世界目線で考える。新型コロナ状況下の世界遺産編
世界では、多くの社会活動が新型コロナウイルス感染症(以下、COVID−19と称する)の影響によって困難な状況となっている。文化、芸術、教育などの分野の活動も例外ではない。
ここでは、国際連合教育科学文化機関(以下、UNESCOと称する)の至近の興味深い取り組みを2つ紹介する。
●オンラインで文化と人をつなげる
「1121」、これは現在、世界に存在するUNESCO世界遺産の数である。このうち、89%のサイトがCOVID-19の影響で、管理当局により完全もしくは部分的に閉鎖された状況になっている。
例えば、世界文化遺産として、毎年多くの人々が訪れるペルーのマチピチュ遺跡もその一つである。一方で、中国の安徽省、黄山の世界文化遺産では新型コロナウイルスで冷え込んだ地元経済を刺激しようと当局が無料開放したところ、観光客が殺到するという現象も起きている。
世界には素晴らしい文化遺産や自然遺産が存在するが、その多くは実際に足を運んでみて、初めて「顕著な普遍的価値」を体感できる。しかし現在、そのような体験をすることは、困難な状況となっている。
そうした中、パリのUNESCO世界遺産センターは、世界的なソーシャルメディアキャンペーン『#ShareOurHeritage』を立ち上げた。COVID-19の影響で閉鎖している世界遺産の各サイトへSNSを通じてアクセスを促そうという取り組みだ。
具体的には、各国の世界遺産のサイトマネージャーなどによる世界資産の案内や現状の報告に加えて、その周辺の地域コミュニティーに対するCOVID-19の影響や地域の取り組みを紹介する。
差し迫った危機が終われば、『#ShareCulture』と『#ShareOurHeritage』の2つのキャンペーンは維持され、世界遺産の保護と持続可能な観光の促進策についての考察がオンラインで共有される。
●世界中が芸術を祝福する日を設立
2019年のUNESCO総会において、アートの発展、普及、楽しみを促進するための祝典であるWorld Art Day(世界芸術の日)が宣言された。
記念すべき第1回は、2020年4月15日。エレクトロニックミュージックのパイオニアであるユネスコ親善大使のJean-Michel Jarreと協力して、オンラインの討論やソーシャルメディアキャンペーンである『ResiliArt Debate』が主催され、アーティストや俳優などが集まり、文化に携わる人々の生計に対するCOVID-19の影響についての議論と発信が行われる。
このディベートは、クリエイターとクリエイティブ・コミュニティーが危機を克服するのに役立つポリシーや資金調達に関する情報を提供することを目的としている。
世界中のクリエイターやクリエイティブ・ワーカーは、ソーシャルメディアを通じて『ResiliArt Debate』に参加し、ロックダウン状況下において制作した作品を互いに紹介する機会を得ることができる。
「今や、これまで以上に人々は文化を必要としている」というUNESCOの主張に耳を傾け、積極的に議論に参加し、この世界的な危機を乗り越えるために自身でできることを行動していきたい。
高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント
1989年 外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。