Y Combinator発スタートアップ①_S24「Healthcare」-1
Y Combinator Summer 2024 (YC S24)Batchで採択され、Demo Dayで発表を行ったスタートアップを紹介していく。
※本記事は、各社の公式サイトや関連の記事をもとに構成されています。
本記事の概要
本記事では、YC S24 Batchで採択されたスタートアップのうち「Healthcare」で分類されている、スタートアップ9社を紹介する。(スタートアップの分類と数については、YCサイト「Startup Directory」を参考)。
Healthcareで分類されているスタートアップは25社(全体の約10%)。
そのうち「Therapeutics」として分類されているKopra Bio、Evolvere BioSciencesの2社、「Consumer Health and Wellness」として分類されているMito Health、Claraの2社、「Drug Discovery and Delivery」として分類されているBiocartesian、Ångström AIの2社、「Industrial Bio」として分類されているAminoAnalytica、Ligo Biosciences、ACXの3社を紹介する。
*但し、これらのスタートアップは設立されたばかりで、公開されている情報が限られていることにご注意ください。
YC S24 Batch採択スタートアップ_「Healthcare」-1
Kopra Bio:がん治療薬
スタートアップ概要
共同創業者
Andrew Bartynski, PhD:バイオテックのシリアルアントレプレナーで、YC創業者を繰り返し経験。男性用避妊薬を開発したYourChoice TherapeuticsでCOO、COVID-19治療薬を開発したANA Therapeutics、で実績を積む
Alexander Haddad, MD:UCSFの神経外科レジデントで70を超える査読付き論文を発表している、神経腫瘍学と中枢神経系への細胞・遺伝子治療の提供に特に関心を持つ。Dr. Manish AghiおよびDr. Noriyuki Kasaharaの研究室でKopra Bioのウイルス技術の開発を推進。サンフランシスコ総合病院での臨床優秀賞であるKrevans Awardを受賞。
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:UCSFで開発された技術を基に、遺伝子操作されたウイルスを用いて、免疫システムにがん細胞を攻撃させる治療法の開発
事業・サービス・テクノロジー詳細
がん細胞に感染し腫瘍全体に広がるウイルスを使用して免疫システムを活性化し、がんを攻撃させる。
ウイルスが免疫システム(T細胞の活性化)を刺激し、体内でがんを攻撃する学習を促す。
最初のターゲットは膠芽腫(glioblastoma)で、従来の治療では生存率0%のケースを90%以上に改善。プラットフォームは、他の種類のがんにも応用可能。
高い安全性プロファイルと、スケーラブルな製造プロセスを備えているとのこと。
Evolvere BioSciences:抗生物質の開発
スタートアップ概要
共同創業者
Adam Winnifrith:CEO兼共同創業者。バイオケミストであり、バイオエンジニアリング、プロテインAI、オートメーションの分野で活躍。オックスフォード大学でバイオケミストリーの学士を取得
Piotr Jedryszek:CTO兼共同創業者。計算生物学の専門家で、細菌の進化をディープラーニングで研究。オックスフォード大学の博士課程在学中。
Weronika Ślesak:CSO兼共同創業者。進化生物学者であり、抗生物質耐性や進化的トレードオフに関する研究を行う。オックスフォード大学卒。
所在地:Oxford, UK
事業・サービス内容:AIを活用した、抗菌薬耐性を持つ細菌の進化に対抗できる次世代抗生物質の開発
事業・サービス・テクノロジー詳細
AIを用いて、細菌の進化を予測し、耐性が生じる前に対応可能な「未来対応型」抗生物質を開発。
細菌のタンパク質間相互作用データと進化データを組み合わせたAIモデルで、細菌の変異を予測し、抗菌薬耐性を事前に防止
病原性細菌の精密ターゲティングし、人体の細菌バランスや細胞に影響を与えない薬剤を作成。
人体内での安定性と安全性を向上させ、1回の投与で効果が得られる可能性を目指している。
従来の抗生物質開発の高コスト・長期間の課題を解決するためのアプローチ。
Mito Health:AI搭載の予防医療
スタートアップ概要
共同創業者
Ryan Ware:創業者であり、8年間の臨床経験を持つ医師。外科レジデントとして訓練を受け、予防医療にシフト。予防医療を全ての人に届けることに関心を持つ。
