オンデマンド型授業において学生間の学びあいを促進するデジタル教科書の活用方法:瀨良兼司先生(近畿大学)
授業の実施方法
2023年度前期は、「国際マーケティング」をオンデマンド型で担当しました。経営学部に加えて経済学部の学生も履修が可能であることから、500名を超える学生が履修登録をしてくれました。授業の実施方法として、デジタル教科書システム「UniText」を活用し、予習を前提とする講義を進めました。講義の大きな流れとしては、図1で示す通りです。
予習課題として、テキスト本文と教員の説明を読んだうえで、自身の実体験や調べた内容に対する意見提示をフォームで提出してもらいます。この予習課題は、成績評価に含まれる課題として扱われ、授業時間外学修を行ってもらうための仕掛けでもあります。予習コメントの内容としては、実体験や日常での観察、アルバイトでの体験に加えて、海外旅行や留学時の実体験を提出する学生も一定数存在しました。
予習コメントは、教員が目を通して、講義で取り上げるコメントを選定します。選定された予習コメントは、提出時に入力したニックネームを付けて、教員がデジタル教科書に反映させます。予習コメントを事前に収集することは、教員にとっても、該当回で扱う内容に対する受講生の興味関心や理解度を把握することができるメリットがあります。
この科目はオンデマンド型ですので、講義動画を収録して配信しますが、ラジオ番組のような形式を採用しています。講義では、デジタル教科書の画面を共有しながら、教員がラジオDJのような役割を担って、学生の予習コメント内容を紹介しながら進行します。予習コメントは、ラジオのハガキに位置付けられ、採用されたコメントを書いた学生は、ハガキ職人よろしくコメント職人になります。コメント職人が広げてくれた内容に対して、教員が講義内容に絡めて解説することで、理解を深めることを狙いとしています。
講義動画視聴後は、コメントシートとして、キーワードに加えて、気づきや学びを提出してもらいます。これによって、講義内容を振り返る復習として、リフレクションの機会としています。さらに、印象に残ったコメント職人を一つ選んで、選定理由とともに提出してもらいます。フィードバックとしては、コメントシートの内容はもちろん、投票で上位5名に選ばれたコメント職人を、受講生による選定理由とともに紹介しています。これは、授業時間外での学修を行うモティベーションを高めることを狙いとしています。
予習コメントへの投票
実際に予習コメントに対する投票で上位となったコメント職人に対して、選定理由として用いられた表現は、図2の通りです。
印象に残った理由として、「共感」が挙げられます。オンデマンド型授業の場合は、他の学生が何を考えて講義に参加しているかがわかりづらいことも多いのですが、予習コメントを取り上げることで、間接的ではあるものの、学びあいが促進されていることがうかがえます。そのほかにも、コメント内容への「感心」や、「気づきや学び」が得られたという声がありました。講義内容への理解を深めることや、海外に訪れたことがない学生にとっては「追体験」ができたという声も出ました。
この授業を漢字一文字で表すと?
講義デザインについて、第15回講義動画視聴後のコメントシートで、「この授業を漢字一文字で表すと?」という質問をしてみました。
上位10個の漢字は、順に「新」「学」「知」「考」「広」「国」「楽」「繋」「深」「異」となり、学生間の学びあいも含めたポジティブな反応が返ってきました。
具体的な選定理由としては、「電子教科書やオンライン上での双方向講義など、私にとって体験したことのない授業スタイルで新しかった」「電子教科書を用いるという新しいスタイルで授業が行われており、他の学生の考えや気づきの共有が多くあったことで、自分自身の新しい学びを得られる授業だった」(新)という、デジタル教科書を用いたオンデマンド講義に対する「新しさ」に関する好意的な声が寄せられました。
また、「授業を通して先生から知識を得るだけではなく、学生の考えや体験を通して新しいことを知ることができた」(知)といった学びあいに関する声も挙がりました。特に「オンライン講義だったが、自分の中で今学期一番色々な事を学べた」「今まで受けた授業の中で、トップレベルで楽しく学べた」(学)など、教員にとっても嬉しい声がありました。
その他に印象的であったのは、「自ら意見を述べることや他の学生の意見を取り入れる中で、思考する能力を磨くことができた」「インプットした知識をアウトプットさせるように先生が促してくれ、物事に対して自分で考える機会を設けてくれた」(考)、「あまり経験したことのない授業の進め方なので新鮮で楽しかったです!楽っていう意味ではないです!」(楽)、「オンライン授業ですが、学生や先生とのつながりを感じることができた」(繋)などの声が寄せられました。これらは全て、対面ではなく、オンデマンド型授業への反応です。
オンデマンド型授業においてもデジタル教科書システムを利活用することで、学生の主体的な参加を促すことができ、学生間の学びあいや講義内容への理解を深めることに繋がったのではないかと考えています。これからも引き続き、試行錯誤を続けていきたいと思います。
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