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恋人は少しブス22

 もうダメだ、と思った。忘れられるわけがないけど自分のしでかした事を考えたら当然だ、と思った。オレは最低だ。初めて本気で好きになった人を裏切るなんて。
 最近よく、陽キャとか陰キャとか言うけど僕はそもそも自分は陽キャだと思っていた。でもこの出来事で僕は一時決して陽気な男ではなくなってしまっていた。

 そうだよ、オレはそもそも恋愛なんかに向いてないんだ
。男として半端なんだ。じゃあどうする?そうだ、今は旗揚げ公演、それが全てじゃないか!気持ちを集中しろ、大切な役所だ、オレがいなきゃ始まんないんだ

 表現の何たるか、なんてまだひとつもわかっちゃいない19のガキだった。いや、19はガキなのか?
 
 話しは逸れるが昔一度だけ尾崎豊という男と酒場に行った事がある。そのBARの前の路上で尾崎豊と出くわしたのだ。会った途端に、とんでもない男だ、と思った。
 大きい。体だけじゃない。人間が大きくてとても誰かが操れるような奴じゃない、と一瞬で思った。

 おぉ関口さーん、いつもベストテンで見てましたよ、だーれーか〜ロマンティック〜♪

 西麻布の交差点で大声で歌われてオレは情けなくも圧倒されグゥの音も出なかった。

 尾崎はウォッカかなんかの酒瓶をラッパ飲み。こっちはまだ一滴も酒が飲めなかった。もうじき30っていう頃の話。本ストーリーの約10年後の話しだ。
 僕はまだ酒が飲めなかったがその男には完全に飲まれてしまった。
 そのレッドシューズというBARで彼は女の子と騒いでいる。僕はといえばジンジャエールかなんかのストローをくわえて押し黙っている。正直悔しくて唇を噛んだ。ダサい話しだろ?じゃ話しを戻す。え?その話しもっと聞きたいって?そう言うと思ったけど無理だよ。それ以上何もなかったんだから。

 17歳の地図、という名曲を尾崎は残しているけど僕はすでに19歳にもなってまだ正体不明のバイト君だった。実年齢は彼より幾つか上だったけど精神的にあの男ははるかに高い所にいたんだと振り返ってみてそう思う。え?それで?何だっけ?あー、ったくこのマスカキ野郎!いい加減にしっかりしろ!

 そう、僕は何かが言いたいんだ。自分が自分である事を証明するための何かを言わなきゃならないんだ。そのためにこの劇団に入ったんだし、Pと恋愛する事に悩んでる場合じゃねぇだろ!もう家には帰れない、時給や日当のためにあくせくして後は女の事考えてばかりでどーすんだバカヤロウ!もっと演出家に怒鳴られて振付師にしごかれてボイストレーナーに引っぱたかれてって毎日に真剣に向き合えよ!あの日ジーザスクライストスーパースターを観て鳥肌がたったみたいに観客を興奮させてみろよ、そのための今だろ!違うのか!

 男らしく熱い思いに僕は燃えた…..がそれも数日。

 私なんだか変な想像しちゃって勝手にやきもちやいてたの、ごめんね、関口君の事疑ったりして、なんか私変だったの、ホントにごめんなさい、許してくれる?

 も、もちろんだよぉ〜…..

  何でも宗教のせいにするわけじゃないが人類皆兄弟みたいな思想の中で少年期を過ごしてしまうと、なーに女の1人や2人、ウォッカをラッパ飲みしてペッペッペーだ!みたいな乱暴な思考の男にはなかなかなれない僕なのでした。

                     つづく


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