時代劇レヴュー⑧:眠狂四郎シリーズ(大映、市川雷蔵版、1963年~1969年)

「時代劇」と言いながら、これまで史実をベースにした歴史劇ばかりだったので、たまには娯楽要素の強いチャンバラ時代劇も。

放送時期:1963年~1969年(全十二作)

放送局(制作会社)など:大映

主演(役名):八代目市川雷蔵(眠狂四郎)

原作:柴田錬三郎

脚本:星川清司(一~七作、十一作)、伊藤大輔(八作)、高岩肇(九、十、十二作)、宮川一郎(十二作)


柴田錬三郎の原作でお馴染みの眠狂四郎、独特のキャラクタで人気を博し、度々映像化されているが、その代表格とも言えるのが市川雷蔵主演で大映で映画化されたこのシリーズである。

眠狂四郎は、転びバテレンと大目付の娘の間に生まれた混血児で、その生い立ちの暗さもあってニヒルで虚無感を持ち、そこに柴錬のダンディズムが加えられた、ひねくれているけど不思議な魅力のあるキャラクタである。

剣術の達人でもあり、円月殺法と言う独自の剣法を使う。

従来の時代劇のヒーローと違って、正義感もなければ大義に生きるわけでもなく、自らを「無頼」と称して平然と人を斬るし、これまた伝統的な時代劇のヒーローとは違って色事も得意であるが、権力を憎み(悪役に将軍の落胤ら娘が多いのも特徴)、弱い者や貧しい者に優しく、意外に「いい人」な所もある。

雷蔵以外にも、鶴田浩二、松方弘樹、平幹二朗、田村正和、片岡孝夫(現・仁左衛門)など色々な俳優が演じているが、個人的にはやはり雷蔵の眠狂が独特の雰囲気があって白眉である(次点で片岡孝夫、原作者の柴錬は田村正和がお気に入りだったらしいが)。


この大映の雷蔵版眠狂四郎は、眠狂の映像化作品の中でも一際有名なだけでなく、雷蔵の当たり役であり、惜しくも雷蔵が早逝したため十二作で終わっているが、彼が存命であればもっと多くの作品が作られたであろう。

十二作品のラインナップは以下の通りである。

1.眠狂四郎殺法帖(1963年11月2日公開)
2.眠狂四郎勝負(1964年1月9日公開)
3.眠狂四郎円月斬り(1964年5月23日公開)
4.眠狂四郎女妖剣(1964年10月17日公開) 
5.眠狂四郎炎情剣(1965年1月13日公開)
6.眠狂四郎魔性剣(1965年5月1日公開)
7.眠狂四郎多情剣(1966年3月12日公開)
8.眠狂四郎無頼剣(1966年11月9日公開)
9.眠狂四郎無頼控 魔性の肌(1967年7月15日公開)
10.眠狂四郎女地獄(1968年1月13日公開)
11.眠狂四郎人肌蜘蛛(1968年5月1日公開)
12.眠狂四郎悪女狩り(1969年1月11日公開)

この作品に限らず、基本的に眠狂は物語そのものよりも、作品の世界観や狂四郎のキャラクタを楽しむものだと私は思っていて、事実どの作品も筋立ては単純、かつ無茶苦茶な展開も多く、ストーリーなどはあってなきようなもの(と言うと言い過ぎかも知れないけど)。

その中でも、個人的に一番面白いと思うのが五作目の「炎情剣」で、後は九作目の「無頼控」も映像が綺麗で割と好きである。

ストーリーの脈絡のなさと、これまた眠狂を特徴づけているエロティシズム要素多め(今から考えると信じられないくらいエロ要素多めの片岡孝夫版と比べると、どうと言うことはないかも知れないが)と言う点で言うと、四作目の「女妖剣」が一番眠狂らしい作風であろうか。

と言うか、一作目から順番に見ていると、このあたりからエンジンがかかってきたような感じがある。

一作目は、まだ手探りだったせいか、雷蔵自身作品の出来には不満で、評判も悪かったらしく、その雪辱的な意味で作った二作目は、打って変わって面白くなっているが(ちなみに、この二作目の「勝負」に登場する加藤嘉扮する勘定奉行が非常に良い味を出している)、他の作品にも共通する「眠狂らしさ」が出てくるのは四作目くらいからではないだろうかと思う。

逆に八作目の「無頼剣」は、脚本を担当したのが時代劇の巨匠と言うべき伊藤大輔で、彼の色が全面に出てしまったためか一番眠狂らしくない。

もっとも、内容的には「無頼剣」はシリーズ中で一二を争う面白さで、大塩平八郎の乱の絡めて展開するストーリーも、なかなか凝っているし、天知茂演じる敵役も存在感抜群である(反面、結果的に天知茂と雷蔵のダブル主演みたいな感じになってしまっているが)。

後、「無頼剣」は眠狂にしては珍しくヒロインが死なないと言うのも特徴的である。

シリーズ中のヒロインは、当時の大映のスター女優であった中村玉緒と藤村志保が二分しているが(シリーズ中、藤村が四作品と最も出演回数が多い)、私は藤村志保の方が好きである(中村玉緒はバラエティのイメージが強過ぎると言うせいもあるのだろうけど)。

中には、明確に「はずれ」かなと思うような作品もあるが(一作目は例外にしても、十二作目の「悪女狩り」は雷蔵の不調もあってシリーズ中では一番面白くなかった)、何よりも眠狂と雷蔵の魅力を存分に感じられると言う点では一見の価値のある作品群である。


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