なぜSKY-HIさえ知らなかった僕がTHE FIRSTに熱中しているのか
「THE FIRST」とは何なのか
皆さんは「THE FIRST」を知っているでしょうか。ちゃんと知らなくても、SNSや情報番組で目にした人もいるかもしれません。
男女混合のパフォーマンスグループ「AAA」のメンバーである、日高光啓さん―ソロの音楽活動は「SKY-HI(スカイハイ)」名義で活動―が主催しているボーイズグループオーディションが「THE FIRST」です。
2020年にブームとなった「Nizi Project」と同様に、スッキリでオーディションの様子が放送されています。2021年中に5人組のダンス&ボーカルグループとしてデビューすることを目指しています。8月13日(金)にデビューメンバー決定が予定されており、まさに佳境となっています。
そして僕は今、この「THE FIRST」にどっぷりハマっています。
ただし僕はAAAのファンでも、SKY-HIのファンでもありませんでした。申し訳ないのですが、一曲も知りませんでした。(耳にしたことがある曲はあると思うのですが、思い出せません)
そんな僕が、「THE FIRST」にハマった要因は「文脈の美しさ」でした。
「文脈」とは何なのか
近年のエンターテイメント業界において、「文脈」はファンを獲得するための一つの重要なテーマになっています。アーティストの歌やダンス、スポーツ選手の試合、作家の小説といった最終パフォーマンスに対して、制作過程(トレーニング過程)、個人のパーソナリティなどをここでは「文脈」と呼んでいます。
この人はどんな性格で、何を志していて、どんな悩みがあって、どのように努力しているのか。そうした「文脈」は見ている人に感情移入を促したり、同じ言葉やパフォーマンスでも重さを感じさせたりしやすくなります。ひいてはこれがファンの獲得に繋がります。
ではなぜこの「文脈」が重要なテーマとなっているのでしょうか。
もともと、エンターテイメントの表舞台に立つということは、本当に限られた一握りの人だけができることでした。誰かから「見つけてもらう」こともそうですし、「世の中に発信する」ことも、道が限られていました。
しかし現代において、周知の事実ですがYouTubeをはじめとした動画投稿サービス、HuluやNetflixなどのVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービス、SHOWROOMや17LIVEといったライブ配信アプリなど、自身の存在を知らしめる舞台は多くなっています。更に、SNSの普及によってそういった存在は物理的な場所を問わずあっという間に広がり、注目を集めることが可能になっています。
たった一握りの「豪腕プロデューサー」に見つからなくても、発信は事実上できるし、良いものは世間に届けることができるということです。(ただし実際にTop of topの舞台に引っ張り上げるには、そういった力を持った人の手助けは引き続き必要だと思います)
・Instagramでの発信をきっかけに出版した主婦
・ブログでの発信をきっかけにプロスポーツチームのスタッフとして抜擢されたアナリスト
などなど、皆さんも耳にしたことはあると思います。
そんな「良いものは世間に見つかりやすくなっている時代」は、コンテンツの過多を引き起こします。全員が同じテレビ番組を見て、同じ国民的スターに熱狂していた時代とは異なり、各個人があらゆるプラットフォームを通して多様なエンターテイメントに触れるのです。そのような時代に、差別化するポイントの1つになるのが「文脈」というわけです。
もしかするとパフォーマンスレベルだけ見ると突出できていないかもしれません。むしろ、これだけ情報やノウハウが流通すると突出した存在になることはかなり難しいです。しかし、「文脈」を知ってもらうことで差別化を図ることができるのです。同じパフォーマンスでも、そこに至る過程や背景を知っている分、ファンにとって「特別な存在」になりやすくなります。
このあたりは「プロセスエコノミー」と呼ばれている概念にも近いと思います。
文脈をアピールすることは新しい概念ではない
