見出し画像

対面講義において双方向性をいかに実現するか:山本奈央先生(名古屋市立大学)

オンライン講義から対面講義に戻ったことをきっかけに、山本先生は「理解度チェック」という課題を新たに導入しました。オンライン授業の時に、チャットやデジタル教科書を通じて生まれた学生と豊かなインタラクションを、対面講義でも再現したかったからだそうです。毎回の学生の解答に対して、次回の授業でフィードバックすることで、次第に回答の質が向上したそうです。山本先生は、この好循環をどのように実現したのでしょうか?デジタル技術と対面講義の最適な組み合わせを目指すチャレンジについて教えてもらいました。


講義の概要

 2023年度前期、私は2〜4年生配当科目「マーケティング」において、各回の内容について講義時間内に教員から出される課題(質問)に取り組む「理解度チェック」を導入しました。例えば、「同じカテゴリーの他の製品と比べて、プレミアム価格で販売されている商品のブランド名をあげ、なぜ、その製品はプレミアム価格をつけられているにもかかわらず消費者によく売れているのか、価格以外のマーケティングミックスと関連づけて説明してください」(石井淳蔵・廣田章光編著『1からのマーケティング・デザイン』の第4章「考えてみよう 2」)のように、講義内容と関連付け自身の考えをまとめる設問となるよう工夫しました。
 導入の理由としては、コロナ禍を経て大教室講義運営についての気づきを得たことが大きいです。昨年度までのオンライン講義(リアルタイム)では、講義内でチャットによる質問を受け付けたり、デジタル教科書を用いて学生からのコメントを受け付けたりすることの効果を実感していました。特に、講義の振り返りのための課題の設定や教員との対話においてデジタル技術を用いることは、学生にとっての心理的ハードルを下げ、結果として学修効果を高める可能性があることに気が付いたのです。
 対面講義の「復活」に際し、チャット機能やデジタル教科書における学生からのコメント共有機能が廃止になったことを踏まえ、その代わりとして、学務情報システムのアンケート機能を用いた理解度チェックを行うことにしました。

理解度チェックを行う上での工夫

情報技術の活用

 今回は学務情報システムのアンケート機能を用いて解答する形としました。この形式としたのは以下の理由により紙による提出より優れていると考えたからです。

  1. 学生が普段から使い慣れているデジタルデバイス上での提出とすることで課題に取り組むハードルを下げること

  2. システム上では提出の有無が学生自身で確認でき、また自身の解答が履歴として残ること

  3. コロナ禍を通じて、資料のオンライン配布が進みPC・タブレット等によるノートテイクが増えていること

成績評価との関係

 基本的に毎回、当日(ないしは前回)の講義内容から出題する一方、成績には反映しないこととしました。なぜなら、本来の目的である自身の理解度の確認を鑑みると、この段階での解答に点数を与えるよりも解答に対する講義内フィードバックを踏まえたうえで授業内容をより理解することが重要であると考えたからです。

学生へのフィードバック方法の工夫

 後日(次回)の講義内で必ず解答へのフィードバック(全体)を行いました。フィードバックでは、①設問意図の説明を行うことで、どのような点を理解してほしかったのかを学生に考えてもらい、②多かった解答ならびに興味深かった解答を紹介することでより理解を深めてもらうことを目指しました。

理解度チェックを通じての気づき

回を重ねるごとに解答が充実する

 以前のデジタル教科書への共有コメントと同様、回を追うごとに解答内容が充実したものになっていきました。これは、講義が進むにつれ解答に慣れたこと(コツをつかんだこと)やマーケティングへの理解が深まったことに加え、毎回のフィードバックにより学生にどのように解答すればよいかの気づきを与えることができたからだと思います。

理解度チェックの出し方の工夫の重要性

 オンライン講義(リアルタイム)の終了により、チャット機能を使った質問のような気軽なコミュニケーションが特に大教室講義においてとりづらくなったことは否めません。実際、質問はいつでも受け付ける旨の周知や、教員の連絡先なども提示していましたが、チャットと比べると質問の数は減ってしまいました。
一方で、教員の講義を90分間フルで聞いて学習するだけではなく、講義時間内での理解度チェック解答という「実際に自分の頭で考え、手を動かす」時間を作ったこと、また理解度チェックを通じて教員に自身の考えを伝える機会があったことで、幾分かコミュニケーションを補うことができたのではないかと考えます。

終わりに

 今回、教室の雰囲気や学生の表情等を確認しながら進められる対面講義の良さを改めて実感することができました。一方で、デジタル技術の活用が教員にも学生にも当たり前になる中で、両者のよいところをどのように組み合わせるのかについては、試行錯誤の段階です。
 例えば、チャット機能の活用については、技術的、人員的(現時点では教員1名で講義を進めている)に難しい側面もあるが、今後対面講義でもチャットで学生が自由に発言をし、リアルタイムで教員が確認しながら時にフィードバックを行うといった工夫をすることで「よいところどり」ができるのかもしれません。コロナ禍を経たからこその「新しい講義のあり方」について今後も検討したいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?