時代劇レヴュー⑤:戦国最後の勝利者・徳川家康(1992年)
※2022年2月に大幅改訂(→「独眼竜の野望・伊達政宗(1993年)」は「続・時代劇レヴュー㊺」に移動)
タイトル:徳川家康・戦国最後の勝利者
放送時期:1992年1月3日
放送局など:テレビ朝日
主演(役名):北大路欣也(徳川家康)
原作:山岡荘八
脚本:志村正浩
1980年代から90年代前半にかけて、民放各局はこぞって年末年始に長編時代劇を作成していた。
今では考えられないくらい連日時代劇が放送されていたのであるが、そうした流れに最後に参入したのがテレビ朝日であり、1月3日がその放送枠であった(シリーズ名は「新春大型5時間時代劇スペシャル」)。
余談ながら、ニ、三時間の比較的短めの作品はともかく、局全体を挙げて年末年始特番の目玉として作成していた長編時代劇は、暗黙の配慮があったのかどこの局も放送日が重ならないようになっていて、日本テレビは大晦日(年によっては12月30日、31日の二夜連続)、TBSは元日、テレビ東京が1月2日、そしてテレビ朝日が前述のように1月3日と言った具合である。
テレビ朝日が五時間に及ぶ長編時代劇を1月3日放送するようになったのは1991年からであり、1993年から翌1994年頃には時代劇は下火になりかけていたので、元々のスケイルで作成された五時間時代劇は三本だけで、他の局に比して作品数は随分と少ない。
その内訳は、1991年が松平健主演の「戦国乱世の暴れん坊・斎藤道三怒涛の天下獲り」、1992年が「戦国最後の勝利者・徳川家康」、1993年が「独眼竜の野望・伊達政宗」であり(このシリーズは他局に比べてタイトルがやたらと長いのが特徴である)、今回取り上げるのは第二作の「徳川家康」である。
カネのある頃の作品であり、脚本もヴェテランの志村正浩が担当していることもあって本作は概ね面白く、かつすっきりと作られており、娯楽色がほど良く入った歴史物語として長時間の視聴に耐え得るものになっている。
所々で微妙に史実と違う所があり、ヴィジュアルに関しても、特に甲冑考証はかなり適当であるが(同時期の作品と比べても結構ひどいレヴェル)、前述のようにドラマとしては面白く、山岡荘八の原作の雰囲気はよく伝えている。
ドラマの内容は家康の前半生が中心で、秀吉に臣従して大坂城で会見するあたりで話は終わり、その後エピローグ的に関ヶ原の戦いが挿入される程度である。
後半はかなり展開が駆け足であるが、原作の分量と五時間でまとめることを考えるとやむを得ないであろうか。
もっとも、原作も小説として面白いは前半部で、後半は精彩を欠き、説教臭さがやたらと強調される感があったので、個人的にはこのペース配分は気にならなかった。
家康を演じていた北大路欣也のキャラクタのせいもあってか、原作の説教臭い部分がだいぶマイルドになっていたあたりは、むしろドラマの方が好印象である(笑 山岡荘八の小説に概して言える所であるが、小説としては決してつまらないわけではないのであるが、特有のくどい説教臭さがあって私はどうも彼の作品が苦手である)。
キャストの感想を書くと、まず今でこそ味のある「いい役」を演じることが多いが、この放送当時は悪役か変質者役ばかり演じていた石橋蓮司が、苦悩する忠臣・石川数正を演じているのは何だか珍しい(このシリーズでは彼は重要な役を演じることが多く、この翌年に放送された「伊達政宗」でも味のあるいい徳川家康を演じている)。
「悪役」と言えば、他にも鳥居忠吉役が青木義朗、本多忠勝役が立川三貴、榊原康政役が藤堂新二と言うように、悪役を演じることの多い俳優が徳川家臣団の役で多く出演していたのも面白い。
その他にも、井伊直政を石原良純が演じていたり、原作よりもスポットが当たる家臣が多めだったのは、個人的には好印象であった(原作では本多重次と数正ばかりが目立って、それ以外は徳川四天王であっても「その他大勢」みたいな扱いなので)。
家臣団以外のキャストで目を引いたのは、豊臣秀吉演じる風間杜夫である。
風間杜夫は個人的にかなり好きな俳優なのであるが、いつもながら硬軟どちらの演技も見事にこなし、ヒール役としての秀吉の憎々しい感じが出ているのも非常に良かった。
彼は誠実で生真面目な役だけでなく、役によってはアクの強いキャラクタを演じる時があるが、この悪い秀吉が意外なほど見事にはまっているのは流石にうまい。
もう一つキャスティングで言うと、細かいことであるが、織田信長役の高橋英樹と今川義元役の名和宏、この二人は二年後に放送されたテレ東の正月時代劇「織田信長」でも全く同じ役で出演していているので、見ていて「おやっ」と思ってしまった(ちなみに、原作も同じ山岡荘八で、脚本も同じく志村正浩のため台詞も一部共通している)。
後は磯部勉演じる明智光秀が、「キンカ頭」と呼ばれたことを意識したのか、登場時から最後まで妙に毛量の少ないかつらをかぶっていて、何だか見慣れない感じがした(笑)。
以上のように、細部では突っ込み所もあるが、全体的に見ると面白く、いかにも「古き良き時代」の作品と言う感じがして、楽しく見られる反面、もうこう言う景気の良い時代劇を見ることはかなわないのだろうなと言うちょっとさびしい気分にもなってしまう。
なお、本作は2019年現在ソフト化はされていないが、今からでもDVD化が待たれる作品である。
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