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「世界はジャズを求めてる」2021年7月第2週(7月10日)放送「ウェザー・リポート特集」スクリプト(出演 池上信次)#鎌倉FM

※ Spotifyのプレイリストです。聴きながらお読みください。

M1 テーマ曲:What the World Needs Now Is Love/Stan Getz

「世界はジャズを求めてる」。

この番組は、週替わりのパーソナリティがJazzを中心とした様々な音楽とおしゃべりをお送りします。毎月第2週の担当は、ジャズ書籍編集者のワタクシ池上信次です。ワタクシの回は「20世紀ジャズ再発見」というタイトルで、毎回テーマを決めて特集を組んでお送りします。

今回の特集は、ウェザー・リポート。「天気予報」という変わった名前のこのグループは1970年結成。アルバム・デビューは1971年。今年2021年はレコード・デビュー50周年にあたります。まずは1曲、ウェザー・リポートといえば、この曲。「バードランド」を聴いてください。

M-2 バードランド/ウェザー・リポート

「バードランド」でした。これは1977年発表のウェザー・リポート最大のヒット曲。アルバム『ヘヴィ・ウェザー』に収録されています。メンバーは作曲とキーボードがジョー・ザヴィヌル、サックスがウェイン・ショーター、ベースがジャコ・パストリアス、ドラムスがアレックス・アクーニャ、パーカッションがマノロ・バドレーナです。

ウェザー・リポートはマイルス・デイヴィス・グループにいたピアニスト/キーボード・プレイヤーのジョー・ザヴィヌル、同じくマイルス・グループのサックス奏者ウェイン・ショーター、そしてチェコ出身のベーシスト、ミロスラフ・ヴィトウスの3人によって結成され、そこにドラマーやパーカッションを加える形でグループの活動をスタートさせました。

その後、メンバーチェンジをくり返し、ザヴィヌルとショーターを核として活動。どんどんスタイルを変えながら、16枚のアルバムを発表し、1986年に発展的に解散しました。活動期間は15年くらいですが、活動中も、そしてその後のジャズにも大きな影響を与えました。

次は、デビュー・アルバム『ウェザー・リポート』から、オープニング曲の「ミルキー・ウェイ」、そして「ウォーターフォール」の2曲を続けてお聴きください。

M-3 ミルキー・ウェイ/ウェザー・リポート

M-4 ウォーターフォール/ウェザー・リポート

「ミルキー・ウェイ」は、デビュー作の冒頭に収録されています。シンセサイザーのソロのようにも聴こえますが、当時はまだシンセという楽器はありませんでした。これは、グランドピアノの中に向けてウェイン・ショーターがソプラノ・サックスを吹いて、ピアノの弦との共鳴を録音して編集した曲です。途中でおそらくサックスがピアノのフレームに当たったコツンという音や、一瞬だけプッとサックスの音が入ったりと、 不思議なサウンドですよね。

2曲目の「ウォーターフォール」の作曲はジョー・ザヴィヌル。メンバーは、ザヴィヌル、ショーター、ミロスラフ・ヴィトウス、アルフォンソ・ムゾーンのドラムスに、バーバラ・バートンとアイアート・モレイラのパーカッション。エレクトリック・ピアノのリズム・パターンと短いテーマのメロディが印象的ですが、ソプラノ・サックスがテーマを吹いている間も、エレクトリック・ピアノとベースは同時にずっとソロをとっているという、集団即興演奏ですね。聴きやすいですが、「フリー・ジャズ」といっていいサウンドだと思います。

ジョー・ザヴィヌルはこのころウェザー・リポートの音楽について「we always solo, we never solo」「ソロをとっているけど、ソロはとらないよ」というという禅問答のような謎めいた言葉を残していているんですが、今の演奏についてみれば、「ソロと伴奏」を区別しないという解釈ができそうです。

こうして「新しいフリー・ジャズ」を演奏して始まったウェザー・リポートですが、音楽性は急速に変化し、1974年に創立メンバーのベーシストのミロスラフ・ヴィトウスから、アルフォンソ・ジョンソンに交代しますベースがアコースティックからエレクトリックへ代わり、そしてザヴィヌルも当時開発されたシンセサイザーを積極的に使用して、バンドは大転換を遂げます。

次は1975年にリリースされた『テイル・スピニン』から「マン・イン・ザ・グリーン・シャート」です。

M-5 マン・イン・ザ・グリーン・シャート/ウェザー・リポート

「マン・イン・ザ・グリーン・シャート」でした。メンバーはザヴィヌル、ショーター、ベースがアルフォンソ・ジョンソン、ドラムスがレオン・チャンクラー、パーカッションがアリリオ・リマ。色彩感豊かなフュージョンという感じです。テーマがあって、アドリブがあってまたテーマで終わるという構成ですから、こうやって聴くと別のバンドになったようですね。

そして次の転換は1976年に訪れます。ベースが、アルフォンソ・ジョンソンに代わってジャコ・パストリアスが加入します。当時ジャコは「新人」だったわけですが、そのサウンドはすでに強烈な個性を発揮しています。そして1977年に、今日最初に聴いていただいた「バードランド」を含む、ジャコが全面参加したアルバム『ヘヴィ・ウェザー』を発表します。

次はそのアルバムから「ア・リマーク・ユー・メイド」を聴いてください。

M-6 ア・リマーク・ユー・メイド/ウェザー・リポート

「ア・リマーク・ユー・メイド」でした。作曲とキーボードはジョー・ザヴィヌル。ウェイン・ショーターのテナー・サックス、ジャコ・パストリアスのベース、アレックス・アクーニャのドラムスでした。

