッキー。
積極的には売りたくないがゆえに、高値追求の形となり、「売っていながらも売らないでいた」木造アパートだった。
そう、直近で付き合いある仲介業者様に出していた価格と利回りはこれだ。
・「販売価格:約11,000万円(税込)」
・「満室想定賃料:約5.5%」
先方に送った概要書はこの表記のままである。
それに対する「グロス7%以上なら土台に乗る」ということは、
検討スタート価格が「8650万円」。
実に【2350万円の指値を食らった】形とも言える。
どう?
エグくない?
されども、深呼吸して考えてみる。
これは不動産に関わるもの、不動産営業マンであっても個々人によってフィーリングに少なくない違いがでるものだが、今の相場を肌感覚で押し並べてみる。
尚、参考にしやすいところとして、業界中を駆け巡る「ぷん」様の一覧表(2023年6月現在)を眺めた直後だ。
当然ながら不動産は個別要素が強いため、一概には言えないものの、ここのあたりは現在のマーケット販売価格として悪くない認識ではないだろうか。
(土地が広大で土地値がやたら出たり、駅1分のようなピン立地は別物だ。)
先の売出事例を眺める限り、
・エリアが都下
・構造は木造
・昭和終わり築
条件的に劣後する当該木造アパートが「7%台」というのは、決して悪くない金額である気もする。
とはいえ、あくまで業者買取だ。
結局買主は、すぐさまであれ、短期間の保有時期があれ、転売するのが目に見えている。
狼旅団の団長ブログを愛読するものとして、かつ不動産業に携わる者として、
「不動産は素人から買って、素人に売るのが一番儲かる」という鉄則は当然に心得ている。
売主としては、その最終出口のエンド投資家様に売却するのが利益を最大化するポイントなのは間違いない。
売主の契約不適合(瑕疵担保)責任の免責や、境界非明示など、楽な部分はあるが、日頃からそれを本業としてやっている自分にとっては、大した話ではない。
各方面、今まで媒介を出してきた営業さんや、昔の仕事仲間などにも「こんな話きたんだけどどう思う?」をヒアリングし、一泊程度で結論を出した。
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詳細は後述するが、土地建物按分と消費税額の調整や、それに伴う仲介手数料の調整等々、諸々のネゴシエーションを経て、契約と相成った。
※上記LINEの金額そのものではありません。
物件との馴れ初め
物件を購入したのは2015年。
当時は、スルガ銀行が木造アパートへの融資を取りやめてから3-4年ほど経過したころだろうか。
私の本業勤務先(一棟収益仕入)の主戦場も、ご多分に漏れず、
「SRC・RC・S」の構造のみをターゲットとしており、
木造は見向きもされていなかった。
ある日、会社のFaxに3頁の物件情報が届いた。
・送付状
・販売図面
・レントロール
非常にシンプルなものだ。
販売図面に価格は入っていないし、レントロールには空室箇所の募集(想定)賃料の記載もない。
早速電話で詳細を伺う。
このような導入だった。
売主は業者ではない一般法人名義。
ただ、法人そのものを相続された方が、不動産は好みではないとのことで、早めに処分したいといったニュアンスだった。空室の募集もしておらず、面倒だからそのまま買って欲しいといった内容だ。
物元の専任仲介業者さんは、線が細めな老齢宅建士。
雑居ビルの一室でやっているタイプだ。
当初、2015年時点、最初にFaxで送られてきたレントロールはこれだ。
最低賃料:35,000円
最高賃料:56,000円
既存で入居している現況賃料で月額301,000円。
全10戸だが、3室空室、そして退去予定(202)が1つあったので、
4空、稼働6戸で購入する形だ。
角部屋かどうかの違いはあれども、ほぼ全て同一間取り。
賃貸物件としての訴求力は決して高くない。
空室を安牌な最低賃料で見ていくと、
(202号室を除く既存賃料)+(空室3.5万×4室)
264,000円+140,000円=404,000円
年額484.8万円だ。
検討価格だけで見れば、3500万円⇒13.85%
しかしながら、さらにネガティブに見てしまえば、
既存の入居住戸だっていつまでそこに居てくれるのかなどわからない。
全戸が最低賃料に入れ替わり、35,000円になれば、
月額350,000円。
年額420万円の物件となる。
取得価格の3500万円⇒12%
当然にSUUMOやホームズも眺めるが、駅5分圏内等で類似の募集事例を検索していくと、3万円の中盤くらいから出てくる。
駅距離を広げてしまえば3万円ジャストすら出てくる状況だ。
購入直後は13%後半くらいの利回り感だが、
数年のうちに12%くらいの利回り感に、