Teeming Chew::共同創業者でChief Product Officer。AIを使った予防医療の提供に従事。以前はSeedlyの共同創業者兼CTOで、個人資産管理プラットフォームを構築し、1000万ドルでの成功裏の買収を経験。
Joel Kek:共同創業者兼CTO。
Kenneth Lou:共同創業者で、AI医師を構築し、健康寿命と長寿を向上させることに注力している。
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:血液検査やスキャンを活用し、病気の予防や長寿を目指す個別の健康プランの提供。
事業・サービス・テクノロジー詳細
100を超えるバイオマーカーを測定し、ユーザーの健康状態や予防策に関する個別のインサイトを提供。
AIと医師の共同により、運動、栄養、睡眠、サプリメントなどのパーソナライズされた具体的な改善策を提案。
検査結果は1週間以内に提供され、介入の効果を確認するために再テストも可能。
血液バイオマーカーを基に、ユーザーの体がどのように老化しているか、臓器の劣化を予測し、評価をしている。
Clara:在宅介護向けプラットフォーム
スタートアップ概要
共同創業者
Jon Levinson:Claraの共同創業者兼CEO。元Uberのプロダクトリーダーで、Uber Directの立ち上げに関与し、ビジネスをゼロから約10億ドルの売上に成長させる。個人的に家族の介護に直面し、その経験をもとに在宅介護業界に革新をもたらすことを目指している。
Ian Gillis:Claraの共同創業者兼CTO。JonとはUberでのプロダクトとエンジニアリング管理のパートナーとして協力。
所在地:-
事業・サービス内容:在宅介護者を発見、雇用、管理するためのプラットフォームを提供
事業・サービス・テクノロジー詳細
AIを活用して、 地域の介護者(ホームヘルパー、認定看護助手、または経験豊富なコンパニオンケアギバーなど)を家族にマッチング。
法的に適切な雇用手続きを簡単にするため、給与、税金、保険を自動的に管理する。
Generative AIによるケア管理機能で、ケアの質と透明性を向上。
介護者により高い給与と安定性を提供し、社会保障や失業保険にもアクセスできるようにする。
Biocartesian:組織データ×分子発見
スタートアップ概要
共同創業者
Ian Dardani:顕微鏡技術や分子ツール、工学の専門家。ケンブリッジでBioscience Enterpriseを学び、UPennでバイオエンジニアリングのPhDを取得。
Jess Li:遺伝学、エピジェネティクス、次世代シーケンシングの専門家。UPennでPhDを取得し、imvariaでビジネスデベロップメントを担当。
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:生物組織をデジタル分子マップに変換するサービスを提供
事業・サービス・テクノロジー詳細
病変組織における異常分子の包括的なマッピングを行い、治療法の発見を加速。
従来の技術では見えない多くの分子を可視化(顕微鏡と化学技術の統合)し、科学者がデータ収集に費やす時間とコストを削減。
実験者が試料をラボに送ることで、デジタルマップの作成が自動化され、数か月かかるデータ収集がAI主導の解析により迅速に行われる。
Ångström AI:生成AIによる分子相互作用のシミュレーション
スタートアップ概要
共同創業者
Javier Antoran:ケンブリッジ大学で確率モデリングと機械学習のPhDを取得。Google、Microsoft、Quant Financeでの研究経験を持ち、生成AIによる分子シミュレーションを用いて創薬プロセスを加速することに注力。
Jose Miguel Hernandez Lobato: ケンブリッジ大学の機械学習教授。20年以上の機械学習分野での研究経験を持ち、論文の被引用数は15,000回以上。特に創薬や生成モデリングに関する研究が注目されている。
Laurence Midgley:ケンブリッジ大学で分子システム向けの生成AIモデルのPhDを取得。InstaDeep(BioNTechにより買収)で研究エンジニアとしても活躍し、物理方程式に基づくAIの開発に携わった。
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:製薬会社やバイオテクノロジー企業向けに生成AIを活用した分子シミュレーション技術の提供
事業・サービス・テクノロジー詳細
物理法則に基づいた生成AIを使用し、薬物の分子相互作用をシミュレーション。
量子力学的に正確な物理モデル(MACEモデル: )を用いたシミュレーションを活用
