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ポストコロナ観光に必要!?イミュニティ・パスポートってなに?


インバウンドに携わると、見慣れない言葉を目にすることが多い。その時々の世界情勢によって、新たなキーワードもトレンド入りしている。私たちはこれらの言葉一つ一つについて、どれだけ深く理解しているのだろうか。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第2回のキーワードは『イミュ二ティ・パスポート(Immunity Passport)』。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。

ー最近、イミュ二ティ・パスポート(Immunity Passport)という言葉をよく目にするのですがどういうものでしょうか。

「イミュ二ティ・パスポートとは、新型コロナウィルスへの免疫を証明するパスポートという意味です。日本語だと、免疫パスポート健康パスポートと呼ばれていることもありますね。

コロナ禍で国境を越えた往来がままならない中、免疫を持つ人から行動の幅を広げることで、経済活動の再活性化を実現できるのではないかという議論があります。

この言葉が、最近よく取り上げられているのは、そういった流れで注目されているからでしょう。」

ーー海外では、懐疑的な意見も多いようです。

「実際に実現できるかどうかという点でいえば、私も難しいのではないかと考えています。理由として以下の2点が挙げられますね。

1.コロナウイルスの正体が科学的に解明されていない

2.免疫・抗体の有効性が科学的に証明されていない

※どこまで感染を阻止できるのか、また効力を発揮する期間など

ポストコロナにおいては、受け入れる側の衛生状態と訪れる側の健康状態、その双方の可視化が重要になってきます。

免疫を証明するイミュ二ティ・パスポートがあれば、これを実現できるということですが、仮に、イミュ二ティ・パスポートを発行することができたとしても、その信頼性に疑念が残れば、期待通りの効果は発揮できないでしょう」

ーーなるほど。WHOはどのような意見を持っているのでしょうか。

「現時点では、WHOは各国政府に対して、「イミュ二ティ・パスポートを発行しないでください」 と呼びかけています

このパスポートを機能させるためには、世界各国で行われている抗体検査の結果を利用する必要がありますが、この段階で新型コロナに対する免疫・抗体の効果を証明する科学的根拠は存在していないのです。これがWHOが反対している最も大きな理由でしょう。」

ーー実現にはハードルが高そうです。

「そうですね。ただ、例えば、医療従事者が誹謗中傷や風評被害受けるようなことが各地で取り沙汰されましたが、感染の危険と隣り合わせで働いている人たちに対する偏見をなくすという意味でのイミュ二ティ・パスポートは、効果的ではないかと思います。」

ーー通常のパスポートには偽造など、セキュリティ問題がつきものだと思います。イミュ二ティ・パスポートのセキュリティについてはどうでしょうか。

「最近の日本旅券にはICチップが埋め込まれていますね。そしてICAO(国際民間航空機関 *1)により、旅行には必ずこのICチップ入りのパスポートが使われるように調整されています。ICチップはもともと、パスポートの偽造・変造への対策としてセキュリティーレベルを高めるべく導入されました。


(*1)
ICAO(国際民間航空機関)は,国際機関として193カ国が加盟。テロ対策のための条約作成や国際航空運送の安全・保安などに関する国際標準・勧告方式やガイドラインの作成を行っている。また、国際航空分野における気候変動対策を含む環境保護問題についても議論及び対策を進めている。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000755.html

どうしても海外に行きたいので、抗体を持っていることを証明したいと、イミュ二ティ・パスポートを偽造しようとする悪い人も出てきそうですね。新たな犯罪を引き起こす可能性もあります。

仮に、イミュ二ティ・パスポートが実現すれば、国や公的機関が管理することになると思いますが、これらの機関による情報漏洩はすでに問題になっていますね。個人の健康に関する情報が、ヒューマンエラーやサイバーテロで抜き取られる可能性は大いに懸念されるでしょう。

パスポートという言葉からは、フィジカルな証明書(紙ベースの旅券)をイメージしますが、安全性や利便性を考えると、顔認証や網膜認証など最先端のバイオ認証などを活用したデジタル・パスポートに転向していくべきではないでしょうか

感染拡大防止策の一貫でもあるイミュニティ・パスポートのコンセプトからすると、従来のパスポートのように紙ベースのものとなれば、人が何度も触れることになりますから、感染予防の点からは本末転倒となりかねません。

ーー他に気がかりなことはありますか。

「そうですね、イミュニティ・パスポートが引き起こす問題は、セキュリティだけに止まらないかも知れませんね。

このパスポートを持っている人は、免疫を保有しているので、社会的に安全。しかし、持っていない人は免疫がなく安全でない。などと言った、誤解や偏見を生む可能性があります。

また、イミュニティ・パスポートのコンセプトは、新型コロナに対する免疫を証明するためのものということですから、このパスポートを持っていても他のウイルスや伝染病を持っていないという証明にはならないわけです。

そのあたりにも問題となりうる要素が潜んでいるかも知れません」

ーー最後に、イミュニティ・パスポートが国際規格として採用されるには何が必要なのか聞かせてください。

「まず、国際規格を実現するためには、様々な国際組織と連携する必要があります。

ここで触れるべき国際組織には、ICAO(国際民間航空機関)、IATA(国際航空運送協会)、ACI(国際空港評議会)などが挙げられるでしょう。

国際組織には、政府間か民間かという違いがあります。例えば、ICAOは、加盟国の政府によって構成されているのに対して、IATAやACIは航空会社によって構成されています。

仮に、WHOがイミュニティ・パスポートを認め、加盟国に対して、『国際規格としましょう』と通達(*2)をしてくれるのであれば、国家間の議論は進めやすくなります。それでも最終的な決定権は各国政府に委ねられていますが。

ただ、現実にこれが起きるためには、新型コロナの正体が解明され、イミュニティ・パスポートの有効性が科学的に証明されること。さらには、WHOで議論された上で、採択されなければいけません。

つまり、現状では、これらのプロセス全てが、『課題』であると認識していいでしょう」

(*2)
あくまでも通達であり、加盟国への指揮権は持たない。


高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、外務省国際文化協力室長としてUNESCO業務全般を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。

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