そしてそれ以下になるかもしれない…。
当時は今(2023年現在)よりも利回りが高かった時期、とはいえ「遵法性には問題のない中古木造アパート」だ。
エンド出口が9-11%あれば売れる、
12%を超えてくると、業者目線としても当然悪くない。
ただ、空室を稼働させるにも、
修繕などで200-300万円は見ておきたい。
3500万円+修繕費300万=3800万円。
420万円の満室想定賃料だとして、11%。
普通っ、極めて普通っ。
悪くはないけど、そこまでは儲からなそうな物件。
そんな第一印象だ。
レントロールの空室箇所に安牌なラインでの想定賃料を入れ込み、専任仲介から折り合いがつくといわれた「約3500万円」を本業で使うシミュレーション(エクセル)に打ち込む。
築古木造をやる金融機関は限られるものの、これくらいなら、売れる可能性はあるだろう。
このような組み立てをして、上席に持っていった。
一蹴。
ここから、本格的に自分での取得に動き出した。
この時点の経験値としては、前職の終わり頃から個人名義での木造アパートを2棟購入したところだ。3棟目になるかどうか…。
まだ法人は作っていなかったものの、
どこかのタイミングで「法人での不動産投資」を始めたいとは思っていた。
・・・やってみるか。
私の勤務先の場合は、良くも悪くも柔軟性があり、上席を含め、「自分の法人を持っているヒト」が散見される状況だった。
自分が代表の法人を設立しても、特段問題にはならないのだが、ちょうど出張中に「とにかく妻を社長にしなさい」(坂下 仁:著)を読了した直後。
(特に深い理由のないまま)妻代表の資産管理法人を設立した。
借入を打診した先は「東京都民銀行(現きらぼし)」だ。
すでに個人での一棟目の購入時に融資をしてもらい、関係ができていた。
新設法人でも取組みができたことはもちろん、
当時は土地値(路線価)さえでれば、それに近いところまで融資が出た。
また「RCと鉄骨は法定耐用年数通りだが、木造は土地としてしかみないので『20年』」という不思議なロジックで融資を組むことができていた。
金利・期間は<1.375%の20年>の条件だ。
売買価格3500万円に対し、融資は3250万円
融資割合92%、元金均等毎月の返済は15-6万。
初期費用としては、
自己資金分:約200万円(敷金や賃料清算控除)
業務委託費:約150万円(仲介手数料と別に…)
諸費用約7%:約250万円
約600万円くらいの資金を投入した形だ。
無事に融資の承認が得られ、売買・決済。
妻法人の創業とあわせて取得した法人での一棟目となった。
購入をしてからのバリューアップ。
「これは…強気に行けないかもしれない。」
元々のレントロールを見てもらえば分かる通り、手堅い募集賃料は3万円の中盤・もしくは前半だろう。
ただ、おそらくは昔の入居だとしても、現実に5万円超で入っているお部屋もあるし、前オーナーが物件に無頓着であったのは確かなところ。
テコ入れをすれば、賃料レンジの上の方を狙える可能性はあるのではないだろうか…。
そんなところから、購入後に内外装のリノベーションを入れた。
外装は全部をやると大変そうだったので、
この時点ではエントランスのみ。
(※結局保有後半で大規模もやった)
内装は空室の4室を始めとし、
以降退去があるごとに実施。
具体的なビジュアル資料は次のとおりだ。
【外回り】(リノベ前)
<リノベ後:外回り>
【室内】(リノベ前)
<室内:リノベ後>
※この当時はステージングでも何でもトライしていた。
今から見ると、まだ拙い修繕ではあるものの、
8年前の当時はこのリノベーションの完成で、
悪くない…いや、「相当見違える」ように映ったと思い込んでいた。
ここまでやったんだ。
これ、安くは貸したくないな…。
もう、6万めざそう。うん。
管理会社の担当者からは、ものすごく怪訝な顔をされるものの、相場なんて関係あるか、1点もののお部屋なんだ、こっちが決めて何が悪い、そんな強気で募集を開始。
ウチコミや色々な媒体などから、
それなりに時間は要したものの、
1年程度の間に満室稼働となった。
尚、長期的に運用していたので、
後半はまたリノベーションのテイストもかわってきた。
賃貸状況
その結果として、
今現在のレントロールは上記のとおりだ。
取得時点で空室だった4室(薄緑)は、
5万円に乗せることができた。
そのあとの保有期間中に入退去が発生した部屋が薄オレンジの箇所だ。
こちらも5万円、均すと中盤。
白色箇所はそもそも退去がないところだ。
結果として、年額約600万円超の売上を生み出してくれる優秀な物件に仕上がった。当初のネガティブなワースト賃料見込みからは約1.5倍だ。
ファーストインプレッションとして、
「3万円中盤でないと、決まらないであろう物件」から、