非物理的な遷移を高速に行うことで、計算コストを削減しながら高精度なシミュレーションを実現。
ウェットラボ実験を高速かつ低コストで代替。
複数の分子間の相互作用を物理的に正確にシミュレートし、薬の溶解度や生物学的利用能を予測。
AminoAnalytica:酵素設計
スタートアップ概要
共同創業者
Abhi Rajendran:インペリアル・カレッジ・ロンドン出身で、以前はメルセデスF1チームで働いていた経験を持つ。データ集約型環境でAIツールを構築しており、AminoAnalyticaは彼の計算生物学の修士プロジェクトから着想を得て設立された。
Adam Wu:インペリアル・カレッジ・ロンドンの材料科学者で、アカデミックおよび産業のウェットラボでの経験を持つ。製品設計、製造、産業研究所での経験を活かして、バイオセンシングや組織工学に取り組む。
Matteo Peluso:チューリッヒ大学でバイオインフォマティクスのPhDを取得。生物学、機械学習、ソフトウェア開発の専門家として、AminoAnalyticaの技術を支えている。
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:AIを活用して健康や栄養のための次世代酵素の設計
事業・サービス・テクノロジー詳細
ドメイン特化型AIモデルを使用し、安定性や効率性に優れた新しい酵素を設計。健康や栄養に関連する用途に特化している。
ChatGPTが人間の言語を理解するように、AminoAnalyticaのAIモデルは生物学を理解し、酵素やタンパク質を工業や治療用に最適化している。
製薬、気候技術、水産養殖、消費財など、さまざまな業界で使用できる酵素の設計と最適化を実施。
Ligo Biosciences:酵素設計
スタートアップ概要
共同創業者
Edward Harris:プリンストン大学でコンピュータサイエンスを学び、オックスフォード大学で医学を学ぶ。19歳で最初のスタートアップをメキシコで立ち上げ、年商$1Mを達成した経験を持つ。
Emily Egerton-Warburton:CSO兼共同創業者。オックスフォード大学の生化学者で、バイオ燃料やワクチン開発に従事。バイオテクノロジースタートアップでの経験を活かし、酵素設計に注力。
Arda Goreci:オックスフォード大学で細胞・システム生物学を学び、Google Cloud Research Innovatorに選ばれた実績を持つ。
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:AIを活用して健康や栄養のための次世代酵素の設計
事業・サービス・テクノロジー詳細
ディープラーニングを使用して、従来の化学合成を置き換える新しい酵素を開発。数日で酵素設計が可能となり、化学反応の持続可能性と効率性を向上。
酵素は低温・低圧で反応を促進し、化学合成を迅速かつ低コストで行う。
大量のデータから触媒作用の原理を学び、酵素をゼロから設計。これにより、これまで不可能だった反応も加速させることができる。
すでにBasecamp Research社およびAdaptyv Bio社とパートナーシップを結んでいる。
Ligo BiosciencesのDiffusionモデル
ACX:細菌の自然な殺菌力×医薬品
スタートアップ概要
共同創業者
Emmanouela Petsolari: ケンブリッジ大学で生化学および生物物理学の博士号を取得。免疫学、がん、マラリアワクチン開発、ウイルス治療薬開発といった広範な分野で研究を行ってきた経験を持つ。
Melina Petsolari:キングスカレッジロンドンでコンピュータサイエンスの博士号を取得。デジタルヘルス、ロボティクス、プライバシー対応技術、AIや自然言語処理の研究を行い、デジタルヘルスケアにおけるハードウェアおよびソフトウェアの開発においても豊富な経験を持つ。
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:細菌が持つ自然の病原体殺傷力を活用した治療法を開発
事業・サービス・テクノロジー詳細
細菌が持つ自然な病原体殺傷メカニズムを再現し、既存の治療法では対応できない病原体やがんの進化に対抗できる治療法を開発してる。
最初は、動物用の医薬品と作物生産のための薬の開発に焦点を当てているが、将来的には人間のがん治療にも適用する予定。
ACXの技術の特徴は下記の通り。
高い殺傷効果と特異性を持ち、副作用なしで悪性細胞のみを狙い撃ちにするよう設計している。
複数の病気や生物に対応できるプラットフォームとして拡張可能。
大規模製造が可能で、安定した生産が容易。
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