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ミヒャエル・エンデの本 アインシュタイン・ロマン「エンデの文明砂漠」
冒頭の絵はミヒャエル・エンデが30年以上前に描いた「文明砂漠」という絵です。
この絵を見てハッとした人もいるのではないでしょうか。今世界中が行き末を気にしてる侵略者による戦争を想起したのではと思います。エンデ自身はその戦争を預言したのではなく
現代文明の今と希望を持つ人間を想起して描いたもののようです。
だれも住めない未来の都市で、限りなく広がる砂漠。爆弾でできたクレーターとどこまでも続く自動車の墓場。そんな中、一人の少年(人間の永遠の純粋な子供らしさ)と手品師であり魔術師であるパガードが手をつなぎ地平線に向けて歩いています。
パガードの帽子は相葉曲線(無限大のシンボル)のつばになっています。
この絵は、アインシュタインロマン第六回「エンデの文明砂漠」を30年以上前に書籍化したものにエンデが描き起こしたものです。
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一章冒頭でエンデは「私は第三次世界大戦ははじまっていると思うのです。ただ、私たちがそれに気づかないだけです。なぜならこの戦争は、従来のような領土を対象とする戦争ではなく時間の戦争だからです。」と綴ります。
エンデが指摘したのは、科学の発展による文明の破壊と心の豊かさの荒廃への進行であってその時間戦争が起こってるというものですが、皮肉にも、領土を対象とした大きな戦争がはじまってしまいました。
エンデが亡くなってから27年が経ちますが、あの世で大いに人間の行いを嘆いていることでしょう。
NHKスペシャルで30年以上前に放映された番組「アインシュタインロマン」全6話構成で放映されて、せいもリアルタイムでビデオ録画をし何回も見てきた好きな番組で番組内のプレゼンターをミヒャエルエンデがしています。20年以上ぶりに見たなくなってDVD買って見ました。その中で第六回「エンデの文明砂漠」がDVDには入っておらず本になっていて、昔持ってたんですが紛失してて見たくなって取り寄せました。
アインシュタインロマンは6部構成になってます。
第1回、黄泉の時空から
第2回、相対性理論 考える+翔ぶ!
第3回、光と闇の迷宮~ミクロの世界~
第4回、時空 悪魔の方程式
第5回、E=mc² 隠された設計図
第6回、エンデの文明砂漠 ミヒャエル・エンデと文明論
番組でプレゼンターをしているミヒャエルエンデさんですが、せいが好きな人物で、有名なのは児童文学の「モモ」「はてしない物語」の作者です。
はてしない物語は映画「ネバーエンディングストーリー」の原作で歌を口ずさめる方もいらっしゃると思います。
「モモ」は大きな都会のはずれの廃墟に住んでいる不思議な女の子のモモと掃除夫ベッポ、観光ガイドのジジと友達になり、世界をおとしめようと暗躍する「灰色の男たち」との人間の存亡と希望をかけた戦いの物語です。
両作品とも数年ぶりに見たくなって読んできましたが、児童文学とはいえ、大人が読んでも考えさせられる作品でおすすめです。
さて、20年以上ぶりに読んだアインシュタインロマンの「エンデの文明砂漠」。
宇宙の法則を探求することに夢中になっていたアインシュタイン。
アインシュタインは、草むらに寝転がって空を見るのが好きだったと言います。
「私は神のパズルを解くのが好きだ」と。あっかんベーをして舌を出すアインシュタインの写真は愛嬌がありますよね。
でもそんなノーベル賞受賞のアインシュタインも核兵器の開発をアメリカに促す書簡に署名しました。当時のドイツが核兵器開発を遂行しようとしてるとして、対抗すべくに。
後にドイツの科学者が核兵器開発は進んでなかったと話して、アインシュタインも書簡は「大きな誤り」だったとしています。
本では、第二次世界大戦末期、ドイツ人として当時14歳のエンデ自身に国から召集令状がきた事が書かれています。
少年までもが戦争に駆り出されていました。この時戦争が終わる数カ月前で、もうアメリカとの戦争で敗戦濃厚なドイツのミュンヘン防衛戦を血を見ることなくアメリカに渡そうという「バイエルン自由運動」というレジスタンス運動が起こりました。
エンデは少し前に戦争に招集されることを恐れて母のもとに逃げ、近所の イエズス会神父が参加していたバイエルン運動に加わります。大人と同じく思想を持ち活動というより、伝令としてあるとこからある場所に情報を伝える役をまかせられます。少年なら目立たなくて最適ということでした。
一面焼け野原のミュンヘンを自転車で走り回るエンデ。覚えたメッセージ「おばぁさんは、中国庭園で腰をおろし泣いている」を将校に届けるために。伝令は終戦時まで続いたそうです。
国に反する行為がどれほど危険かを14歳の少年でも生死をかけたものだと理解しつつ。走り回る街の立木には数本おきに脱走兵の兵士が首を吊るされ息絶え、晒されていた。
エンデ一家の家は爆撃で失われ、国から退廃芸術の烙印を押された絵描きの父の多くの作品が失われました。エンデの学校からは4人の少年が国に取られ、数日の訓練の後ヘルメットをかぶさられて、アメリカ軍の戦車との
戦いに出されたその日に三人の少年が戦死しました。
戦争の最後の方では、ナチスの親衛隊までもが自国のミュンヘンの自国民を砲撃テロしはじめていた。
自由運動は最後は放送局を占拠して、市民にアメリカ軍が入城したら窓から白い布を垂らすように呼びかけたそうです。
アメリカ軍戦車の音・・・。決して忘れない音。少し前にみたボロボロに疲れて歩みを進めるドイツ兵と対照的にアメリカ兵は栄養がゆき届いていて様々な肌の色の人種の兵士たちで傍で呆然と見ていたエンデ少年にチョコレートを1枚投げてくれたそうです。
エンデはヒトラーをミュンヘンで間近に見たことがあったそうです。市民が湧き上がる中、黒塗りの自動車に防弾処理がされた独特な帽子を深くかぶり、蝋人形が座っているように感じ、本当に人形でも不思議ではなかった
と語っています。
本の最後の方でエンデは「もし人間が正義を創造する努力を怠れば、正義は存在しません。人間が真実に向かって努力しなければ、真実への努力を知らなければ、真実は存在しないのです」と話しています。
本を読んで、今起きているリアルタイムな戦争を考えさせられました。
早く戦争が収まるように願わずにはいられません。