蛇足について09『別物の蛇足』

続いては『別物の蛇足』だ。
蛇足は対象を別のものに変えてしまうこともできる。
そこで今度はメロスを別人にしてみよう。

別人にするのは難しいことではなく、たとえば「ではない人」「以外の人」等の単語を加えればすぐに出来上がる。

メロスではない人は激怒した
メロス以外の人は激怒した

たしかにどちらもメロスではない別人だ。
しかしこれではどこか味気なく、無機質であり、蛇足の醍醐味である無駄も感じない。別の蛇足をしてみよう。

①メロスは激怒した
和製メロスは激怒した
③メロスの代理人は激怒した

①のメロス似の人は一見メロスに見えるが別人である。メロスのモノマネを得意とするモノマネタレントだ。リトルメロスなのか小メロスなのかマネスなのか芸名まではわからないものの、メロスのモノマネとして定番である「激怒」をしてみせてくれるはずだ。

②の和製メロスもメロス本人ではない。これは日本に住むメロスに相当する人のことである。似たようなものに

・浪速のメロス
・紀州のメロス
・東のメロス
・我が町のメロス
・現代のメロス
・21世紀のメロス

などがある。

③のメロスの代理人は明らかに本人ではない。メロスと王の間に入った代理人がメロスの代わりに怒っているのである。

では、次のメロスはどうだろうか?

自称メロスは激怒した
ラジオネームメロスは激怒した
⑥メロス(クローン)は激怒した

この3つは見極めが難しい。

①の自称メロスはその言葉の響きから別の人の可能性が高いのだが、本人の可能性がないわけではない。自称会社員が会社員の可能性があるのと一緒で、ある程度の調査をしなければその真偽はわからない。自称メロスの場合、メロスの顔を知らない場合は本人かどうか見極めるには時間がかかる。DNA鑑定も視野にいれなければいけない。ただ、激怒しているということは本人であることを信じてもらえなくて苛立っているとも考えられる。ただし「もしもし、おれおれ、メロス」と電話をかけてくる自称メロスは詐欺であると考えよう。『メロスメロス詐欺』だ。

②のラジオネームメロスは、ラジオネームイコール本名ではないと考えるのが一般的であるから別人と思ってしまうが、苗字のみ、あるいは下の名前だけをラジオネームにする場合もあるのでこちらも別人とは断定できない。

③のメロス(クローン)はクローンを本物と捉えるのかどうか、人それぞれの考え方による。

このように『別物の蛇足』もまた想像を掻き立ててくれる。


つづく

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