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ジブンではないボク

ボクの移動

初めてかもしれない。私は、携帯をなくした。正確には、携帯を置いてきてしまった。もっと正確に言うと、小さすぎたポケットに入れてしまい、そこから静かにこぼれ落ち運ばれていったのだった。目的の渋谷駅で降りた私は、すぐ携帯がないことに焦った。とりあえず、改札口の駅員さんのところに向かい、事情を説明する。予定に遅刻していたので、とりあえず機能しないであろう電話番号と名前を伝え、その場を後にした。
その後、どこに行ってしまっているのか不安になった。幸い、MotorolaというAndroid機種でiPhoneよりだいぶ安いので盗まれる心配はないので、そこは安心できた。
電話をする。行き方を調べる。お金を払う。と、便利な機能がすべて詰まった機械に取付かれている私は、すごく困った。それと同時に、携帯はもはやボクではないかと思った。彼(携帯)は私の住所も、知り合いも知っている。普段の私のスケジュールも行動特性も知っている。もう一人の僕だ。私はボクに依存しているし、彼も私に依存している。それでボクらが成り立っている。
そこで、私はすこし興味がわいてきた。ボクは今、どこに向かっているのだろうかと。

iPhoneという理解

改めて、渋谷駅に向かい確認をとってもらうと、首都圏の複雑な関係性があらわになった。そこでは、東横線とみなとみらい線の落とし物の確認しかできないとのこと。明らかに僕は東横線に乗ってきたので、発見できると予想できるのは渋谷駅以降つまり副都心線内であるということ。一つの列車が複数の運営会社でつながっていくのは、首都圏ならではかもしれない。
渋谷駅の東横線では、東横線、みなとみらい線。副都心線だと、東京メトロ。終着駅次第で、東武線、西武線、とそれぞれ管轄が異なり、それぞれに電話をかけなくてはならない。
駅員さんからは、iPhoneですか?という問いが最初に突き付けられた。ボクの携帯は、Motorola機種なので、若い年代の人からするとぴんと来ない顔になる。Motorolaは一応、世界で最初に携帯電話を出した会社である。最近は、縦に折り畳みができるRazrという機種が発表され(当時かなりはやったらしいガラパゴス携帯のスマホ版)、かなりマニアでは騒がれているが、普通の人からすると知ったこっちゃない。東横線ではiPhoneしか、落とし物届いていないらしく。残る3路線に期待することにした。
メトロに電話をかける。そこでも、iPhoneしか落とし物として届いていなく、日本(もしくは首都圏の)iPhoneの普及率に感心しながらも、Androidが落とし物として届いたときの分かり易さがあることから、残る2路線にはその分、希望を抱くようになる。
なんとか、GPSを起動して彼を追うことはできないかと、いろいろ調べてみる。AndroidでもiPhoneのFind my iPhoneがあるらしく、そこにアクセスしてみる([https://android.com/find](https://android.com/find))。そこでは、和光市という駅で緑に光るボクの携帯が見つかる。

急いで、和光市に電話をかける。そこでも、iPhoneの落とし物しか、取り扱いをしていないという。GPSでは、その駅を指しているので混乱した私は、興味本位で「Play sound」というボタンを押す。電話越しに急に、サウンドがながれていることを確認した私は、すぐに音を鳴らしていることを知らせると、ボクの携帯を確認してくれた。ボクの携帯は、素人から見るとホームボタンがついているiPhone(iPhone8などのそれ以前の機種)にすごく似ているので、iPhoneとカテゴライズしてしまったのだろう。私は、取りに行くことにした。和光市に。和光市(?)。。

追うジブン

結局、携帯の行先を追うので、私は携帯とおなじ動きをする。携帯を連れまわしていると思っていたが、簡単に携帯に動かされている自分がいることぎょっとする。携帯はもうひとりのジブンなのだと。
いぜんから興味を持っていた、和光市という駅にいくこととなった私は、各駅停車の電車に乗った。電車の中を見渡す余裕ができた私は、まわりを見ながら到着までの時間をつぶした。思った以上に、携帯をいじる人がいて驚いた。みんなもう一人のジブンができていることは自覚していないんだろう。みんなにも、ぜひなくすことをしてほしい。
そんなことはいいとして、「和光市」だ。元町中華街駅に引っ越してきた私にとって、「和光市」はたびたび乗る急行列車の終着駅だった。市の名前が駅になっているのか。じゃあ、「横浜市」駅や「港区」駅がありえるのかもしれないと考えたり。

そして、路線図の一番端っこに構えていることも興味をそそられていた理由だ。

長い地下を通り抜け、地上に出るとそこは、和光市だった。埼玉まできてしまった。ホームを降りると掲示板にて、渋谷・新木場・横浜・中華街とバラエティに富んだ終着点まで運んでくれる駅の心強さに感心した。そしてようやく、ボクにたどり着く。
なにかの記念にと、そのまま改札をでて和光市にて、夕食をとることにした。あったかくひかる、Royal Hostが見える。そこに入り、ハンバーグをパクリ。
そして今、逆方向の電車に乗り、終点までの到着を待っている。

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