続・時代劇レヴュー㉝:ご存知!旗本退屈男(1988年~1994年)
タイトル:ご存知!旗本退屈男
放送時期:1988年8月~1994年1月(全九作)
放送局など:テレビ朝日
主演(役名):北大路欣也(早乙女主水之介)
原作:佐々木味津三
脚本:高田宏治、志村正浩、佐藤繁子、高部彰一郎、藤井邦夫
本作は、かつてテレビ朝日が番組改変の時期に不定期で放送していた「時代劇スペシャル」(二時間ドラマの時代劇版みたいな作品)内の一企画として放送されたもので、1988年の第一作から1994年まで全部で九作品が製作された(第二作以降は、タイトルの後に「Ⅱ」「Ⅲ」と言うようにローマ数字の番号が付く)。
佐々木味津三の代表作「旗本退屈男」シリーズの映像化の一つで、同シリーズは主演の北大路欣也の実父・市川右太衛門の代表作でもあったので、いわば「親子二代」に渡る主水之介であり、また右太衛門の映画版(右太衛門はテレビシリーズでも「旗本退屈男」の主演を務めている)の用人・笹尾喜内役であった堺駿二の実子・堺正章が本作では喜内を演じており、「二世」同士による共演と言う点でも話題となった。
五代将軍徳川綱吉の元禄時代を舞台に、綱吉より「天下御免」を許された直参旗本・早乙女主水之介が、得意の剣技で様々な事件を解決していく痛快娯楽時代劇で、タイトルの「旗本退屈男」と言うのは、太平の世にあって絶えず退屈を持て余していることからついた主水之介の異名である。
愛刀「平安城相模守」による「諸羽流青眼崩し」と言う無敵の剣法を使い、常人離れした能力でもってどんな危機でも切り抜けるのは、この手の時代劇の主人公にありがちであるが、額についた三日月形の刀傷と、派手な出で立ちと言う主水之介のトレードマークは、往年の時代劇ヒーローの中でも屈指の異彩を放っている。
物語自体は、全作概ね二時間(最終作だけ三時間)と通常の連続時代劇よりも長尺のせいもあって、毎回外様の大藩(前田家や伊達家、島津家)だったり、幕府転覆の陰謀だったりが絡むスケールの大きなものであるが、筋立て自体は荒唐無稽かつ単純で、そこまで捻った作風のものもなく、内容そのものよりも北大路欣也の豪快な演技と殺陣を楽しむことにむしろ主眼が置かれている観がある。
個人的に面白いと思うのは、全てではないが各作の悪玉の黒幕が、柳沢吉保・牧野成貞・酒井忠清・成瀬正幸(尾張藩附家老)など、実在した幕府の権臣だったり大藩の家老だったりする点であるが、史実に反して彼らはいづれも綱吉暗殺を企てて主水之介に成敗されている。
また、最終作は1994年の1月3日の新春スペシャルとして、シリーズ最長の三時間枠で放送され、豊臣秀頼が南の島(東南アジアのどこか?)で生きていることになっていたり(実際には別人になりすましなのであるが)、黒幕が由比正雪の遺児(これは架空の人物)だったりと、放送時間に合わせてかかなり話のスケールも大きいのであるが、流石にここまで来るとやり過ぎであろうか(笑)。
ストーリーは突っ込みどころも多いのであるが、まだテレビ時代劇が元気が良く、予算もふんだんに使えた「古き良き時代」の空気を存分に感じられる作品で、そう言う点でも今見ても十分に面白い作品である。
好みはあるかも知れないが、個人的には本作や「丹下左膳」のような、特徴的なヒーローが活躍する大衆時代小説がベースの古典的作品は好きである。
「好み」と言えば、毎回登場するレギュラーのうち、主水之介の妹・菊路役だけは途中で古村比呂から五十嵐いづみに変わっているが(最終作のみ五十嵐いづみ)、私は五十嵐いづみの方が好きなので最初から菊路は彼女で見たかったと言う気もする(古村比呂が悪いわけではないが)。
なお、北大路欣也は、本作以外にも2001年7月~11月にフジテレビで放送された連続ドラマでも早乙女主水之介を演じているが(この直前に市川右太衛門が死去したために、「市川右太衛門追悼企画」と銘打たれている)、本作とはストーリー上のつながりはなく、キャストも北大路以外は全て変更されており、また何故か舞台も十一代将軍徳川家斉の治世へと変更されている。
また本作と同じ原作を使用した作品としては、他にも1970年にフジテレビで放送された連続時代劇「旗本退屈男」があり、そちらでは髙橋英樹が早乙女主水之介を演じている。
髙橋英樹版は、主水之介の出で立ちが北大路版に比べると幾分地味な感じであり、また原作とも北大路版とも異なる、眉間の三日月傷がついた経緯についてのオリジナルエピソードが作られている。
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