わかりやすく話す人は頭に汗をかいている
鴨頭嘉人のスピーチ・話し方を分析するシリーズ第6弾。
今回は『この人の話し方ってわかりやすい』を科学します。
話を聞いていて、まとまってる、わかりやすい、聞いていられる。そう感じる時ってありませんか?特にYouTubeで「知らないと損する5選」「成長しない人の特徴3点」「嫌われる人の話し方TOP3」というタイトルを見ると見てみようと思うものです。
では逆はどうでしょう?「知ってると得すること話します」「成長できる人の特徴です」「好かれる人はこう話す」と書かれていると、見たい気持ちが薄れてしまいます。
はじめに書かれていることは【ネガティブ情報+数字】で構成されています。こちらの方が人は興味を持ち、さらに見ようという気持ちになります。これは人の持つ脳が影響しています。脳の中でも『爬虫類脳』という生物の『生存本能』がこのネガティブな言葉と数字に反応するのです。
生存本能には『恒常性(ホメオスタシス)』、つまり『変わらなくていい』という機能が備わっています。つまり『変わることを嫌う』と言い換えも可能です。
職場環境が変わる、生活環境が変わる、いつも行ってるお気に入りの定食屋の味噌汁の具が変わる。そんな些細なことにも、人は『違和感』を覚えます。いつもと同じで良いのにが人間の本能レベルでの欲求です。
アメリカの精神科医が作成したストレス感じる場面を、ライフイベント、つまり生活の節目や変化の時に強く感じる場面からランキングしたものがあります。この上位に来るのが「配偶者の死」「離婚」「拘留」「個人のケガ」など、ネガティブと思われるワードが並びます。興味深いのは人から見れば、一見ポジティブに思われる「結婚」「夫婦の和解」「収入の増加」も含まれています。
このライフイベントの変化でストレスを感じる、から考えられるのは、人は変わることで『負荷=ストレス』を感じているということです。人は変化を自ら望んで求めません。しかしながら、変化をしないことで、より自分にストレスになる、損をする、時には生命の危険があると感じた時、変化をしようと人は動きます。そうです、『生存本能』とは、『できるだけ変わりたくない』けど『変わらないとヤバいことになる』という時に行動するという脳の働きを担っているのです。
あれ?これ鴨スピーチ研究所?はい、鴨スピーチ研究所。
そう、つまり鴨さんの話し方には、聴き手にとっての本能レベルでのデメリット情報、生きていく上で知らないと損だよ、という【オープニング】トーク。そしてそのために【3つ】などの具体的に【コンパクト】な日常の変化を促す行動を伝えることが多く動画で見られます。この【数字】と【コンパクトな行動】は人に、『やらないと損だけど、簡単にできる』という気持ちの変化を生みます。あとは聴き手がその行動に【挑戦】するか否かになります。
聴き手も「そうか3つか」と思うことで、頭の中のノートに「3つ」の段落を思い描きやすいので、話の内容を【持って帰りやすい】のです。逆に「この人の話はいつ終わるのだろうか」「えっ?他にもって言うてる、まだ話続くの?」「理由のひとつには、て言ったってことはまとまってない?」と感じる時は、聴き手はもう聴いていません。ぼくもこの項目を書きながら胸を押さえてます。ズキズキ。いいぞこれこれ。
つまり話し方が上手い人ほど、相手がどんなことをネガティブに感じていて、それでも変化できず悩んでいて、何か簡単な方法で、しかも3つくらい行動変化できるような、シンプルでかつコンパクトなことは何だろうか?ということを日常から常に【頭の中で汗】をしっかりとかいています。聴き手は【楽に聴く】ほうがいいのです。話す人が【楽をして話す】と聴き手は【疲れてしまいます】。聴いてもらえない状態です。
定型の話で例えると
商品をお客様の手に届けたいが、まだ我が社の認知は低い。そこで私は3つ、商品販売をする上での手段で考えたことがある。1つ目、店頭での販売拡大。2つ目、SNS広告を通じての販売拡大。3つ目、購入者の方の口コミからの販売拡大。を提案したい。であったりとか。
