Y Combinator発スタートアップ③_S24「Healthcare」-3
Y Combinator Summer 2024 (YC S24)Batchで採択され、Demo Dayで発表を行ったスタートアップを紹介していく。
※本記事は、各社の公式サイトや関連の記事をもとに構成されています。
本記事の概要
本記事では、YC S24 Batchで採択されたスタートアップのうち「Healthcare」で分類されている、スタートアップ9社を紹介する。(スタートアップの分類と数については、YCサイト「Startup Directory」を参考)。
Healthcareで分類されているスタートアップは25社(全体の約10%)。
そのうちSoma Lab, Vera Health, Guardian AI, Taxo, Tivaraの5社を紹介する。
*但し、これらのスタートアップは設立されたばかりで、公開されている情報が限られていることにご注意ください。
YC S24 Batch採択スタートアップ_「Healthcare」-3
Soma Lab:医師・医学生向け教育AIツール
スタートアップ概要
共同創業者
Tiko Bdoyan:シカゴ大学で機械学習の研究者として活躍
Vrishank Saini:シカゴ大学で神経科学を専攻しており、神経科学とコンピュータサイエンスを融合させて医療教育の革新を推進
所在地:-
事業・サービス内容:AIを活用した医療教育を効率化・スケール化するプラットフォームの提供
事業・サービス・テクノロジー詳細
主に医学生や医師向けに、リアルな患者シミュレーションを使って、実際に患者を診る前に臨床トレーニングを行う医療教育AIプラットフォームを提供している。
AIを利用した患者シミュレーションを提供し、学生や医師が患者とのやり取りを実践的に学ぶことが可能。
従来のように1対1での訓練(模擬患者役を使う)が必要なくなり、より多くの学生が同時に学習可能。
オンデマンドで利用できるため、医学生や医師は自分のペースで練習可能。
医療学校や病院は、従来の教育手法を補完する形でこのシステムを導入可能。
Vera Health:AIを活用した臨床判断支援
スタートアップ概要
共同創業者
Taieb Bennani:バイオメディカルエンジニアリングをYale大学で学び、MITでデータサイエンスを専攻した背景を持つ
Maxime Allouch:MIT、ソルボンヌ大学、HECで学び、ビジネスとAIの両分野で高い知識と経験を持つ
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:AIベースの臨床意思決定サポートプラットフォームの開発
事業・サービス・テクノロジー詳細
医療提供者、特に救急医師向けに、最新のエビデンスに基づいた信頼性の高い情報を迅速に提供するAIベースの臨床意思決定サポートプラットフォームを提供している。
Vera Healthは、250億件以上の信頼できる医療文献データベースを活用し、AIモデルを用いて正確で信頼性のあるデータを抽出・統合し提供。
従来の方法と比較して10倍速く信頼性の高い情報を取得可能。
専門医やバイオテクノロジー研究者を対象にクローズドベータ版を提供。参加者からは、情報の正確性、信頼性、そして迅速な検索機能に対して高い評価を得ている。
Guardian AI:保険請求の拒否および未払い請求対応
スタートアップ概要
共同創業者
Mayank Jain:Palantirの病院チームでリードとして活躍。スタッフ管理やスケジューリング製品の開発に携わった経験を持つ
Maxime Allouch:PalantirでRevenue Cycle Management(収益サイクル管理)チームを率いて活躍
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:医療機関向けの保険拒否対応支援プラットフォームの提供
事業・サービス・テクノロジー詳細
病院、MSO(医療サービス組織)、および医師グループが、保険請求の拒否と未払い請求に対応するためのAIプラットフォームを提供している。
このプラットフォームは、保険会社の支払い傾向をリアルタイムで検出、未払い請求や拒否された請求の診断と解決を自動化の機能を備える。
