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スタートアップ紹介⑥「OUTPACE」

本記事の概要

  • OUTPACEは、AIを活用したタンパク質設計により、がん免疫細胞治療(CAR-T細胞療法)の効果と安全性を向上させる技術を開発

  • 2024年8月に自社パイプライン製品の臨床開発を進めるため、シリーズBで$144Mの資金を調達(RA Capital Managementがリード)


*こちらの記事は貼付のURLの記事やウェブサイトを参考に作成しております。

OUTPACEの企業概要

設立年:2020年
所在地:Seattle, WA, USA
ファウンダー:Marc Lajoie, Scott Boyken
事業概要:AIを活用したタンパク質設計技術の開発および細胞医療製品の開発
累計調達額:$199M
資金調達履歴

  • 2021:シリーズAで$30M調達

  • 2023:シリーズAで$25M調達

  • 2024:シリーズBで$144M調達

CAR-T細胞設計の重要性

CAR-T細胞の設計は、特定の抗原を認識し、がん細胞を特異的に攻撃するために非常に重要である。OUTPACEの技術を紹介の前に、まずはCAR-T細胞の設計について簡単に説明する

①標的抗原の選択

  • がん細胞特異的で、正常細胞にはほとんど発現していない抗原の選択

    • 単一の抗原ではなく複数の抗原を同時にターゲットできる、「Multispecific CAR-T細胞」の開発、等

②CAR構造の最適化

  • 抗原結合ドメイン、スペーサー、膜貫通ドメイン、シグナル伝達ドメインなど、CARの各構成要素を最適化。CAR-T細胞の効力と安定性の向上が期待できる

③T細胞の持続性

  • 長期的な治療効果を維持するために、T細胞が疲弊せず活性を保つように設計

④安全性の向上

  • 他の細胞・臓器へのオフターゲット効果を最小限に抑え、重篤な副作用のリスクを減少させるための設計

薬効の最大化

  • CAR-T細胞の効果を最大化するために、シグナル伝達経路の強化や、腫瘍微小環境(TME)での活性を維持する技術開発

新規技術でCAR-T細胞治療製品を開発しているスタートアップ例

  • Autolus Therapeutics(2014年創業、英国、2018年IPO)

    • 独自のプラットフォーム技術を活用して、T細胞の改変を行い、多様ながん細胞に対する特異性を持つCAR-T細胞を開発している

    • Multispecific CAR-T細胞(がん細胞の複数の異なる抗原に反応し、再発リスクを低減すること期待できる技術)のパイプライン例

      • AUTO1/22:Pediatric Acute Lymphoblastic Leukemia (ALL)に対するCD19とCD22の両方をターゲットとするCAR-T細胞療法。現在Phase1ステージ

      • AUTO9:Acute Myeloid Leukemiaに対するCD33、CD123とCLL1をターゲットとするCAR-T細胞療法。現在Preclinicalステージ

クリックするとAutolus Therapeutics社のHPへ移動

OUTPACEの技術

OUTSPACER™

CAR-T細胞設計における「②CAR構造の最適化」に関連した技術

OUTSPACER™の特徴

  • スペーサー長の調整

    • CARのスペーサー長を調整することで、最大のCAR活性を実現

    • AIを用いて新しいタンパク質の機能を設計し、CAR-T細胞の抗原受容体のジオメトリを最適化し、CAR-T細胞の効果を最適化する

  • 多様なライブラリ

    • 幅広い結合体と抗原ペアに対する活性を最適化するための多様なライブラリを提供

OUTSPACER™紹介図(OUTPACE HPより抜粋)
https://www.outpacebio.com/our-science#science-technology

OUTSMART™

CAR-T細胞設計における「⑤ 薬効の最大化」に関連した技術

OUTSMART™の特徴

  • 特定のサイトカインを産生し、免疫細胞を局所的に活性化

    • 特定のプロモーターや遺伝子発現制御要素を利用して、CAR-T細胞が腫瘍微小環境(TME)でのみサイトカインを産生するように設計

      • 例:TMEで特定のプロモーターが発現されることで、IL-2/15のようなサイトカインを局所的に分泌

    • サイトカインが産生されるとT細胞が活性化され、CAR-T細胞自体の機能が強化されるだけでなく、周囲の免疫細胞も活性化され、腫瘍に対する免疫応答が増強される

OUTSMART™紹介図(OUTPACE HPより抜粋)
https://www.outpacebio.com/our-science#science-technology

OUTLAST™

CAR-T細胞設計における「③T細胞の持続性」に関連した技術

OUTLAST™の特徴

  • T細胞の持続的な治療効果の維持

    • カスタム設計したタンパク質をCAR-T細胞が発現するように設計。細胞内のシグナル伝達に関わるキータンパク質を同時にターゲットして制御可能になり、T細胞を持続的に活性化させることができる

OUTLAST™紹介図(OUTPACE HPより抜粋)
https://www.outpacebio.com/our-science#science-technology

