通信制高校の生徒会活動の日常と、今後の展望とは?N/S高生徒会に迫る!(後編)
2022年、突如として結成されたN/S高生徒会。全国の生徒2万人からの選挙、1000万円の桁違いの予算。後編ではそんな規格外なN/S高生徒会の歩みに迫る。
産声を上げた生徒会
1期会長・石井さん「2022年11月、当選1週間後に東京都内のキャンパスで役員全員揃って一度ミーティングをしたほかは、オンライン上で活動していました。まさにゼロからのスタートでした。
最初、先述の歌舞伎座ツアーのような企画を担当する部署と、広報をはじめとした、生徒会自体の事務的な仕事をする部署の10人ずつに分かれました。ある程度活動の形ができてきた段階で、またもう一度組織を改変をして、細かな機能別の部署に分けていきました。非常に規模が大きな生徒会ということで、数の論理だけで物事を決めるのではなく、まずは熟議をしっかり尽くして決められるような制度設計を行っていきたいと思っていたので、10人程度の小さなくくりで議論をしてから、全体の集まる場で、さらにもう1回話し合った上で、多数決をしていく組織のシステムを作りました。」
具体的にどのような機能別でのチームがあったのだろうか。石井さんは例として広報と企画を上げた。
石井さん「例えばN/S高生徒会Twitter(X)アカウントの運用、全校生徒が使用しているSlackのお知らせチャンネルの運用といった広報を行うチームでしたりとか、あとは歌舞伎座ツアーのような企画を審議するチームがありました。」
2期会長・石田さん「2期では、学外営業・渉外担当、つまり学校外へアプローチする専門の部署を用意しました。あとは連携室といって、例えば海外の学校さんと一緒に活動するプログラムのプロジェクトを立ち上げて、28000人を超えるN高S高の生徒と、海外の方々を繋ぐ企画をするような部署があります。」
手探りの中活動を始めた生徒会。どんな反響があったのだろうか。
石井さん「突如生徒会結成が発表されたっていうこともあって、結成当初反響として驚きであったりとか期待もありましたし、中にはN/S高に生徒会は果たして必要なのか、といった厳しいご意見などもありました。そのあとも、『スピードが遅いのではないか』といった、我々の仕事に対するご批判、中には役員の行動に関する事実無根のデマが出て、それに関しての批判もありました。現状の政治みたいなものを実感することができた機会だったと思います。」
「生徒会は必要なのか」は筆者自身も生徒会時代投げかけられた話でもある。目立つ立場の中、頑張ってこられたんだなというのがにじみ出るお話であった。
そうして結成以後、前編で触れたようなイベントをはじめとした企画を打ち出してきた生徒会。ほかにした独自の取り組みとして、石井さんは振り返り企画を上げた。
石井さん「他の学校にないというところで言えば、任期が終わったときに1年間の活動を振り返る生徒会ライブという配信番組をYouTubeライブやニコニコ生放送で、バラエティー番組のような形で行いました。」
生徒会においてフィードバックは欠けがちである。
言ったことが実行されているのか、取り組みの過程はどうだったか、そういったことがまとめられず、ノウハウがブツ切りになり、有言不実行な生徒会が生まれる例は少なくない。
そんな中1年目から、振り返りまでくまなく成し遂げた。
2期の生徒会は、そんな1期生徒会の背中を見て、どのような生徒会を作り上げていきたいと思ったのか。
石田さん「1期の方々が作ってくださった基盤を引き継いでいきたい。ただその中でも、3期4期といった未来を見据えたときに、正しく引き継がれていくものなのか、その難易度が高くないのか。必要なフローの工数が多すぎることはないか。1期を知らない2期が客観的な目で振り返ることで、より良い活動につなげていこうと思っているところです。2023年8月に2期が発足して以降そういった振り返りを進めていたほか、2期独自の企画も実行してきました。例えば、ウクライナ漫画プロジェクト「CEoWプロジェクト」では、株式会社Faina様と協力し、N/S高の生徒から希望者を募り、ウクライナの子どもたちを元気づけるための漫画を制作しました。