保険会社のポータルやEHR(電子健康記録)システムと統合し、請求プロセスを管理。
保険会社への電話、請求の修正、再提出などを自動的に行い、医療機関の作業負担を軽減。
米国の病院の約40%は運営マージンが赤字で、Guardianはこれらの病院を支援することで、医療機関の閉鎖を防ぎ、収益を向上させることを目指している。
サービス開始後わずか1ヶ月で、保険請求に関する$150K以上の収益回収を支援した。
Taxo:医療請求とコーディングの自動化
スタートアップ概要
共同創業者
Ahmed Kerwan:現役の医師で、AIと医療の融合に強い関心を持ち、ハーバードでフェローシップを取得し、AIによる医療自動化を研究に従事。
Hassan Tahir:最先端のディープラーニングエンジニアであり、LLMの開発をリード
所在地:San Francisco, CA
事業・サービス内容:医療請求とコーディングを自動化するプラットフォームの提供
事業・サービス・テクノロジー詳細
電子健康記録(EHR)と統合し、医療請求とコーディングを自動化するプラットフォームを提供している。
AIを活用したこのソリューションは、請求処理の時間とコストを90%以上削減し、医療提供者が事務作業に費やす時間を減らすことが可能。
将来的には優先承認以外にも、請求の却下、保険の確認、患者の手紙作成などの業務にもAIを活用し、医療機関の負担を軽減するシステムを構築する予定。
現在、Taxoは多くの医療機関と提携し、数千件の患者事例をより迅速かつ低コストで処理している。
Taxoの製品のデモ動画はこちら↓
Tivara:LLMを用いた医療保険承認の自動化
スタートアップ概要
共同創業者
Tej Seelamsetty:CSと金融工学を学び、大学費用を工面するために家の転売を行い、その後Fair Squareで成長を10倍にする業績を上げた。Bainでもコンサルタントとして勤務した経験を持つ
Aumesh Misra:MicrosoftやYCスタートアップCompoundでの経験を持ち、スタンフォードで使用される医療画像ソフトウェアの開発にも携わった
所在地:-
事業・サービス内容:医療機関向けに保険承認プロセスを自動化するAIプラットフォームの提供
事業・サービス・テクノロジー詳細
保険承認プロセスの中でも特に、「事前承認(Prior Authorization)」と呼ばれる、医師が患者の治療計画を保険会社に対して「医療的に必要」と証明する必要がある手続きを対象に、LLMを用いて承認申請を自動化するプラットフォームを提供している。
医療機関が保険会社に対して手動で行っていた事前承認プロセスをAIが自動化することにより、数日~数週間かかっていた承認作業を大幅に短縮可能。
所感
今回紹介したGuardian AI、Taxo、Tivaraの3社は、特に医療機関の保険請求業務にAIを活用して効率化を図るスタートアップである。これらの企業は「反復作業が多く時間を要する」保険請求業務に対してAIを適用し、医療機関の業務負担を大幅に軽減することを目指している。AI導入による業務効率の向上は明白だが、AIサービスが普及している現代においては、差別化が難しい点にも注意が必要である。
例えば、これらのスタートアップが他社とどのように差別化を図っているかを評価するためには、いくつかの重要な要素に注目する必要がある。まず、AIモデルの精度だ。AIが保険請求のデータを処理する際のエラー検出率や、拒否された請求をどれだけ正確に再処理できるかは、業界における重要な差別化要因となる。また、ユーザーインターフェースの使いやすさや、既存システム(EHRや保険会社のポータルなど)との統合性も、ユーザーにとっての使い勝手に大きく影響を与える。これらの要素が優れている企業は、競合よりも優位性を持つ可能性がある。
前回の記事でも記載したように、実際に自身でスタートアップが出しているプロダクトを使用してみる・見てみることが重要である。加えて、同業界のファウンダーやエキスパートとの意見交換も重要である。例えば、彼らが直面している具体的な課題や、既存のAIツールでは解決できていない問題点を聞き出すことで、より深い洞察が得られる。このようなプロセスを通じて、単にAIが業務を効率化するという点だけでなく、実際にどのような価値をもたらすのかを見極めることができると思う。
前回、前々回の記事はこちら↓