屋久島の恋③
エピソード2 一億年ぶりの海、そして戦い
旅の初めの大遅刻のせいで、時間にうるさい彼女と化した私は、彼をせっついてスキューバダイビングツアーのお店に10分前に着いた。
海…久しぶりすぎである。
きのこたけのこ論争ではたけのこ派。
イカとタコどっちが好きと聞かれればタコ派。
海派か山派かと聞かれれば海派の私。
なのになぜ家に20年前に着ていたビキニしかなかったのか。
大人の女性が水着を着るのは大きく2タイプあると思う。
①ナイトプール族
ホテルのナイトプールを楽しめる好奇心と自信を兼ね備えた民族
彼氏や友達と海に出没するのも同じ科である
②大いなる母族
水で狂気乱舞する子どものために海やプールに繰り出すお母さん族
気力、体力、注意力を兼ね備えたハイパーマム。川まで制覇する強者も
それ以外の私のようなものは、なかなか水着に縁遠いライフを送っているのだ。
海派といっても信じてもらえないレベルの久しぶりさ。
でもこの胸の高鳴りは嘘じゃない。
ああ弾ける白い波飛沫…
想像するだけで、トゥンク…!
というわけで、さすがにビキニもあれだなと思ったので急いでZOZO様経由でワンピ型の水着を購入。さらに水着を探してからやたらと広告に上がってくるラッシュガードもまんまと購入。まあ、日焼けも気になるし、何かあったら?いざという時に?使えばいいかな〜というわけでね。
これで万全!
と思っていました、着替えるまでは。
なんか…胸の布が少ない?
確かにレトロ型って書いてあったけど、なんだろう…スパーモデルじゃない人がノーブラで第3ボタンまで開けてるようなのスースー感。
やっぱり水着は試着がベター。
家の鏡の前でテンションガタ落ちで彼氏を引かせるほどだったよ。
でもいいんだ、俺にはラッシュガードがある!
いざという時、早速発動。
はい、ずっとラッシュガード着てました。
そんなわけで海に向かう。
他のグループもいて、総勢15人くらいの大所帯でインストラクターさんについて一湊海水浴場へ。
海に入ると…
体中が、脳が、喜んでいる!
き・も・ち・E・E 〜〜〜〜〜!!!
(Eはイでもエでもお好みで)
何度か海水を飲みながらも、少し浜から離れたらわんわんと生活している海中の主たちを覗き見させてもらいました。
お魚の種類が豊富!
色とりどり、大きさとりどり、形とりどり、早さとりどり。
きゃわいい!
インストラクターさんが色々説明してくれたけど、クマノミしか名前は覚えてない。
でも感激したのは本当。
陸とは違う世界は、自分が見ているものが全てではないって教えてくれる。
こんなにすごい生態系が、人間が生きることのできない海の中にあるなんて。
「気候変動のせいで8月になっても台風が来なくて海水温が下がらない」
インストラクターさんが言っていた。
たしかに白くなっている珊瑚もかなり目についた。
死んでしまってるんだそうだ。
小学生の頃に“地球を守ろう“とポスターに書いたことを思い出した。
あれから30年も経っているのだ…。
海の中を漂うこと小一時間。
感激と人間の業の間で揺れていたら、体が冷えてきた。
陽が少し傾いただけで、水温も下がる。
自然は素直。
そして体も素直。
冷えた体に尿意がほと走った。
え?みんな大丈夫なの??
私はソワソワを悟られないように陸に上がる時間を待った。
永遠かと思われた時間も終わりは来る。
「お疲れ様でした。お茶どうぞ」
他の方達が次々受け取る中、勧められたカップを丁重にお断りする。
だって私はトイレに行きたくて仕方ないから!
これは別バージョンのいざという時。
このあたりから記憶が曖昧である。
「水シャワー浴びに行こうか」
彼は何も知らずに楽しかったねと笑顔だ。
うら若い乙女ならば言えないことも40代は言える。
「私おトイレ行きたいの!トイレあるかな!」
おばさん最高!
かくしてトイレはシャワーの横の建物にあった。
駆け込む私。
ギリ!多分、間に合う!
って、ラッシュガードが邪魔!
そしてワンピ型の水着ってどうしてこんなに濡れると脱ぎにくいんだ!!
くっそラッシュガード着るならビキニでもよかったじゃないか。
無事、大人の尊厳を保つことができました。
彼に聞いた。
「みんなさ、体冷えるのにトイレ行きたくならないのかな?」
「海でするやろ」
「え!?」
「サーフィンやってた時とかみんなそうだったで。ウェットスーツ着てすると、暖かくなっていいんや」
「やーだーーーー」
「今日はしてないで、ほんまほんま」
私…。
ちょっと海水飲んじゃったんだけど。