あなたお帰りなさい♪ごはんにする?お風呂にする?それともワ・タ・シ♪。であったりとか。
【3つ】並ぶということは【印象に残りやすい】という作用があります。『三』冠王とか、日本『三』景とか、『三』密とか。『三』国志とか。さわやか『3』組とか。戦国武将でホトトギスで例えられるのも三人ですからね。
あれ?これ鴨スピーチ研究所?はい、鴨スピーチ研究所。
今回はわかりやすくて行動もしやすい【3点タイプ】の鴨スピーチを分析していきます。約8分ほどの動画です。
2019/05/02公開
YouTuber鴨頭 伝説のスピーチ「人生が変わる3つの理由」平成30年度話し方の学校入学式
https://youtu.be/0X0s7SLfHmI
まずお伝えします。鴨さんの【3点タイプ】スピーチの探し方は簡単です。
YouTube検索の欄に[鴨頭 3]と入力して下さい。ぼくが検索して10秒ほど検索結果画面をスクロールするだけで8つの動画タイトルに「3つ」というワードが含まれてました。今回紹介する動画もその中で見つかった1つです。
それでは「人生が変わる3つの理由」のスピーチを分析しましょう。
まず【3点タイプ】スピーチの構成と流れです。
導入→1点目→2点目→3点目→まとめ
という構成で話が進みます。
ではまず、鴨スピーチの【聴き手】の分析をしてみましょう。
【聴き手】は【話し方の学校入学初日の受講生】
【聴き手の状態】は【入学初日、話し方の学校、どんな所か不安だなぁ】
【目的地】は【話し方の学校に入学してこれから変わっていくぞ】となります。
話し方の学校に通い出したぼく自身も、周囲の元気な参加者のエネルギーの高さや、いいね!が飛び交う空間、勉強に前向きな雰囲気に確かに圧倒され、ここで勉強続けられるか不安がよぎる気持ちが分かります。その上、まず話し方で悩んで進学した我々にとって、『講師』つまり半年間通う学校の学長、鴨さんの話し方に注目するのです。
【導入】部分で、鴨さんは『おめでとう』と言葉を送ります。ここで不思議に思いませんか?普通、入学の日におめでとうございますと言いますか?言いませんよね。本来卒業の日に耳にする言葉です。【導入】はスピーチで言う【オープニング】。つまり聴き手を【受け身に聞く姿勢から、主体的に聴きたい】に変える必要があります。つまり普通とは違う【予定調和を崩した】オープニングはそれだけで、聴き手をなぜ?という気持ちに変えます。聴き手の中に【疑問】を浮かばせたのです。しかし疑問を浮かばせたままだと聴き手はモヤモヤしたままなので、すぐにこの疑問を回収します。「周囲の反対、自分との葛藤、お金や命の時間」をかけて学んで変わろうとした自分へ、変わることが約束されたから、まず『おめでとう』と鴨さんは言っていたと続けます。
【▼でもさぁ】という聴き手の心の声が出てきそうですね。その聴き手の心に浮かぶ【▼でもさぁ私は変われないかも】を【◎変われるかもしれない】という目的地に移動するために、鴨さんは続けます。
『変われるための要素が【3つ】もあるからです』
そう3点タイプスピーチは3つの【根拠】を伝え、相手のネガティブ感情の変容を試みるスピーチです。
1つ目、【話し方の学校は変わるために作った学校だから、生徒は絶対に変わる。無駄な抵抗はよせ】これは科学的な根拠ありますか?そうですないのです。この時点で鴨さんは数多くの変わった生徒を見てきています。そして生徒みんなが変わると鴨さん自身が信じています。鴨さん自身の【自信】が、この一見科学的なデータのない「人が変わる」という根拠のない根拠の説得力を生んでいます。つまり自分が人に影響力を与えられる存在と信じ切れているからこそ発信できる根拠です。
「ぼくの話を聴いて変わらない人もいますが、それは聴いている人が悪いんです」という気持ちが鴨さんには微塵もないのです。話し方の学校の学長の責任感のある言葉は【説得力】を生みます。