そんな「文脈」をアピールすることは、決してここ数年で生まれたような新しいものではありません。例えば、有名なところで言えば「ASAYAN」。モーニング娘。やCHEMISTRYなどを輩出したことで知られる、「夢のオーディションバラエティー番組」です。選考過程や合宿の様子を見せるというのは、「文脈」の一つの形です。
文脈の見せ方も様々に広がっています。引き続きオーディションは鉄板のコンテンツですが、以下のようなもの該当すると思います。
・AKB48グループじゃんけん大会
・AKB48選抜総選挙
・オンラインサロン(スポーツ選手、作家、アーティストなど)
・SNSやブログによる日常の発信
・アイドルグループが行う「ヒット祈願ロケ」
だけど僕は違和感があった
そんな中、個人的にもやもやしていることがありました。「文脈」をアピールすること自体は全く問題ないですし、僕もそういった入口でファンになった存在が多くいます。違和感があったのは、「無理して作った文脈」です。
アーティストのオーディションにバラエティ的な審査があったあり、アイドルグループがヒット祈願ロケで過酷なチャレンジをしたりといった様子を、僕は素直に受け止めることができていません。そういった要素が、その後の人生において役に立たないとは言わないものの、「過酷なほうが感情移入できるでしょ?苦手なことを乗り越えたほうが応援できるでしょ?」と提示されているような気がして、引っかかってしまうのです。
アーティストやアイドルとして成功するにあたって、「わざわざ乗り越えなくてもよかった課題」を与えて、文脈の山を作り出そうとしているように感じてしまっていました。
ただし誰もが、世間にわかりやすく「文脈」を提示することはできないので、そういった「用意された文脈」=「企画」は効率的な側面はあることは理解しているので「ナンセンスだ!」というつもりはないのですが、どこか感情移入しきれない自分がいました。
そんなことをぼんやり考えていたときに現れたのが「THE FIRST」です。
濁りのない文脈を提示するTHE FIRST
冒頭で触れた通り、THE FIRSTはボーイズグループのオーディション番組です。主催者である日高さんは、このオーディションで大事にすることを以下のように表現しています。
クオリティファースト
歌やダンス、ラップなどのパフォーマンスがうまいこと。特に基礎能力の高さ。
クリエイティブファースト
歌詞やメロディー、トラックを作ること。
アーティシズムファースト
自分がどんな人間か、アーティストかをステージ上で表現できる力
つまり、当然のことながら、あくまでアーティストとしての評価が重要であるということを表しています。これは、選考や合宿の様子からも感じることができます。
すべての選考は「グループとしてパフォーマンスを行うこと」に対しての審査です。メロディーや歌詞、ダンスを誰が作ったかという点こそ審査ごとに違いがあるものの、アーティストとして音楽性を追求することに集中させられる審査となっています。またグループとしてのデビューを予定していることから、「グループの中でもそういった個人の輝きを失わずに、グループ全体も輝かせられるか」という点も重視されています。
また合宿では、午前中の時間を基礎練習に割いていることがポイントです。選考であると同時に、プロとして求められる水準のアーティストになるためのトレーニングを明示的に提供しているのがこのオーディションになっています。日高さんの人脈により、業界でもトップレベルの方々が指導にあたっています。
佐藤涼子
桜井和寿(Mr.Children)、LiSA、Fukase(SEKAI NO OWARI)、藤井 風などを担当しているボイストレーナー
Matt Cab
BTSやw-indsなどに楽曲提供を行っている音楽プロデューサー
その過程の中で、個人として・グループとして課題にどう向き合うのかというのが描かれているのがTHE FIRSTです。つまり、アーティストとしてデビューするというゴールに対してまっすぐな道のりの中で、文脈を描いているのです。当然このシチュエーションやステージは用意されたものですが、誰かが無理に作った文脈ではなく、参加者個人が音楽、アーティストと向き合ってぶつかることで文脈として浮かびあがってきています。(もちろんそれをわかりやすくするために、番組としての構成や編集は存在しますし、それは否定しません)
