アナザー・バスカッシュ! #06
第六話『ザ・マミー・ハンター』
「親父、いい話があるんだけどなァ~」
「またか!! いいか、お前。人をペテンを掛けるんだったら、いいかげん他人にしろよ!」
エクセレントシティの第10番街の片隅に、知る人ぞ知るという靴屋がある。その名は『シューレス・ジョーの店』。別に裸足好きが集まる店だというわけではない。店主の作った靴が、まるで裸足のままでいるかのように軽く、自然に履ける靴だという事で、常連に勧められて改名した屋号であった。その前は『ジェファーソン製靴店』。明らかに改名後の方がインパクトも大きく、売っている靴自体も素晴らしい品質だったので、寂れた第10番街の中でも、ジョーの店はそれなりに繁盛していた。
「なあ親父、話くらい聞いてくれよ。俺だっていい加減な話ばかり持って来ているわけじゃないだろう? 当たるも八卦当たらぬも八卦……」
「バカもん! それがいい加減だと言うんじゃ! お前がわしの息子じゃなかったら、そのツラの皮を靴底に打ちつけてるトコロじゃぞい!」
サミエル・ジェファーソンは、ジョセフ・ジェファーソンを説得していた。ジョセフは『シューレス・ジョーの店』の店主であり、サミエルはその息子である。勤勉なジョセフに対し、サミエルは定職にも就かず、いつもフラフラしていた。そのくせ態度だけは自信満々で、「いい話がある」と言っては友人知人を巻き込んで、毎度騒ぎを起こしていたために、今では第10番街でサミエルの話を真っ当に聞こうなんていう奇特な人間は誰一人いなかった。
「お前の詐欺師ぶりはこの辺りじゃ知らない者は誰もいない。目を醒ませ! 何処の街でもいい、とにかく真面目に働け!」
「いや、ひらめいたんだよ。今度の話は凄いぜ!」
「お前のひらめきは当てにならん!」
ジョセフは、息子の言葉に何だかんだで度々だまされていた。いや、だまされたふりをしていたのかもしれない。これが切っ掛けで息子が真っ当な道に行けば良い……そう思って敢えて金の工面をし、手渡してきた。しかし、ジョセフも最近は自身の腕の衰えを感じていた。それ故に彼は、息子に自立を促し、その後自分は隠居をして呑気に暮らそうと思っていた。なのにサミエルは、相変わらずの極楽トンボぶりである。
「ビッグフットのさ、靴を作るんだよ!」
「はあ? お前何を言っているのかわかってるのか?」
「当たり前だ! 今流行ってるんだよ、バスカッシュ! だから、そういう客向けにビッグフット用のバッシュを作るんだ!」
ジョセフもバスカッシュに関しては聞いている。ビッグフットの行うストリートスタイル。OCB(オープン・シティ・バスケ)というオフィシャルに対抗して、あくまでもバスカッシュはゲリラに行われているという。真夜中に行われる秘密のスポーツ、そんな触れ込みだった。
「こっそり泥棒みたいな球遊びをしている連中が金なんか持っとるのか? わしはボランティアで靴を作る気はないぞい!」
「わかってねえ、わかってねえなァ親父ってばよォ」
「わからんで結構。さ、仕事の邪魔だ。どっかで食い扶持でも探してこい」
「バスカッシュにルナテックが絡んでるんだ!」
「ん?」
ルナテックとは月の総合企業である。惑星アースダッシュにおけるビッグフットの普及ぶりも、ルナテックの安価な機体提供のおかげであった。若者の単なる遊びであるバスカッシュに、そんな大企業が興味を持っている……サミエルは、必死にバスカッシュの先進性を父親に説いた。
「俺の仕入れた情報によればよォ、チーム・バスカッシュってぇチームのビッグフットの履いてるシューズの普及モデルってえのが生産始まるらしいんだよ。で、その予約がすげえ。500足限定って発表と同時に即完売だ」
「ほぉ、すごいの」
「あれ。あんまり驚かないね」
「そのシューズはどうやって作るんじゃ? どうせ工場で大規模生産ってヤツじゃろう。わしは一人でコツコツ作っとるんじゃぞ。土俵が違う。羨ましいとも何とも思わんわい」