2つ目、【周りが変わろうとする仲間しかいない環境である】事実30万円以上の入学金を支払い、時には遠方から月に1回通学するために集まる仲間もいます。そこで鴨さんは『人は環境に影響を受けて生きている』と続けます。そして聴き手の普段の周囲の【▼でもさぁ】を並べます。「無理だよ」「変わらないよ」「あのハゲに騙されているよ」という環境ではエネルギーが減る。しかし逆に「絶対できるよ」「あなただったら変われるよ」「一緒にやるよ応援するよ」という環境だとエネルギーが増えると話します。確かにモチベーションが上がりそう。自分が変われると意識が変わりそうです。
鴨さんはこのように瞬時に三つの【ネガティブなセリフ】【ポジティブなセリフ】を並べられるので、【インパクト】や周囲の人の【絵が浮かぶ】ので説教にならず、説得力を生んでます。
3つ目、【自分で決めたから】話し方の学校の進学を決めたのは、自分自身であり、自分の意思が一番自分に影響を与えると話します。ここで自分で変わると決めた、と自分の意思ですでに選んでいることを自ら【気づき】を浮かばせます。
スピーチで一番大切なのは、講師の言葉ではなく、自分で【気づいた言葉】を自分でもて変えることなのです。
【まとめ】では、【▼でもさぁ変われないかも】という生徒の声に、もう一度3点タイプで出てきた根拠を伝えてあげます。
自分が変わろうと決めていたの気づきから、絶対に変わると決め付けている講師、変わろうという意思の強い仲間のいる環境、この中で逆に変わらないほうが、意志がよっぽど強いと話します。ここで少し場が緩み笑いが出ます。これは【絶対に変わる環境はスゴイけど、変わらないほうが逆にスゴイ】という【GAP】で変わることが強調されているからです。
ここから鴨さんは【そう】と言葉を続けます。この鴨さんの口から【そう】が出た時は、その後の言葉を強めたい時です。
そう、「話し方の学校の生徒は変わらないと決めていたにもかかわらず、簡単に変わってしまった生徒ばかりです」と。
そして【▼でもさぁみんな違う立場】だからという不安も解消していきます。入学を決めた理由はそれぞれ違うけど、同じ授業、同じワーク、同じ宿題をする。そのことで自分たちそれぞれが得たいものを得られる【◎どんどん自分らしく変わっていく】みんな違った自分らしさを得られる【ワクワクした未来】を伝えます。さらに仲間のみんなが『小学校、1年生、1学期、初日』です。と伝えることで、【◎みんな変わることがここからはじまる】という意識の変化を生みます。
【クロージング】はシンプルです。
「おめでとう」この瞬間から皆さんは変わりました。
そうです。変わる自分にOKを出せる自分の変化に、おめでとうを再びプレゼントしてくれるのです。
3点タイプはわかりやすい。わかりやすいぐらい意識を変えるための根拠が、自分のブレーキを外してくれます。今回の3点タイプの特徴は、根拠の順番が、鴨さん自身、周りの仲間、自分自身の意志、と、どんどん聴き手に、『変わると決められる根拠が近づいていく』ことが分析できます。これを【クレッシェンド】と言います。これが根拠の最後が講師だった場合、決めたのは「学長・鴨頭嘉人」となってしまい、鴨さんの『入学を決めた自分の意思』を聴き手から【取りこぼす】ことになってしまうのです。ここまできて、意識が変わる場面で、相手が決めたから、となるのは、もったいないですよね。
だから、講演家は『頭の中に汗をかき』『普段から言葉を磨き』『聴き手に楽に聴いてもらう』ために設計図を組み立てる『日常』を過ごさないといけないのです。
ぼくも毎日、頭の中は言葉のトレーニングで汗まみれです。それでも汗を流した分だけ体型が変わるように、自分の言葉も変わっていきます。言葉はプレゼントだし、渡し方もプレゼント。相手に言葉を喜んでもらえるというゴール地点があればこそ、今日も言葉を磨きます。
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