北関東の石造物㊴:東根宝塔(東根供養塔)
名称:東根宝塔
伝承など:佐伯伴行夫妻造立の父母供養塔
所在地:栃木県下野市東根
栃木の真岡市から下野市に入って間もなく、県道44号の旧道沿いに建つ宝塔は、「東根供養塔」と通称されている。
塔身の四方に刻まれた銘文は、現在でも肉眼で判読出来、北面の銘文には鎌倉時代初期の元久元年銘と、造立趣旨が刻まれている(三枚目)。
それによれば、この宝塔を造立したのは佐伯伴行とその夫人の藤原氏で、伴行の父母を供養する目的によるものであり、「東根供養塔」と言う通称はそれに由来する。
さらに銘文には続けて、行事僧や造立した石工の名も刻まれている。
この宝塔は、在銘塔としては茨城県桜川市の祥光寺の宝塔(「北関東の石造物㊲」参照)に次いで古いもので(祥光寺塔造立の二年後)、形式や地域的にも近く、造立趣旨も同じであることから、祥光寺塔の影響を受けて造立されたものと考えられ、おそらく関わった石工集団も同一であろう。
銘文に登場する佐伯伴行は、おそらく在地豪族であろうが、その夫人の「藤原氏」は下野の有力御家人・小山氏の出身ではないかと思われる。
またこの地は、小山一族の長沼宗政の所領と隣接することから考えても、この宝塔の造立には小山氏が関わっていることが推測され、この宝塔の造立が、後に小山氏が造立する五輪塔群(「北関東の石造物⑰」「北関東の石造物⑱」参照)につながっていくのであろう。
鎌倉時代初期の在銘塔と言うだけにとどまらず、関東における石塔の伝播について様々な示唆を与えてくれる非常に貴重な石塔である。