ウェザー・リポートは、ザヴィヌルとウェインのほかは、頻繁にメンバー・チェンジをくりかえしていたのですが、歴代メンバーの中でもっとも個性を発揮したというか目立っていたのが、ジャコ・パストリアスです。

ベースのスタイル、テクニックは、ウェザー・リポートを超えて、ジャズでのエレクトリック・ベースの役割というか立ち位置をがらりと変えてしまうほどの影響がありましたが、ウェザー・リポートでは多くの楽曲も提供しました。

次はジャコが書いた曲を2曲続けて聴いてください。「ティーン・タウン」と「パンクジャズ」です。

M-7 ティーン・タウン/ウェザー・リポート

M-8 パンク・ジャズ/ウェザー・リポート

「ティーン・タウン」は「バードランド」と同じ『ヘヴィ・ウェザー』から。これはドラムスもジャコです。「ティーン・タウン」はアドリブなし。というか、テーマ自体が曲というよりアドリブ・ソロのフレーズのようです。

「パンク・ジャズ」はそのあと77年の『ミスター・ゴーン』からでした。ドラムスはトニー・ウィリアムスです。超絶なベース・ソロの後にまったく違う曲がくっついているという、どちらもふつうのジャズの感覚では、なんだこれは?という謎めいた曲です。

これはおそらく、ジョー・ザヴィヌルのコンセプトに基づいているのだと思われます。この時期のウェザー・リポートの音楽は、ザヴィヌル、ショーター、ジャコの3人体制で作られているというふうに当時は見られていましたが、今振り返ればウェザー・リポートは完全にジョー・ザヴィヌルのコンセプトを表現するバンドだったといえます。

ジョー・ザヴィヌルはあるインタヴューで、自分の曲ではベースラインでさえ、すべて譜面に書いていたと明かしています。また評伝には、ドラムの譜面が事細かく書かれていて驚くドラマーの証言もあったりします。

おそらくショーターも同じようにしていたと思います。ウェザー・リポートでは、即興部分にみえるところが、じつは即興ではなかったものも多いというわけです。譜面に書いてあるものをそのとおりに演奏する、というのはジャズとは離れたもの、と見ることができますが、でもウェザー・リポートの音楽は、まったくそんなふうには聞こえません。それは、ジョー・ザヴィヌルの作曲法に秘密がありそうです。それはこの曲のあとで。

次は「ナイト・パッセージ」をお聴きください。

M-9 ナイト・パッセージ/ウェザー・リポート

ナイト・パッセージ」でした。80年のアルバム『ナイト・パッセージ』のタイトル曲です。作曲はジョー・ザヴィヌル、メンバーはジョー・ザヴィヌルのキーボード、ウェイン・ショーターのテナー・サックス、ジャコ・パストリアスのベース、ピーター・アースキンのドラムス、ボビー・トーマス・ジュニアのパーカッション。5人編成ですが、なにかとても大きなバンドに聴こえますね。

ジョー・ザヴィヌルの作曲法というのは、テープをずっと回しながら即興演奏を録音して、あとでそれを聞き直して、いいと思ったところを採譜して曲としてまとめるという方法だそうです。で、これはジョー・ザヴィヌルに直接聞く機会があったんですけど、重要なところは、そのときに「採譜した楽譜に手を加えない」ということなんだそうです。つまり「弾いたまま」を曲とする、と。だから、それを演奏するのは即興しているのと同じこと、ということというのです。今の「ナイト・パッセージ」はおそらくその方法で書かれたものでしょう。

この曲は一方通行で、曲の最後に頭に戻るということがない。Aパートがあって、次にBパートに、とういうふうに進んでいきます。3分すぎくらいまで、アレンジされた長い長いメロディーを演奏をしているわけですが、楽譜を演奏するオーケストラには聞こえず、まるで自由に演奏する「ジャズ」に聞こえるというのは、そこにマジックがあったんですね。そして後半は延々とおなじフレーズの繰り返しになっていて、ベースラインだけが目立って動きますが、おそらくこれも全部譜面に書かれているものでしょう。もしかすると、ザヴィヌルがアドリブで弾いたベースラインを採譜したものかもしれません。まあそれは考えすぎかもしれませんが。これは、演奏の形は違っても、最初に紹介した、ウェザー・リポート初期のコンセプト「we always solo, we never solo」からちゃんと繋がっていますよね。

ちなみに、以前ウェイン・ショーターにインタヴューする機会があったんですが、ショーターは「楽譜に書かれているものは書かれていないように、書かれていない即興は書かれているかのように演奏する」と言ってまして、これはウェザー・リポートについての話題ではなかったのですが、ザヴィヌルと通じるものがあったんですね。

じゃあ、ウェザー・リポートは全部楽譜通りに演奏しているのか、というと、そうではなく、その一方で、まちがいなく「アドリブ」のソロを、それもすごい勢いでやっている曲も並んでいるので、ますます謎めいてきちゃいますね。

今日はウェザー・リポートのさまざまタイプの演奏を聴いていただきましたが、いつの時期、どんなメンバーでも、ウェザー・リポートらしさというものが脈々と連なっていることを感じられたと思います。聴きやすさもある一方で、謎を秘めたバンドサウンドは比べるバンドがありません。新しいジャズを作ったというより、どこにも属さない、まさにウェザー・リポートというジャンルを作ったといえるのではないでしょうか。

最後は、アドリブばりばりの曲でお別れです。先ほどの「ナイト・パッセージ」と同じメンバーによる「ファスト・シティ」です。ウェザー・リポートはモダン・ジャズ・グループとしても超一級である、ということを誇示しているかのような高速4ビートの演奏です。

M-10 ファスト・シティ/ウェザー・リポート

世界はジャズを求めてる。

今週のお相手は、ジャズ書籍編集者の池上信次でした。では、また。



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鎌倉FM
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