一橋大学（1993年）
第１問
教皇権が絶頂に達したのは、第4回十字軍をおこした教皇の時代といわれる。この教皇は東方だけでなく、ヨーロッパの内部にも十字軍を送っている。いわゆる異端討伐の十字軍である。これは、宗教と政治の双方においてともに重大な歴史的結果を生み出した。この十字軍の名称とそれを最初に主唱した教皇名を明らかにしつつ、その過程と結果を下記の語を用いて説明せよ（400字）。
カタリ派 ドミニコ修道会 ルイ9世
アルビジョワ十字軍だけで400字というのは厳しい要求のように思えますが、学習した事項をピックアップしていくとちゃんと書ける問題であるということがわかります。
解答のポイント
①アルビジョワ十字軍は教皇インノケンティウス３世の提唱で行われた
②アルビジョワ派はマニ教の影響を受けた二元論や極端な禁欲を説くカタリ派系の一派
③南フランスのアルビやトゥールーズを中心に勢力を拡大していた
④アルビジョワ派は教皇の権威を否定したため、インノケンティウス３世はこれを異端に
⑤フランス王フィリップ２世が教皇の提唱を受けて、アルビジョワ十字軍を開始
⑥異端審問を積極的に行ったドミニコ修道会の活躍
⑦フランス王ルイ９世によって完成され、アルビジョワ派は根絶
⑧政治的には、フランス王権が南フランスへと拡大するという結果
⑨当初、カペー家の領土は狭く、王権も弱体だったが、領土を拡大したことで王権が強化され、中央集権化を進める契機となった
⑩宗教的には、教皇が異端討伐により教権の安定化に成功
⑪異端審問に活躍したドミニコ修道会の勢力が拡大するという結果
解答例
アルビジョワ十字軍は教皇インノケンティウス３世の提唱で行われた。アルビジョワ派はマニ教の影響を受けた二元論や極端な禁欲を説くカタリ派系の一派であり、南フランスのアルビやトゥールーズを中心に勢力を拡大していた。アルビジョワ派は教皇の権威を否定したため、インノケンティウス３世はこれを異端とし、フランス王フィリップ２世が教皇の提唱を受けて、アルビジョワ十字軍を開始。異端審問を積極的に行ったドミニコ修道会の活躍もあって、フランス王ルイ９世によって完成され、アルビジョワ派は根絶した。政治的には、フランス王権が南フランスへと拡大するという結果をもたらした。当初、カペー家の領土は狭く、王権も弱体だったが、領土を拡大したことで王権が強化され、中央集権化を進める契機となった。宗教的には、教皇が異端討伐により教権の安定化に成功したことや、異端審問に活躍したドミニコ修道会の勢力が拡大するという結果をもたらした。
第２問
次の文章を読んで、下の問いに答えなさい。
…しかし、100年後のこんにち、黒人はいまだに自由ではない。100年後のこんにち、黒人は人種隔離という手錠と人種差別という鉄鎖に痛ましくも繋がれている。100年後のこんにち、黒人は広大な物質的繁栄のただ中に浮かぶ貧困という孤島で暮らしている。100年後のこんにち、黒人はいまだにアメリカ社会の片隅で暗澹とした日々を送っており、自分の国にいるのに流浪の身のように感じている。
我々は、今日、この恥ずべき状況を白日の下にさらけ出すためにここに集まった。ある意味で我々は、小切手を換金するためにこの首都に来たのだ。わが共和国の設計者たちが、憲法と独立宣言を格調高く書いた時点で、彼らは、全てのアメリカ人に振り出される約束手形にサインしたのだ。この手形は、全ての人に、そう、白人だけでなく黒人にも、生命、自由、幸福の追求という譲渡できない権利を保障することを約束したものである。…（Martin．L．King、Jr．“I have a dream”Speechより）
問 アメリカ合衆国の歴史の中で黒人はどのような立場にあったか、この演説内容を史実に即して説明しなさい（400字）。
解答のポイント
①黒人は、減少したインディオに代わるプランテーションの労働力
②大西洋三角貿易により西アフリカなどから奴隷として連行
③独立宣言や合衆国憲法では、黒人の権利は無視
④イギリス産業革命により南部の綿花プランテーションの重要性が高まると、奴隷制強化⑤やがて1860年代に自由州と奴隷州をめぐる対立から南北戦争が発生、奴隷解放宣言
⑥戦後、憲法修正第13条で奴隷制は廃止され、15条で黒人に投票権が与えられた
⑦しかし、南部諸州は通称ジム＝クロウ法と呼ばれる差別的な州法を制定
⑧これにより人種隔離政策の実施や、参政権を制限するための識字力テストの実施など、様々な差別
⑨また、解放された奴隷の多くは、シェアクロッパーとして酷使
⑩KKKなどによる暴行を受けた
⑪1960年代にキング牧師を中心として公民権運動が盛り上がる
⑫ジョンソン政権で公民権法が制定されて差別立法は廃止されるが、その後も差別が続く
解答例
