ワタクシ流業界絵コンテ#03
えー、前回は「いかにアニメの演出家がセルアニメのシステムの上に胡座をかいてきたか」ってなことをぼやく知り合いの話を引き合いに出しましたが、今回のお題はそのまま「セルアニメのシステム」について少々──
はっきり言って毎週、20分のフィルムを作るのは大変です。役者の芝居を撮影する実写と違って、キャラクターが芝居をしている(動いている)ように見せるためには沢山絵を描かなくてはいけません(3000〜4000枚が平均)。それをセルにトレースして色を塗って、その一方では背景や諸々の素材を作成して揃えて、ようやく撮影に回すことが出来るわけです。しかし、その前後にも脚本、ストーリーボード、編集、音響作業というプロセスがありますから、一本のアニメに携わるスタッフの数たるや……まぁ、数えたことがないのでわかりませんが非常に沢山いることは確かです。本来ならばじっくり各セクションと綿密なる打ち合わせ、といきたいところですが、番組編成が決まってから慌てて作業に突入することもしょっちゅうなのがこの業界です。そこでどうするのか?そこは勤勉たる日本人、制約の中での創意工夫というわけで、各セクションの担当者が自分の責任と誇りをかけて様々な技術の開発に取り組みました。そうこうして30年余、TVアニメ独自の制作システムが形成されていったのです。
現在、酷い制作状況の作品の場合、アフレコやダビングに、素抜けのフィルムにセリフや効果音のタイミングを配したのみの素材を使用して作業を行なうことがあります。下手をすると色を塗ったセルを使用したフィルムを監督が初めて観たのが納品前のフォーマット作成時なんてことも(しかも当日納品!)。しかし、納品拒否もなく無事にオンエアされてしまうのは何故なのか?それは各セクションが、前後のセクションがおそらくやってくれるであろう作業を経験上知っているからに他なりません。曰く、
「とりあえずやっときました」
「あとはよろしく」
『とりあえず』な作業の積み重ねが『あとはよろしく』とばかりにパズル状に組み合わさって放映日前日にフィルムになる様は正に神業……綱渡りです。しかしこのやり方ならば、ある程度の方向性を演出家が示せば自発的に各スタッフが動いてくれるため、多少のアクシデントも何のその、あげくには演出家が何をしなくてもフィルムが出来上がってしまう場合もある始末です。演出家が各セクションの担当者の顔を知らずにシリーズを終える、なんてこともしばしばあり、これではいつかは行き詰まるんじゃあと危惧を抱いた業界人も数多いのではないでしょうか。ちょうどそんな時に起こったのがデジタル化の波です。これは演出家にとって「演出って何?」ということを再認識させてくれるいいきっかけになる筈なのですが……行数がなくなってしまいました。それではまた来月!※
NHK出版『放送文化』2000年6月号掲載
※noteでは来週更新しますので念のため。
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)