「そう来ると思ったぜ。俺達はワン&オンリーで行くのよ、親父」
「ワン&オンリー?」
「顧客の思った通りの素敵な靴を作る。人間相手にそんな立派な商売しているあんただ。絶対ビッグフット相手だって、そういう魔法の靴が作れる筈だ!」
「作れてもイヤじゃよ」
「自信ねえのか、情けねえ」
「何じゃと?!」
怒りながらもジョセフは、再びサミエルの口車に乗せられるフリをする自分に自己嫌悪を感じていた。
(今度だけだぞ、息子よ……)
かくして、ジョセフとサミエルはビッグフット用のシューズ開発に乗り出す事になった。
× × ×
靴を作るには、まずは履き手のビッグフットがどう動くかを観察しなければならない。サミエルは、これまた口車に乗せたと思われるビッグフット乗りを二人連れてきた。
「このデカイ奴はゲイル。バスケは素人だが、ビッグフットでビルの解体作業やってる。で、もう一人のチビッコは学生で、とにかくバスケがすげえ上手い。名前は……えーと何だっけ?」
「シルフィード・ドランです」
「そうそう、シルフィ! ビッグフットに乗るのはこれからだけど、ゲイルと足して二で割りゃいいコンビだろ?」
「何じゃ?バスケを知らないヤツとビッグフットに乗った事の無いヤツとな。お前、真面目に仕事をしようという気はあるのか?」
「ば、親父! 大ありに決まってるだろ! ゲイルのツテがあるからビッグフットをこうして二台も用意出来てるんだし、シルフィがいるから二台目に乗る人間が間に合ってる。完璧じゃん!」
「わしには取って付けた言い訳にしか思えん」
しかし、予想に反してゲイルとシルフィは、意外に使える人材のようだった。ゲイルはビッグフットを上手く使う。確かにドリブルはヘタクソだったが、バスケ経験者であるシルフィが教える事によってどんどん巧みになっていく。かたやシルフィには、ゲイルがビッグフットの操縦を教える。結果二人は、それなりに1on1らしき動きがわずか数時間で行えるようになっていた。
「ふうむ……」
「どうだい、親父。俺の人を見る目は確かだろ? 一人一人の力は小さいけれど、1足す1は3にも4にもなるんだぜ」
「どこで見つけた?」
「え?」
「あの二人じゃよ」
「大通りの裏手にあるスポーツバーだよ。最近あそこはバスカッシュの試合をよく流してるのよ。物欲しそうにモニターをポケーッと見ているヤツらがいたんで声掛けた」
「フム……偶然とはいえ、なかなか良い動きをしておるな」
「だろう? どうだいオレの、人を見る目は!」
「しかし、あれじゃあシューズのモニターとはまだ言えんな」
「何だとォ?!」
「おい!お前ら、降りてこい!」
ジョセフは、ビッグフットから降りてきたゲイルにこう言った。
「お前は手癖だけでやろうとしてるな。デカイ体をしてる割りに妙にちんまりじゃ。ビッグフットの名前が泣くぞい」
「そんな事言っても、オレはビルのぶっ壊し屋だし……こんなに走ったり跳んだりするのなんか初めてなんですよ」
「お前さんは、ビッグフットで『走る』事をとにかく覚えろ」
続いてシルフィードにはこう言った。
「お前さんはチョコマカ動きすぎるのォ。何だかオモチャのようじゃ」
「ちぇっ、ここでも言われたか」
「ふん、どうやらそのチョコマカはお前さんのチャームポイントのようじゃが、逆にウイークポイントでもある。足がバタバタしてて動きが無駄じゃ」
「う」
「ビッグフットの足に掛かる力がバラけているからの。お前さん、拇子球を知っとるか?」
「ぼしきゅう?」
「足の親指……付け根のふくらんだ所じゃ。人は歩いたり走ったりする時はまずカカトで着地をして蹴り出す時には拇子球に力が入る。しかしお前さんのビッグフットはカカトで着地して、その力は足の小指側に逃げておる。これじゃあ本来のスピードが出ない。だからジタバタして悪足掻きじゃ」
「…………」
「お前さんもダッシュの練習からやり直しじゃ。『走る』事のイメージをリセットしろ」
