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第一死没日0804_夢の手記

オレは今日、死んだ。

朝まで何かと作業に追われ、すっかり明るくなった世界に反比例するように、気づけば目頭裏に潜む四次元空間へと堕ちていた。夢の世界である。

既に今朝の夢のディティールは薄れていく一方だが、記憶をたどるにパルクールをGoProで撮ったような主観的映像。仲間っぽい様相の2人と未知の連合軍に追われており、外壁のような、積まれたコンテナのようにも見える隔たりの裏に逃げ込んだところを、輪になった縄が首にかかり、気づけば別世界へとトリップしていた。横には、幼馴染のムタがいた。

ゆっくりと、歩く。

あたたかくて、やさしい。
パステルなピンクとオレンジの世界。

しばらく歩いただろうか。アレ、どうなって今ここにいるんだっけ?と問いかけると、ムタから「お前は死んだんよ。」と告げられる。へー、オレ死んだんだ。マジか。言い回しと表情から汲みとるに、彼は死んでいないようだった。最期の連れ添い人という役割を付与された、実態を持たない影だったのかもしれない。

こういうときって結局どんなリアクションを取るのが適当なんだろう。分かんないままだったな。と思いながら「そうか。」とだけ口にした瞬間、まるで宇宙が広がっていくように得体の知れない感情が湧いて迫ってきた。死ぬ覚悟が無かった人間が、急に死んだのだ。走馬灯は駆け巡らず、何も成せなかったことや全てが中途半端であること。大切な人たちの存在。ソレらがバーっと溢れて出てきて、めちゃくちゃ死にたくなかったことを実感した。こういった場合、まーしょうがないな。と、結構割り切れる方だと自負していたが、まるで整理はされず、死んだことがただただ悔やまれて、悔やまれて、悔やまれた。

文字通り膝から崩れ落ちて、嗚咽するように泣いた。息と言葉にならない音を漏らすばかりで吸えていなかったのだろう。これ以上吐くものの無い苦しさとともに目を覚まして、乱れた呼吸を取り戻した。生きていることに安堵した。そうか、生きたいのか。オレは、生きたいのだ。生まれたときから地獄のようなこの世界でも、生きたいのだ。

蒸し暑い真夏の寝室が、初めてオレに寄り添って抱きしめてくれた気がした。

自分史上、一番強烈に辛かった夢かもしれない。落ち着かないままフラフラと、震えた手でタバコを咥えて玄関口へと出る。16ビートくらい脈打つのが分かる。

まだ整理ができない中ふと、こんな夢体験でさえも、どんどん内容が思い出せなくなるのだろうと思った。なぜ、夢はどんどん薄れてしまうのか。現実世界で起きたことの薄れ方と、まるで感覚が違う。今目の前で立ち上がっては消えてゆくこの煙のように、如実に薄まってゆく。

思うに、やっぱり二つの世界を両方背負いながら生きるのは無理だからではないか。という結論に現状至った。

ただでさえ、生きていくだけで精一杯な現世である。もうひとつ、夢の世界も背負って生きていってねー。なんてどこぞの神にでも言われたら、それこそ明日を望む力を失い、絶望に伏してしまうかもしれない。

だから、あくまでも向き合って必死に生きてゆくのは現実世界にしとこうねー。という弁証法的なことなのかもしれない。いや、弁証法は違うかもしれない。というか絶対に違う

オレは、一度世界の狭間で死んだ。

でも、現実世界で生かされている。息をしている。脈を打っている。多分ジムキャリーのように覗かれた世界でもない。セーブデータもリセットもない、多次元での転生込みの一回きりの人生。そのオレだけの事実を心の安ポーチに捩じ込んで、また今日からを生きてゆく。

最後の主流煙を吐き出して、ひとつ伸びをして、刹那を生き抜く準備に取り掛かる。背負う世界が一つで良かったと思いながら。

喝采。

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