綿帽子 第五十六話
何やら神社の前に人だかりができている。
「何だあれ?」
「さあな、まあ寄ってみるか」
神社の前に屋台テントがある。
近づくにつれ段々と見えてきた。
大量のお酒にソーセージ、おでん、他にも色々と酒のツマミになるようなものが置いてある。
ソーセージはテントの真横に炭火焼きのセットを置いて、町内会の人だろうか?黙々と大ぶりなソーセージを焼いている。
「お参りですか?どうぞ食べて行って下さい。お酒も日本酒から何でもありますから、好きなものを飲んで下さい」
お参り前に食べ物を口にするのもどうかと思ったが、勧められたものを断るのも具合が悪い。
簡単にこの場を立ち去れるようにと、ソーセージを一本だけもらうことにした。
「ありがとうございます。それじゃソーセージだけいただけますか?」
「どうぞどうぞ、おでんもありますよ。お酒は何を飲まれますか」
「いえ、これだけで結構です。先にお参りを済ませてから、また立ち寄らせていただきます」
「そうですか、そちらは何か飲まれますか」
「わしは、日本酒ダメだから。焼酎あったら焼酎で」
「酎ハイならありますよ、ほい」
「おお〜ありがとう」
お前、どこのおっさん的な喋り方してるんだと思ったが、既にお酒が入っているのを忘れていた。
「ああ、もうダメだ」
ビールみたいにグビグビと飲んでいる。
お参りする前に飲み干すんじゃないのか。
彼はあっという間に缶酎ハイを一本空けると、更にもう一本と言いだした。
「お前、そんなに飲んだらお参りできないだろう」
「いや、だって寒いだろうよ」
「お前、酎ハイ飲んでたら逆に冷えないか」
「大丈夫、直ぐに温まる」
そんなことはないと思ったが、仕方がない。
彼から酒を奪うのはお天道様でも難しいかもしれない。
「分かった、それ飲んだらお参りするぞ。足らなきゃまた立ち寄ったらいいだろう?」
「おう」
そう言うと彼は飲んでいた缶酎ハイの空き缶をペキペキと音をさせて潰しだした。
「お前、潰すなって、ああ、踏むなって」
空き缶を潰すだけでは飽き足らないのか、ペシャンコになるまで足で踏みつけようとしている。
「お前、そこに捨てに行ったらいいだろうが」
「おう」
「おう、じゃないだろう。そこに捨てられるとこあるじゃないか、俺は捨てて来たぞ。テントの横にしっかり置いてあるのにわざわざ潰さなくても」
「少しでも手間を省いてやろうと思ってな」
彼はペシャンコになった空き缶を二つとも拾うと、テント脇のゴミ箱に投げ入れた。
「カシャカシャーン」
「お前、音が響くだろうよ」
「おう」
「おうじゃねえ、行くぞ」
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