かくして二人はジョセフの指揮の下、生身で走る事から始める事になった。
「おいおい、親父。俺達はビッグフットのシューズを作るんだぜ。何で乗るヤツを走らせてるんだよ」
「バカかお前は。ビッグフットは自身のセンスがまんま反映される機械じゃ。体の使い方が下手な奴が上手く乗りこなせると思うか?」
「まあ……そうだけど」
ジョセフは執拗に重心の移動と腰の使い方を二人に説いた。驚く事に、ジョセフの指示は的確で、サミエルにも二人の走り方が変わっていくのが明らかにわかった。
「これでお前さん達の『走る』事へのイメージは前と違うものになったと思うが……どうじゃ?」
「オレ、こんなに気持ち良く走ったの初めてですよ」
ゲイルは顔を紅潮させながら言った。
「足が前に進むってのはこういう事なんですね」
「お前さんはどうじゃ?」
「オレも同じです」
シルフィも愉快そうだった。
「ビッグフットに乗れって言われたのに、生身で走らされて……でも気分良いですよ。何だろ、これ?」
「走るってのはな、飛ぶ事の出来ない人間が、地上の重力から唯一自由になる瞬間を得る事が出来る。ほんの一瞬じゃがな」
「重力から……自由、ですか」
「うむ。その延長に跳躍があり、走る事を極めれば、更に人は宙に浮く事が出来る。よし、今の感覚を忘れずに、ビッグフットに乗ってみろ」
ゲイルとシルフィは、再びビッグフットに乗ると生身の時同様にダッシュを数本走った。
「うぉっ、あいつらプロみたいな動きじゃねえか。すげえ!」
切れの良いダッシュにサミエルは思わず声を上げた。ゲイルの機体もシルフィの機体も、カカトから拇子球への重心移動が的確に為されている。ビッグフットの優秀さはサミエルも知っていたつもりではいたが、こうして人間の動きのイメージが素直に反映されているのを間近で見るのは初めてだった。
「すげえな、親父。ビッグフットは……」
「ふん、そうじゃな。ちょっと面白そうじゃ」
「え?」
「おい、明日もう一台用意しておけ」
「一台? 何のだよ?」
「ビッグフットに決まっとるだろう。わしも乗る。色々奴らに仕込まんといかんからのォ」
「ええええええッ?!」
× × ×
翌日からは、ジョセフ自らビッグフットに搭乗しての直接指導が始まった。本来、ビッグフットには『適正』があり、どんな金持ちでも、ビッグフットへの相性が悪ければ機体を買う事は出来ても、搭乗する事が出来なかった。サミエルは老齢であるジョセフの搭乗には反対だったが、意外な事にジョセフには『適正』があり、ごく当たり前のようにビッグフットを操縦する事が出来た。
「こいつはビックリだな」
サミエルは唖然としながら、グラウンドを走るジョセフの乗機を眺めていた。
「走る時には拇子球で蹴り出せ、と言ったが、バスケや他のスポーツでもそうじゃ、膝を常に楽にしておかないと不意な動きが出来ん」
そう言ってジョセフは自身の搭乗する機体を中腰の姿勢にした。
「立つ時に腰が引けているとワンアクション余計に動かないと次のアクションに繋がらん。だから……」
ジョセフ機は前傾姿勢でもない、かと言ってそっくり返ってもいない、ごく当たり前の立ち姿から不意にステップを踏んだ。
「足裏全てに重心を掛けろ。そうすれば大概の動きには対応出来る」
「足裏全て?」
「どうやるんです?」
「お前さん達のビッグフットの足を見てみい」
アユカワファクトリーのリチューンモデルが発表されて以来、ビッグフットの足には指がついているのが定番になっていた。当然、二人の機体にも足指がある。専用シューズはまだ未製作なため、ジョセフの機体も合わせて三機のビッグフットは、トラックのタイヤを切り取って作った簡易式のサンダルを履いていた。
「足の指でしっかり地面を掴め。少し前のめりだと思うくらいがちょうどいい」
「あ、ホントだ!」
「立つのが楽ですね」
(楽なのはビッグフット! 乗ってる人間じゃねえだろが!)
