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世界幸福度報告ってなに?

数年前だが、ブータンが国民総幸福量(GNH)を指標として掲げ「世界一幸福な国」として話題になった。GDP(国内総生産)は尺度の一つであり、絶対ではないとの新しい見方が提示されたのだ。「豊かさ」の定義によって世界の見え方は大きく変わってくる。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第18回では『世界幸福度報告 (World Happiness Report)』について取りあげる。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。


ーー「世界幸福度報告」とは何でしょうか

「米国のコンサルティング会社、ギャラップの提供データを元にさまざまな研究者の協力を得て、国連の『持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)』によって出版されています。ここでの報告内容は、特定の組織や代理店、国連プログラムの意思を反映せず、中立な立場が取られています」

ーーそもそも特定の国における「幸福度」とは一体なんなのでしょうか。少し漠然としている気もします

「一般的に『幸せ』とは友人がいたり、興味関心・志を共有できるコミュニティや自分が思い描いていることを具現化する基盤がある状態だと思われていますが、ここでいう『幸福度』は違うものだと私は思います。本来、人間は誰しもが幸せであるべきですが、世の中にはそれを阻む要因がたくさんあるんです。

例えば、台風や地震などの天災、クーデターやテロなどの人災、これら外的な要因によって『幸せではない』状態になる人たちがいますよね。それでも、その『不幸』を感じさせることのない社会基盤があるかどうかがこの『幸福度』における本質なのではないかと思います」

ーー2020年の最新版をみると、首位がフィンランド、そして順にデンマーク、スイス、アイスランド、ノルウェー、オランダ、スウェーデンと続きます。ほとんどが北欧諸国です

「これらの国々は税金は高いですが、社会保障の基盤がしっかりとしています。病気にかかった時、ケアしてくれるかどうか。基本的な教育が行き届いているかどうか。職を失った時でも生活が保証されているのかどうか。こういった不安を和らげることに成功しているのだと思います。

私が思うに、人間には病気・飢餓・失業という『3大不安』があります。ランキングの最下層にあるアフガニスタンや南スーダン、ジンバブエといった国々ではこれらの不安要素が強いということになります」

ーー北欧諸国の人々は不安が少ないということなんですね

「そうです。何もフィンランドに夢の世界が広がっているというわけではないんです。『幸福度ランキング』というと少し、語弊がある気がしています。厳密には『不安が少ないランキング』ではないでしょうか」

ーー日本の結果が芳しくないですね

「そうですね。2018年が54位、2019年が58位、そして2020年が62位と年々順位を下げています」

ーー何を元に評価しているのでしょうか

「まず、人生における幸福度を1から10の段階で自己評価し、その平均値を割り出しています。そこにGDP per capita(一人当たりのGDP)をかけています。他には、

・健康的な平均寿命(元気に自立して過ごせる期間)
・困った時に助けてくれる親戚や友達の有無
・人生における選択の自由があるか
・GDPにおける寄付実施者の度合い
・政府機関に腐敗が蔓延しているかどうか
・昨日は楽しかったかどうか

といった点が考慮されています」


ーー何が日本の評価を下げているのでしょうか

社会における『寛容さ』や『主観満足度』が低いようです。ここでの『寛容さ』とは1ヶ月以内にどれだけの寄付をしたかが基準となっています。日本は確かに寄付文化が根付いていません。特に『慈しみ』の精神を重んじるキリスト教国と比べると大きな差がついています。

例えば、文化財の修復についてもヨーロッパの人々は寄付を惜しみません。これはドイツに住んでいた私の実感値でもあります。以前、アウクスブルクという街のとある教会でパイプオルガンの修理が必要となり寄付を募りました。その費用は日本円にして約1億5千万円。それでも3ヶ月で満額に達したんです。

行政や企業が介入することもなく、民間レベルでここまでの寄付が集まる様は、私にとって非常に印象的な出来事でした。

『主観満足度』とは自分が人生をどれだけ謳歌できているか、という判断基準です。日本は欧米に比べるとまだ休暇も取りにくいと感じます。夏休みやゴールデンウィークの分散化も、以前から議論されていますが、未だに実現できていません。

旅行するとしても、大型連休は旅費も値上がり、至る所で混み合い、おまけに仕事との折り合いもつけなければならず、苦悩でしかないという状況になりがちです。観光地側にしてもみても、書き入れ時に一気に稼ぎたいはずですし、そういった時期は確実に繁忙します。

休暇が分散されれば、これらの不釣り合いが解消され、サーキュラーエコノミー(循環する経済)が実現されるのです。少し話が逸れてしまいましたが、こういった観光の視点においても、日本人が人生を謳歌できない原因が垣間見られますよね」

ーー日本も課題が多そうです。とはいえ、「幸せとは何か」というと哲学的な命題のようにも思えてきますね

「そうですね。『幸せ』の正体を考える上で、ヒントになりそうな興味深い記事がありました。イギリスで職種別(1〜5種)に10段階評価で生活満足度調査を行ったところ、専門職(第1種)が単純労働(第5種)を0.5ポイント上回るという結果が出たそうです。これには、収入の差はもちろんのこと、専門職の生活における自由度の高さも大きな要因であることが指摘されています」

ーー日本のランキングを上げるためにはどうすればいいのでしょうか

「まず大前提として、幸せの感じ方は個人や国によって異なります。日本人が今からフィンランドに移住すれば、幸せになれるかというとそんなことはないんです。日本人が感じている幸せの度合いはこのような国際基準では測りきれない部分もあります。

アニミズムや自然崇拝といった日本独自の宗教観・世界観の中で、我々が何に対して幸せを感じるのかについてまず考える必要があります

『世界幸福度報告』は客観的な指標としては大変参考になりますし、この結果を受け、日本が改善していくべき点も多々あります。特に、先ほど触れた『人間の3大不安』は価値観・宗教観を問わず、全世界規模で解消されるべきことです。こういったランキングが無ければ、具体的な課題も解決策も見えてきません。

しかし、自分たちの幸せとは本来、自分たちの環境の中で育み、定義していくべきものです」

高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。2020年、宗像環境国際会議 実行委員会アドバイザー、伊勢TOKOWAKA協議会委員。

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