黒人は、減少したインディオに代わるプランテーションの労働力として、大西洋三角貿易により西アフリカなどから奴隷として連行された。独立宣言や合衆国憲法では、黒人の権利は無視され、イギリス産業革命により南部の綿花プランテーションの重要性が高まると、奴隷制が強化された。やがて1860年代に自由州と奴隷州をめぐる対立から南北戦争が発生し、奴隷解放宣言が出された。戦後、憲法修正第13条で奴隷制は廃止され、15条で黒人に投票権が与えられた。しかし、南部諸州は通称ジム＝クロウ法と呼ばれる差別的な州法を制定。これにより人種隔離政策の実施や、参政権を制限するための識字力テストの実施など、様々な差別が行われた。また、解放された奴隷の多くは、シェアクロッパーとして酷使され、KKKなどによる暴行を受けた。1960年代にキング牧師を中心として公民権運動が盛り上がり、ジョンソン政権で公民権法が制定されて差別立法は廃止されたが、その後も差別は続いた。（400字）
第３問
下記の問いに答えよ。
（ア） 現在、中央アジアは民族・宗教紛争に揺れ動いている。ところで、9世紀から12世紀にかけて、西アジア東方、南アジア北方を含む内陸アジアにおいて、今日の政治情勢と深く関係する一つの注目すべき現象が展開した。それはどのような現象なのか、当時の政治史を追いつつ解説せよ（200字）。
まず、地域についてです。
「西アジア東方、南アジア北方を含む内陸アジア」とはどこなのか。
西アジア東方、南アジア北方＝アフガニスタンですが、肝心なのは「含む」という表現で、この地域を中心として見ながら、「内陸アジアの広範囲で」見ていく必要があります。
次に、「今日の政治情勢と深く関係する」というのが何なのかを明らかにする必要があります。
「今日」というのは1993年の出題当時のことなので、この時期にさかのぼって考える必要があります。
まず当時、ソ連がアフガニスタンから撤退（1988～89）した後、でアフガニスタンではイスラーム勢力を中心とする内戦状態が続いていました。
イランとアメリカの対立、インド・パキスタン問題など、今日でも続く問題もありました。
これを念頭に置いた上で、「一つの注目すべき」現象なので、共通する一つのことを発見しなければなりません。
共通するのは「この地域のイスラーム化が進展した」ということでしょう。
では、なぜ内陸アジアのイスラーム化が進んだのか。
これがウイグルの西遷です。
京大の2016年の問題も、このウイグルの西遷をテーマとした問題を出題しています。
解答のポイント
①ウイグル人は中央アジアへ移動し、イラン系のサーマーン朝のもとでイスラームに改宗②マムルークとして軍事力の中心となった
③トルコ系王朝のカラハン朝はサーマーン朝を滅ぼし、東西トルキスタンのイスラーム化を進めた
④トルコ系のセルジューク朝はスルタンの称号を得てイスラーム世界を支配
⑤アフガニスタンに成立したトルコ系のガズナ朝やゴール朝がインド侵入を繰り返したことは、南アジアのイスラーム化が進む契機となった。
解答例
ウイグル人は中央アジアへ移動し、イラン系のサーマーン朝のもとでイスラームに改宗。マムルークとして軍事力の中心となった。トルコ系王朝のカラハン朝はサーマーン朝を滅ぼし、東西トルキスタンのイスラーム化を進めた。トルコ系のセルジューク朝はスルタンの称号を得てイスラーム世界を支配。アフガニスタンに成立したトルコ系のガズナ朝やゴール朝がインド侵入を繰り返したことは、南アジアのイスラーム化が進む契機となった。（200字）
（イ） 清帝国の周辺にはいくつかの朝貢国・藩属国が存在し、外圧にたいする緩衝地帯の役割をはたしていた。19世紀後半には、“西からの衝撃”によってこれら周辺諸国がつぎつぎに清帝国の統制を離れていった。そのような変化を示す具体的事例について、下記の語を用いて説明せよ（200字）。
黒旗軍 ユエ条約 李鴻章
解答のポイント
①東南アジアでは、ビルマがイギリスとの三度にわたる戦争に敗北してインド帝国に併合
②ヴェトナムは、フランスの進出を受けてユエ条約で保護国に
③清が宗主権を主張して清仏戦争が勃発
④清は黒旗軍と結んで戦うが、敗北して天津条約でヴェトナムの宗主権を放棄
⑤琉球は、日本と清に両属していたが、台湾出兵により宗主権を失った
⑥また、日清戦争では李鴻章を全権とする下関条約で、清は朝鮮の宗主権を放棄した。
解答例
東南アジアでは、ビルマがイギリスとの三度にわたる戦争に敗北してインド帝国に併合された。ヴェトナムは、フランスの進出を受けてユエ条約で保護国となったが、清が宗主権を主張して清仏戦争が勃発。清は黒旗軍と結んで戦うが、敗北して天津条約でヴェトナムの宗主権を放棄した。琉球は、日本と清に両属していたが、台湾出兵により宗主権を失った。また、日清戦争では李鴻章を全権とする下関条約で、清は朝鮮の宗主権を放棄した。（200字）