「5万円はとれそうで、1部屋だけ安いお部屋がある」と
逆転して見えるレントロールに仕上がった。
尚、今回の買主様からもしつこく確認された。
パッと見の収支。
タイトルに有る通り、当該木造アパートの取得価格は
約3,500万円だ。
詳細な成約価格は控えるものの、
ざっくり約8500万円。
引き算をしてしまえば。
その差は5,000万円である。
加えて、取得したのは2015年。
すでに7-8年が経過しているため、
当初の3,250万円借入も
現時点ではすでに約2,000万円となっている。
A)売却価格:8500万円(として)
B)売却諸経費:300万円
C)残債務:2000万円
A-B-C=約6200万円 ※税引前
手元資金が一時的とはいえ、6000万円オンされるのは…
正直嬉しい。
※今期の納税、来期の予定納税等、考え出すと使えないので一時的。
「売却益」として、一旦計算してみる。
A)売却価格:8500万円(として)
B)売却諸経費:300万円
C)取得価格:3500万円
D)取得時諸費用:250万円
E)修繕費用:約400万円
A-B-C-D-E
=約4050万円。
(減価償却は考慮していないが、元々建物は1割もなかったので無視。)
また、頑なに貯め続けたりしていたわけでは無いので、積み上がってはいないものの、空室やランニングコストを考慮しても年間で300万円前後のキャッシュフローが7年ほどあったはずだ。
(おかしい、口座に見当たらない。)
ざっくり300万円×7年=2,100万円
(おかしい、口座にいないんだけど。インチキかな。)
これを考慮すると、
(売却益)4050万円+(運用益)2100万円
⇒6,150万円。
当初投入した現金約600万円が、
7~8年の時間を経て、
約10倍になったイメージだ。
この1プロジェクトにおける、トータルのCCRは、
1025%になる。
土地建物按分
妻法人は消費税課税業者となっているため、
この土地建物割合は、割と重要な箇所だ。
本来の評価証明の按分でいくと、
土地と建物の割合はざっくり
「土地9:建物1」だ。
(取得時点はこれで申告している。)
買主、先方の希望と擦り合わせ今回は
「土地6:建物4」まで引き上げた。
これについては、近頃ひっくり返される話も耳にするため、
一応税理士にもヒアリング。
鑑定評価を取るなどの技も耳にするところではあるが、今回は特に触れなかった。こっちは売主なので、買手で好きにしてもらえれば構わないところだ。
取得時には「いつかの売却」を見越して、建物の減価償却を考慮せず(むしろ土地に寄せたかったが)「評価按分通り」で購入している。建物の簿価はすでに1円だ。
売却時に建物割合が増える=売主サイドは納める消費税額が多くなる、という点から、売主・買主で綱引きの攻防が生まれるところではある。
今回はその消費税が増える分について、仲介様より仲介手数料からの調整の申し出があり、ありがたく受けることにした。
揺れる想い
話が具体化した段階で、客観性のある意見を聞くため(そして心を落ち着けるためにも)各方面にヒアリングをした。
【元同僚にTEL】
そして、
売渡承諾書に押印した後も、爆上がりする日経平均。
揺れる思いを固めるため、以前に媒介を出していた同期に、やはりヒアリング。
【大手仲介時代の同期にTEL】
土地値着地ィィィ。
土地価格、この相場上昇が全ての要因なのかもしれない。
リーシングの努力だとか、
リノベーションによるバリューアップとか
全てはただのオプション、幻想であった可能性すら…。
一応調べてみたけど、路線価ベースでは
平米30万円⇒33万円で1割UP。
実勢価格が上がりすぎてる気がする。
まぁ、何にしても、
自己資金と与信で手の届く範囲の物件を、
そして普通に運営しておける物件を、
それなりの価格で取得して、
適度なメンテナンスをしてあげることで、
こんな風に化ける可能性がある。
これを実体験として、
1プロジェクトの入口から出口まで、
完結できたことは、大変うれしい次第である。
………
令和5年の6月9日に売買契約を締結したものの、
本日(令和5年6月16日現在)、
ちょっと、日経平均が33,000円を超えて、
4-5万目指しそうな勢いじゃないですか?
ねぇ、売るの早まったかな?
ねぇ、やっぱり5%台目指せたんじゃない?
ここで出口とっちゃうの、むしろ機会損失だったんじゃない?
邪念を打ち払い、
自分の選択が正しかったと暗示をかけることにする。
正しいのは全て成約価格!
ーーー
本note、何かしらお役立ていただければ幸いです。
次の物件に行くためにも、
皆様からの投げ銭を心待ちにしておりますっー!
それでは皆様の不動産投資に幸ありますように。
こちらは執筆及び不動産投資の糧になります!