ワタクシ流業界絵コンテ#10

 漫画原作をアニメにする場合の難しさとは、原作をいかに再現するかにあります。かたや紙、かたやフィルムと媒体は違えど、見る側にとっては同じ『マンガ』なわけです。絵柄や世界観など設定面に気を遣うのは当然として、厄介なのは視聴者側の時間感覚との摺り合わせと、オリジナル要素をいかに入れていくかの二点です。漫画はページをめくり、コマを目で追うことによって楽しむものです。読者それぞれに自分のテンポ、時間感覚というものがある以上、読む行為そのものは同じに見えても、その頭の中では他人とは異なる時間軸でその漫画のストーリーが再現展開されている筈です。とはいえ、漫画が自分で積極的に解釈して消費していくメディアであるのに対して、アニメは映像であり、見る人間が受け取るメディアです。いわば作品の時間軸を作る側が規定していかなければなりません。そうなってくるとストーリーに盛り込んでいくエピソードや情報も匙加減が微妙になってきます。
 さて、「ちびまる子ちゃん」第六話の絵コンテはというと、監督はあーでもないこーでもないとダメを出し、僕は僕であーそうですか、ちっくしょうとガシガシコンテを直し、横でスケジュール管理をしている制作進行は顔を青ざめ、とまぁそんな日々が続き、ある時ようやくOKが出ました。

 Aパート 117カット
 Bパート 144カット

 さくらさんの漫画を読むだけ読み、使えそうな小ネタやエピソードを盛り込んではみたものの「後の話数で使うかもしれないモノはダメ」ということで没になり(そりゃそうだ)、「エピソードをふくらませるのと過剰な表現は別だよ」と言われては一つ一つの描写の意味を吟味しつつふくらませては削りを繰り返した果ての決定稿…今見直してみるとダメを出された意味がよくわかります。原作を再現しようとするのではなく、もっと面白くしてやれという力みが心情表現を単なる段取りにしてしまっていたのでしょう。じっくり見せるということと、面白おかしくする事の違いを監督は言いたかったのだと思います。そんなことは生意気だった当時にはわかる筈もなく(そこら辺に気がつくのはもう少し後になります)、半年あまりの試行錯誤の後、「ちびまる子ちゃん」のフォーマットは

 20分で200カット前後

と定められました。通常のTVアニメの場合ですと、240から300カットくらいで20分ですからかなり少ないカット数です。その分、まる子達の会話や仕草をじっくりと見せることができ、独特のテンポが視聴者を引き込む結果となりました。ちょうどこうしたペースが作風としてスタッフや視聴者に浸透していった8月過ぎ、視聴率が39パーセントを越えました。

NHK出版『放送文化』2001年1月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)