キキナジミ
23年も生きていれば不思議な体験をすることなんて結構ある。
授業中にうたた寝して結構寝たなと思ったら2分しか経ってなかった時。
完全に財布を忘れたと思って鞄の中身を見たら、入れた記憶のない財布が入っていて、過去の無意識の自分に感謝した時。
告白が成功した時。
考えてみれば僕の人生は不思議な体験ばかりだ。
これはいつの記憶になるかはわからない。
おそらく4、5年くらい前なんだと思う。
ある時僕の頭の中に、ある名前がよぎった。
いや、思い出した、というのが正確なのだろうか。
その名前は聞き覚えがあるのだが、どうにもどこで出会った誰なのかが思い出せない。
もしかしたら芸能人なのかもと思い、その名前を検索してみてもパッとした人は出てこない。
聞き馴染みしかない名前。
でも過去にそんな名前の人に出会った記憶もない。
勝手に僕が作り出した架空の名前だろう、というのが今の僕に出せる結論だが、それが納得できないほど聞き馴染みのある名前なのだ。
ビジュアルもわからない。
でもなんとなく想像できる。
髪の長さはミディアムで、色は茶色に近い黒、目鼻立ちは整っており若干幼めの顔、背丈は平均並みでわりと活発な女の子だ。
確かに想像上では可愛いと思うが別に好きなタイプを凝縮したというわけでもない。
僕の好きなタイプはそもそもショートヘアだ。
想像上の人物に恋をしているんじゃないかとも思ったが、曖昧な情報で構成されたビジュアルの女の子を好きになりようがない。
話した記憶もないのに。
でもなぜかよぎる。
たまによぎるのだ。
どこかに存在するんじゃないかと思ってしまうのだ。
存在していないことをまだ僕が認めていないのだ。
これがこの4、5年間僕が尾を引いていることである。
僕は彼女を観測したい。
会わなくていい。
話さなくていい。
ただ、彼女がいることを僕が認められればいい。
そうじゃないとモヤモヤするのだ。
たった一つ、僕の人生における不思議を不思議じゃなくしたいと思うのだ。
だから僕は探す。
だからどうか君は僕を見つけてくれ。
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