OUTSAFE™

CAR-T細胞設計における「④安全性の向上」に関連した技術

OUTSAFE™の特徴

  • 抗体で安全に制御可能な安全スイッチ

    • CAR-T細胞にEGF受容体を発現するように設計

    • 特定の抗体(例:セツキシマブ等)が結合することでCAR-T細胞を不活化することが可能になる

    • 副作用や問題が発生した場合、必要に応じてセツキシマブを投与することで治療の安全性を向上させることができる

OUTSAFE™紹介図(OUTPACE HPより抜粋)
https://www.outpacebio.com/our-science#science-technology

CO-LOCKR™

CAR-T細胞設計における「①標的抗原の選択」および「④安全性の向上」に関連した技術

CO-LOCKR™の特徴

  • 安全かつ効果的にがんを標的にするために設計されたターゲティング技術

    • 複数の抗原が同時に発現している場合にのみCAR-T細胞が活性化されるように設計

    • がん細胞の正常細胞とは異なる特定の抗原(タンパク質や糖鎖など)をターゲットにしている

    • 複数抗原が発現している場合のみに活性化すること、がん特異的な抗原をターゲットにしていることで、CAR-T細胞が正常細胞を攻撃することを防いでいる

CO-LOCKR™紹介図(OUTPACE HPより抜粋)
https://www.outpacebio.com/our-science#science-technology

OUTPACEのパイプライン

IND-Enablingステージの開発品を含む、4つのパイプラインを保有

OUTPACEのパイプライン(2024年8月現在、OUTPACE HPより抜粋)
https://www.outpacebio.com/our-science#science-pipeline

OPB-101

OUTPACEのリードプログラム
対象疾患:メソセリン(MSLN)を高発現する固形腫瘍をターゲット
細胞タイプ:自家CAR-T細胞

OPB-101の技術的な特徴

  • OUTSPACER™

    • MSLNをターゲットにしたCARのスペーサー長やバインダーの親和性を最適化し、T細胞の機能を最大化。

  • OUTLAST™

    • T細胞を持続的に活性化させるため、OP1プロモーターを使用してCARの発現を調節

  • OUTSMART™ IL2/15

    • サイトカインエンジニアリングにより、IL2/15を発現させ、CD8+ T細胞およびNK細胞の活性を維持し、T細胞の疲弊を防ぐように設計されている

  • OUTSAFE™(EGFRopt™、EGFRベースのセーフティスイッチ)

    • 治療の安全性を確保するために、抗EGFR抗体がEGFRに結合することで、CAR-T細胞を不活性化し、安全性を確保する

研究開発動向

  • OPB-101は、マウス腫瘍異種移植モデルにおいて非常に低い細胞投与量でも優れた有効性を示した

  • CAR-T製造技術は標準的なレンチウイルスおよび現在の臨床規模の製造プロセスに適合しており、製造プロセスの変更を必要としない

参考資料

https://cdn.prod.website-files.com/64e6998651bdf151c88e8ac0/6698483b924a4657d6850ef3_2024%20AACR%20Outpace_OPB-101.pdf

所感

  • CAR-T細胞医療製品は血液がん治療において、有効な治療法の一つとして確立されてきた。一方で、がん免疫細胞治療製品の課題である、固形がんに対する治療効果と安全性について、さらなる改良が必要であると考えている

    • Adaptimmune社の「Tecelra(TCR-T)」が転移性または切除不能な滑膜肉腫に対する治療薬として、2024年8月に初めてがん免疫細胞治療製品としてFDAに承認された

  • CAR-T細胞のように薬効または安全性向上のために様々な遺伝子パラメーターを改変・検証する必要がある場合には、AIが最も力を発揮できる分野の一つであると考える。どのようなタンパク質の設計が最適かを決定するのは難しい中で、候補をすぐに出すことができるため、in vitro / in vivoでの検証実験を効率的に行える。従来の特定のターゲットに対する化合物のスクリーニングもAIを活用することで効率が上がったが、細胞医療製品のように様々な変数を含むモダリティにはAIを活用した最適化が、プログラムの進捗に大きな影響を与えるかもしれない

  • AIは新しいものを創造するというよりも、これまで活用されていなかったデータを統合・解析し、必要なアウトプットを提供することに強みがあると考える
    そして、創薬研究者はAIを活用することで、実験の実務、データ考察や仮説の構築等に時間を多く割くことができる

  • OUTPACEのCAR-T細胞設計に特化したAIソリューションは、ニッチな領域に特化しているため、非常に高いアウトプット精度を実現している。この高精度なAI技術を活用することで、新しい創薬シーズを効率的に開発する大きな可能性がある

  • AIの効果を裏付けるためには、AIが利用するデータの質と量、そしてそのデータからどのようなモデルを構築するのかが重要である。例えば、高品質で多様なデータセットを使用することで、AIはより精度の高い予測モデルを構築することができる。また、AIがどのプロセスを効率化するのか、例えばデータ解析の自動化や分子スクリーニングの高速化など、それによってどのような人の仕事が効率化されるのかを明確にすることも重要である。これらの点を裏付けるデータとAI技術をスタートアップが保有しているかどうかを深掘りすることは、今後AIスタートアップを評価する上で非常に重要な観点となるだろう

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