一橋大学（1996年）
第１問
中世から近代にいたる西ヨーロッパの人口を正確にとらえることは困難であり、どうしても推計に頼らざるをえないが、歴史家による推計値はかならずしも一定していない。また、人口変動は当然ながら国や地域によって相異なった傾向を示す。とはいえ、長期的に見ると、西ヨーロッパ全体で明らかに次のような三度の大きな人口変動の波を確認することができる。
（1）14世紀前半を頂点とする人口増加とその後の減少
（2）15－16世紀の人口成長と17世紀の人口停滞
（3）18世紀後半以降の飛躍的人口成長
これら三つの大きな人口変動をひきおこした要因は多様でありうるが、人口増加を支えた経済的要因としてとくに注目しなければならないのは、農業における食糧増産である。上記の三時期のうち（1）と（3）とでは、食糧増産に結びつく農業の制度的ならびに技術的変化にどのような基本的相違があったか、述べなさい（400字）。
解説
グラフなどで図示化されていないので、文章をもとに頭の中にグラフを作って考えなければなりません。
特に、（１）は14世紀前半を「頂点とする」という表現が使われていますので、11世紀頃から始まって、14世紀に人口増加は頂点に達したということを示しています。
11世紀頃から始まった農業技術の変化や、農業制度の変化を書いていきます。
ちなみに14世紀中頃にペストが流行し、人口は減少に向かいます。
（１）でも（３）でもそうですが、「変化」の「相違」の問題であることを意識しなければなりません。
「相違」の方は、「変化」がわかれば自動的に解決するので（「変化」がわかれば何が違うかは読めば自明のものとなるから）、何から何に変化したのか、ということがわかる答案にしていく必要があります。
解答のポイント
①（１）については、11世紀から従来の二圃制（変化前）に代わって春耕地、秋耕地、休耕地に三分して輪作する三圃制（変化後）が普及して生産性が向上
②また、人力（変化前）から家畜を用いた重量有輪犂の導入（変化後）により、開放耕地制が拡大した。
③鉄製農具の質も向上し、水車も普及していった
④修道院を中心とした大開墾運動が始まり、オランダの干拓や、アルプス高地の開墾もあって耕地が拡大した
⑤荘園経営の合理化も進み、領主直営地が農民保有地に転換されて賦役が廃止されたことで、農奴の生産意欲が大きく向上した
⑥（３）については、17世紀からイギリスで三圃制（変化前）に代わって、大麦・クローヴァー・小麦・カブを輪作するノーフォーク農法（変化後）が普及
⑦また、議会立法による第二次囲い込みにより、食糧の増産が図られた
⑧これにより、従来のジェントリと小作人、独立自営農民によって生産が行われる農業形態（変化前）から、土地を失った農家が農業労働者となる資本主義的農業経営に変化（変化後）し、農業生産は大規模化した。（400字）
解答例
（１）については、11世紀から従来の二圃制に代わって春耕地、秋耕地、休耕地に三分して輪作する三圃制が普及して生産性が向上。また、人力から家畜を用いた重量有輪犂の導入により、開放耕地制が拡大した。鉄製農具の質も向上し、水車も普及していった。修道院を中心とした大開墾運動が始まり、オランダの干拓や、アルプス高地の開墾もあって耕地が拡大した。荘園経営の合理化も進み、領主直営地が農民保有地に転換されて賦役が廃止されたことで、農奴の生産意欲が大きく向上した。（３）については、17世紀からイギリスで三圃制に代わって、大麦・クローヴァー・小麦・カブを輪作するノーフォーク農法が普及。また、議会立法による第二次囲い込みにより、食糧の増産が図られた。これにより、従来のジェントリと小作人、独立自営農民によって生産が行われる農業形態から、土地を失った農家が農業労働者となる資本主義的農業経営に変化し、農業生産は大規模化した。（400字）
第２問
次の史料を読んで下の問いに答えなさい。
国の内外を問わず、われわれは決して警戒心を緩めてはなりません。しかし私は、このように言うとき、反共の名の下に行われるいかなる行き過ぎや不正にも賛成するものではありません。不幸にして、われわれの中には、不安やヒステリーや恐怖から、利己的な利益を得ようとして、アメリカ国民を前に争点を混乱させ、覆い隠し、あいまいにしようと望む人々もいるのです。これら、混乱から利益を上げようとする人々は、今や対外政策の分野において、また国内問題についても活動しております。
（アドレー・スティーヴンソン民主党大統領候補の選挙演説、1952年9月）
問 この演説が行われた世界史的背景を、アメリカ合衆国の国際環境・対外関係に即して、いくつか事例をあげて説明しなさい。（400字）
解答のポイント
①世界史的背景は米ソによる冷戦、大戦末期から米ソの利害対立が表面化
