吾れは照る日

中学2年、昭和6年

 吾れは太陽であります。我が身体はたった一つ丸い幻の様な火で、大層熱のある一体で、その表面は常に大層強い光線を放っており、地球の動物界植物界にそれは是非なくてはならないもので、空気を透して其処まで達します。吾れの務めは実に重大な影響があって、雷よりも先に目を醒まして、赤々と昇って行くと、下界では「もう夜が開けた」と大喜びで「せかせか働けや」と今まで静まっていたのがちょこちょこと出て来る。
 雲の上の雷さんは、「こりゃ大変だ。大ねぼうした。」と雲の窓から顔を出して「太陽は昇った昇った」と仲間を集めて夕立の相談をしている。又下界では真昼が近くなって日がカンカンと照りつける頃、見ていると、「それ今だ」と植物などはどんどん伸びていくようだ。吾れが目を醒ました時に朝早く元気よく飛んでくる鳥はうなだれてしまい、他の小鳥達はチュウチュウ、キー、キーと色々様々に囀っている。そこへ支度の出来た雷が雲の上で踊って、夕立をピカピカ、ゴロゴロ、ピーピー、ヂャンヂャンとやると今迄喜んでいた下界では「これは大変」と大あわてだ。雷は面白がって踊り廻っている。吾れがせっかく下界を照らして見ているのに邪魔して我が心を曇らして終うから本当に憎らしい。雷の皆が疲れ雲の上で一番先に眠って終うと、吾れは其処を逃げて又下界を明るく照らしてやる。
 皆が眠って終う頃、吾れも陰れるとシーンと沈まりかえって暗黒になる。そのうちにホロホロと蝙蝠が鳴いて下界は静かになって終う。

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