ほかに今年1月には、同じ角川ドワンゴ学園のN中等部との交流企画を行い、模擬生徒会をテーマとしてN中等部の各キャンパスへ出張授業を行いました。私も秋葉原にあるキャンパスへ出向き、N中等部生との交流を楽しみながら授業を行ってきました。N中等部生からの反応も良く、N中等部とN/S高の連携がより深くなるように、次のアクションに向けてさらに議論を始めています。
また、学園の文化祭である磁石祭を今年度の「磁石祭2024」から生徒会が主導し、ゲスト招待費用や、企画に必要な物品購入費の一部支援等、磁石祭をより良いものにするために生徒会予算である1000万円の一部を生徒への企画支援に充当しました。また、生徒会としても多数の企画を出展し、2期生徒会らしい企画や文化祭らしいステージ等を実施できたと思っています。
他にも、部活動の企画への支援や、生徒が発案した企画への支援も行っています。
企画以外に、生徒会内部システムの変更も実施してきました。1期から設置されている、Google Formを活用して生徒の声を聞く「生徒会ポスト」を改修し、より目的にあった方法で生徒会に意見を届けることが出来るようになったと共に、3期以降もメンテナンスしやすい環境を整えています。」
生徒会の自治性は多くの学校で形骸化している。生徒会における意思決定に教職員が介入したり、あるいは生徒会費の配分も実質固定化され、生徒会の裁量で使える分がごくわずかであることが多い。例えば筆者が卒業した高校では一人1000円/月、合わせて全校で約1500万/年の生徒会費が徴収されていたものの、内訳は多くが部活動の活動費で、生徒会の権限で支出できる予算はごくごくわずかであった。
その中で1000万という桁の違うお金を生徒会が使っていくというのは、まさにこれからの生徒会を示す先例である。すなわち、生徒会というものが持つ仕事や権限の幅を広げるべきか、現状維持か。N/S高生徒会の方々は実際に自分たちがこの決裁権限を得て、実際にその権限を使ってみて、どのように感じたか、どのように考えたのだろうか。
石井さん「活動が世の中に広がっていく可能性を広げる鏑矢になったのではないかなと思いながら活動してきました。生徒会は民主主義を実践的に学ぶことができる教育のシステムになっていますから、いま、若者の投票率が下がっていると言われている中、こういった取り組みが広まっていくことで、N/S高のように、一票を投じたことで学校を変えることができるっていう「投票有効性感覚」とでもいうべきものに気づいていただくことができる。こういったことを通じて、若者の低投票率問題っていうのも改善できるんではないかなと思いながら活動していました。私は大きな力には責任が伴うというのを胸に活動してきました。ときに投票する有権者として、そしてときに実際に物事を動かす為政者として、自分が行動すれば、思いのもとを変えることができるという主権者意識を得られるものであると思います。」
山代さん「N/S高生徒会の1000万円で、例えば少し使い方を誤って失敗したとして、自分の今後の立場が大変危うくなるということはないですよね。高校の活動は社会に出る前に最後に失敗ができる場所だと思っていて。社会で失敗をしちゃったら取り返しのつかないようなことでも、高校はまだフォローしてもらえたり支えてもらえる場所だと思うので、こういう場所が生徒会活動に限らず、他の高校でもあればいいなとずっと思っています。」
石田さん「予算の配分の話を役員としていたときに、人それぞれ予算に対する向き合い方が違うなと思ったのがまず大きな学びでした。例えば、この学園には実行委員(※各種イベント運営・広報活動等を行う生徒組織で、ナレッジベース(学園内ヘルプセンター)実行委員、N/S高新聞実行委員、体験学習実行委員、バーチャルイベント実行委員がある。)と呼ばれる委員会もありますし、部活もあるので、そこにお金を回すべきなんじゃないかとか、逆に『この企画にこんだけお金を使ったら、この後お金使えなくなっちゃうよね』というような心配する人だったりとか、ここで投資をすればこの後こういうふうに活きるかもしれないよねという可能性に目を向ける人だったり、それぞれ違う視点を持って、そしてそれをぶつけ合いながら、より良い企画を作っていくことができる場所がN/S高の生徒会です。それが他の学校でも同じような議論が行われるとしたら、『こういった環境が高校生にとってどれだけプラスの経験になっているのか』という、生徒会活動の可能性について、さらに議論ができるといいなと思っています。」
【取材】桃井晴崇(生徒会活動振興会編集長)