続・時代劇レヴュー㉒:人形劇・三国志(1982年~1984年)
タイトル:人形劇・三国志
放送時期:1982年10月~1984年3月(全六十八回)
放送局など:NHK
声の主演(役名):谷隼人(劉備ほか)
原作:羅貫中(立間祥介訳『三国志演義』)
脚本:小川英、田波靖男、四十物光男
NHKで二年半にわたって放送された連続人形劇で、羅貫中の『三国志演義』をベースに、後漢末から三国時代にかけての英雄豪傑達の活躍を描いた作品である。
歴史を題材にし、放送時間も45分と大河ドラマ並であるが、作風は勧善懲悪で、登場人物のキャラクタも演義よりデフォルメされていて荒唐無稽な描写も多く、放送時間が土曜日の夕方と言うことと考え合わせても、子供向けの作品であった。
また極端なデフォルメのせいもあって、史実とも演義とも異なる描写も多い。
その一方で、当時まだ三国志のメディア展開が珍しく、川本喜八郎が制作した美しい人形の影響もあって、大人のファンも多く、今なお人気を持つ作品でもある。
本作では、声優陣は著名な俳優が務め、また限られた俳優で多数の役を回しているため、一人が何役も務めており、そのため例えばともに岡本信人が声を担当している曹操と董卓が会話するシーンは、岡本の一人芝居となっている。
本作は劉備が明確に主役として設定されていて、谷隼人が声優を務めているが、上記と同様谷も他のキャラクタの声(程昱や馬謖など)を務めているため、厳密には彼が主演と言うわけではない(この基本設定は後年同じNHKが制作した「人形歴史スペクタクル・平家物語」でも踏襲されている)。
谷・岡本以外では、石橋蓮司(関羽、司馬懿など)、せんだみつお(張飛、陳宮など)、森本レオ(諸葛亮、呂布など)、松橋登(趙雲、孫権など)、三谷昇(龐統、魯粛など)らがメインキャストを務め、特に森本レオの諸葛亮がはまり役と評判が高く、以降彼に声の仕事が増えるきっかけとなった。
また子供向け番組を意識してか、毎回冒頭と末尾、シーンとシーンの合間には島田紳助・松本竜介のコンビが登場して諸々の解説を行い、両者が声優を務めるオリジナルキャラクタも作中では登場した。
これ以外の特徴としては、当時の人形劇としてはリアリティを追求した作りで、合戦シーンでは実際の火を使ったり、雨のシーンでは人形に実際の水を当てたりするなどの演出が施されている(作中で使われた人形の何体かは、長野県飯田市の川本喜八郎人形美術館で展示されている)。
前述のように勧善懲悪路線に持っていくために、史実とも演義とも異なる描写も見られ(徐庶が不当に曹操に殺されたり、呂蒙がやたらと悪辣な人物に描かれていたり)、また特に魏側の人物には、全く登場しなかったり、ほとんど登場シーンのない人物が多い。
例えば、夏侯惇は西涼の馬超を攻める際に初めて登場し、隻眼となるエピソードも馬超軍の矢によって射られる設定に代わっている。
また曹操配下の参謀たちが一度に登場せず、郭嘉が死去した後に入れ替わるように程昱が登場し、曹操晩年には司馬懿が参謀の役割を一手に引き受けており、荀彧・荀攸の両名は参謀としての活躍はまったくなく、晩年の曹操に諫言する役割としてのみ登場する(史実とも演義とも異なる設定として、許攸が史実よりも長生きし、郭嘉死後しばらくの間、曹操の参謀的役回りをつとめている)。
他にも賈詡は曹操死後にようやく登場し、かつ参謀としての役割はこれまたほとんどなく、史実での彼の活躍は程昱と司馬懿に代わっている(この点、賈詡が好きな私としては大いに不満であるが 笑)。
このように、演義以上に蜀漢に厚く魏に薄い傾向はあるものの、大筋は演義のストーリー通りに進み、日本の多くの演義をベースにした作品がそうであるように、五丈原の戦いにおける諸葛亮の死去をもって物語は終わっている。
また理由は定かでないが、作中の人物の大半が姓名で呼ばれる中で、劉備・諸葛亮・司馬懿の三人だけが字で呼ばれている(特に孔明などは字の方が通りが良いからだろうか?)。
なお、本作は完全版DVDがリリースされており、現在でも視聴は容易である。
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