こういった文脈の提示方法が、ここ最近の自分にとって非常に新鮮に映るとともに、魅力的に感じたことは、THE FIRSTにハマった一つの大きな要因です。
各メンバーの成長に真摯に向き合う日高さん
アーティストとしてのデビューに向けて必要な課題に向き合う各メンバーに、主催者である選考者である日高さんが全力で向き合うというのもTHE FIRSTの特徴です。日高さんはメンバーに対するリスペクトや賛辞を惜しまない一方、明確に課題を与え、乗り越えるためのサポートを行います。
これだけ多くのメンバーに一人ひとり褒める言葉をかけていると、ある程度その表現が似通ってきてもおかしくない中、豊富な語彙と優れた観察眼でメンバーを評価している場面はとても印象的です。しかもそれは、「一人のアーティスト」として相手を尊重していることがよく伝わってくるところに、器の大きさを感じます。
「ひとりの音楽を愛する人間として、こんなかたちの音楽を今日観られたことが本当に嬉しいです」(#11より)
「あなたは現存するアーティストの中でも、とても特異な才能を持っていると思いました」(#12より)
「マジな話羨ましいです。あの声本当に僕が欲しい、一番欲しかった声です」(#15より)
そうやって称賛しつつ、より成長するための課題を一人ひとりに渡すことも忘れないのが更に凄まじいところだと感じます。
「感情表現の振れ幅が小さく見えるのは気になることが多いかな」(#13より)
「感情が乗ってそこから歌になっているときだから、アーティストとしては素晴らしいことだけど、再現性がないことに不安を覚えます」(#13より)
「根本的な技術量で言うと、まだ足りてないことはとても多いです」(#15より)
そうやって一人ひとりと真摯に向き合うからこそ、選考結果によりメンバーとお別れをしなければいけない場面では、日高さん自身が涙することもありました。審査する側のスタンスとしては賛否があるところかもしれませんが、それだけ真摯に向き合っていて、各メンバーの成長を願い、楽しみにしていたということだと思います。
メンバーが「アーティスト」としての課題に本気で向き合い、日高さんは審査する立場でありつつもそのメンバーの成長を心から願い、支援し、称賛するというこの関係性は、「文脈」をより熱く、深いものにしてくれています。
合宿最終審査では、審査となるパフォーマンスが終わった後、日高さんも入って再度一緒にパフォーマンスをする場面がありますが、そういった関係性を踏まえて観ると、とても尊いものです。
まだ間に合います
そんなTHE FIRST、もう選考は佳境ではありますが、まだ間に合います。追いつくことができます。これまで以下のような選考の流れでしたが、8月13日(金)に最終メンバーの発表を控えています。
これまでの活動の様子は、YouTubeやTver、Huluで視聴することができます。それぞれのプラットフォームで視聴する違いとしては、以下のようになります。
YouTube
無料で視聴が可能ですが、リアルタイムな放送からは6話分ほどディレイがあります。
Tver
無料かつディレイなしで視聴可能ですが、放送後1週間のみ視聴可能です。
Hulu
有料(1,026円/月)になってしまいますが、ほぼディレイなしでYouTube・Tverで放送されてないシーンを含む完全版を視聴可能です。
以上のことから、この記事の執筆時点(8/7)で追いつきたい方はYouTubeで視聴可能なところまで追いついて、それ以降はHuluを利用することが唯一の手段です。
YouTube版が追いついて以降はYouTubeでの視聴がおすすめですが、完全版が観たい方はHuluを契約しましょう。
いよいよ迎える最終審査
最終審査では現在選考に残っている10名が、半分の5名になってしまう予定となっています。これまでの活動の様子を見ているだけに、純粋にワクワクというわけではなく、怖い気持ちも大きいです。しかし、メンバーがまっすぐに音楽に向き合った結果、そのメンバーに日高さんが向き合った結果を受け止めようと思います。
更にその先、選ばれたメンバーがどんな形でデビューを迎えるのか、こちらも目が離せません。