②戦後、チャーチルの鉄のカーテン演説により東西陣営に緊張感が高まる
③アメリカは1947年にトルーマン＝ドクトリンとマーシャル＝プランで封じ込め政策を打ち出した
④ソ連は47年にコミンフォルム、49年にコメコンを結成してこれに対抗
⑤チェコスロヴァキア＝クーデタやベルリン封鎖を経て、49年にはＮＡＴＯを結成し、西側諸国との結束を強化
⑥一方、アジアでは、1949年に共産党が国共内戦を制して中華人民共和国を建国し、敗れた国民党は台湾に逃れた
⑦また、50年には北朝鮮が大韓民国に侵攻し、朝鮮戦争が勃発、米軍が国連軍として動員され、北朝鮮軍や中国人民義勇軍と激戦を展開
⑧アメリカ国内ではマッカーシズムが猛威を振るい、共産主義や労働運動は弾圧、多くの者が公職を追放された
⑨こうした中で行われた大統領選で、対ソ巻き返し政策を提唱した共和党のアイゼンハワーが大統領に当選
解答例
世界史的背景は米ソによる冷戦。大戦末期から米ソの利害対立が表面化。戦後、チャーチルの鉄のカーテン演説により東西陣営に緊張感が高まる中、アメリカは1947年にトルーマン＝ドクトリンとマーシャル＝プランで封じ込め政策を打ち出し、ソ連は47年にコミンフォルム、49年にコメコンを結成してこれに対抗。チェコスロヴァキア＝クーデタやベルリン封鎖を経て、49年にはＮＡＴＯを結成し、西側諸国との結束を強化した。一方、アジアでは、1949年に共産党が国共内戦を制して中華人民共和国を建国し、敗れた国民党は台湾に逃れた。また、50年には北朝鮮が大韓民国に侵攻し、朝鮮戦争が勃発、米軍が国連軍として動員され、北朝鮮軍や中国人民義勇軍と激戦を展開した。アメリカ国内ではマッカーシズムが猛威を振るい、共産主義や労働運動は弾圧、多くの者が公職を追放された。こうした中で行われた大統領選で、対ソ巻き返し政策を提唱した共和党のアイゼンハワーが大統領に当選した。（400字）
第３問
下記の問い（ア）、（イ）に答えなさい。
（ア） 清とロシアとの間では国境を定める条約が幾度か結ばれ、そうしたなかで、両国の国境は次第にロシアに有利なかたちに改定されていった。清とロシアとの間に結ばれた条約のそれぞれの名前、その条約が結ばれた年、その内容を簡潔に述べ、両国の国境問題の歴史をまとめなさい。その際、下記の語句を必ず使用し（重複しても良い）、その語句に下線を付すこと。（280字）
黒竜江 沿海州 ムラヴィヨフ 外興安嶺
解答のポイント
①ロシアのピョートル大帝は、清の康熙帝と1689年にネルチンスク条約を結び、アルグン川と外興安嶺を境界とした
②続く1727年のキャフタ条約では、外モンゴルとシベリアの国境を確定した
③19世紀中頃、清朝の衰退が明らかになると、東シベリア総督のムラヴィヨフは、太平天国の乱やアロー戦争の混乱に乗じ、1858年のアイグン条約で黒竜江以北を獲得
④また、1860年の北京条約では、ロシアはアロー戦争の講和を斡旋した代償としてウスリー川以東の沿海州を獲得し、その南端にウラジヴォストーク港を建設
⑤さらに、新疆でのイスラーム教徒の反乱を契機にロシアはイリ地方に出兵し、1881年のイリ条約でその一部を獲得した
解答例
（ア）ロシアのピョートル大帝は、清の康熙帝と1689年にネルチンスク条約を結び、アルグン川と外興安嶺を境界とした。続く1727年のキャフタ条約では、外モンゴルとシベリアの国境を確定した。19世紀中頃、清朝の衰退が明らかになると、東シベリア総督のムラヴィヨフは、太平天国の乱やアロー戦争の混乱に乗じ、1858年のアイグン条約で黒竜江以北を獲得した。また、1860年の北京条約では、ロシアはアロー戦争の講和を斡旋した代償としてウスリー川以東の沿海州を獲得し、その南端にウラジヴォストーク港を建設した。さらに、新疆でのイスラーム教徒の反乱を契機にロシアはイリ地方に出兵し、1881年のイリ条約でその一部を獲得した。（280字）
（イ） 日清戦争後、中国東北地方の利権をめぐって、ロシアと日本との間には対抗的な関係が形作られていった。そのなかで、鉄道をめぐる問題が一つの焦点となってくる。この鉄道について簡潔に説明しなさい。（120字）
解答のポイント
①三国干渉の見返りにロシアは清から東清鉄道の敷設権を獲得
②1898年旅順・大連を租借すると、ハルビンと旅順を結ぶ路線を敷設
③日露戦争に勝利した日本は、1905年のポーツマス条約で東清鉄道支線の長春と旅順間を獲得し、南満州鉄道として大陸進出の足掛かりとした
解答例
（イ）三国干渉の見返りにロシアは清から東清鉄道の敷設権を獲得。1898年旅順・大連を租借すると、ハルビンと旅順を結ぶ路線を敷設。日露戦争に勝利した日本は、1905年のポーツマス条約で東清鉄道支線の長春と旅順間を獲得し、南満州鉄道として大陸進出の足がかりとした。（120字）