内心で突っ込みながらも、サミエルは不思議な気分にとらわれていた。
(ビッグフットってのは、操縦するってんじゃないのかもしれねえな)
ジョセフは機械オンチである。彼が靴用のミシンを導入しないのは手作りにこだわっていたせいもあったが、半分は機械に対してのアレルギーが強かったからである。しかしそんなジョセフが、何とはなしにビッグフットに乗り込み、あまつさえ他人に機体の重心のかけ方についての教示までしている。
(それにしても、親父……靴はいつ作るんだ?)
× × ×
ジョセフの『教室』は、毎日夕方から始まり、夜中まで続く事もあった。したがって練習後、四人で晩飯を食べる事もしばしばだった。そうした場合、大概料理の腕を振るうのはサミエルの役割だった。
「外食は金が掛かっていかん。お前が作れ」
確かにゲイルとシルフィへのギャラも払わないといけない。その辺りを誤魔化すためにも、サミエルは取りあえず美味いものを作る事に専念した。幸い、飲み屋の女のヒモをしていた時に飲食の真似事をしていたので、それなりにレパートリーは広かった。
「美味いな、このパスタ!ソースが美味い!」
「お店が出来ますね、サミエルさん」
「まあな。昔やってたんだよ」
「どうして辞めちゃったんですか?」
「女が逃げちまったのよ。男作ってな」
「ヒモが女寝取られるって、どんな甲斐性無しじゃい」
「うるせい、親父!」
不意にシルフィードがつぶやいた。
「甲斐性無し……ですよね」
「何だとォ?!」
「あ、オレの事です、オレ」
「シルフィ、お前もヒモなのか?」
「ま、それに近いですね」
ポツリポツリ語り出したシルフィの話によると、彼は上級学校に通いながら働いていたが、勤め先の工場が先月つぶれてしまったという。一緒に住んでいる女性が生活費を稼いでくれているが、なかなか肩身が狭い、と。
「で、このゴク潰しの口車に乗っちまったというわけか。弱り目に祟り目じゃな」
「誰がゴク潰しだよ!」
「そうか。そういう事ならば、そろそろ始めんといかんのォ」
「お、親父! ついにやる気になったのか!?」
「明日からはディフェンスとオフェンス、両方一気にやる事にしよう」
「おいおい!」
× × ×
学生の頃のジョセフは、バスケでそれなりに有名だったという。亡母は生前、当時のジョセフの活躍ぶりをサミエルによく語って聞かせた。
「とにかく理論家でね、後輩達へ教える事が上手だったわ」
「へえ、だったら何でその道に行かなかったのさ。靴屋やってる意味わかんねえよ」
「足に興味を持ったんだって。人の動きの挙動がどうとか……難しい話は母さん分からないけど、そのうち父さんは自分で靴を作り出したの」
「で、靴屋か。それならわかるな」
「そう。お父さんの作った靴、最高でしょ」
「ああ。あれでデザインさえよければな」
「まぁ!」
父の話をしている母の笑顔は今でも覚えている。そんな母が、サミエルは大好きだった。
(お袋……確かに親父の奴、教えるのがすげえ巧いぜ。こんな親父、初めて見た)
サミエルの知っているジョセフとは、いつも工房でコツコツと靴を作っている後ろ姿の印象が強かった。ビッグフットに乗っているからとはいえ、二人を教えるジョセフの姿は凛々しく、頼もしく見えた。
(カッコいいぜ、親父)
教え始めて二週間、ゲイルとシルフィはみるみるビッグフットによるバスケの腕が上達していった。面白いのは、大柄なゲイルが小器用に立ち回るのに対して、シルフィは大胆に攻め、思い切りの良いボール回しをするところであった。
(人は見かけによらない、ってか)
よくよく本人を観察すれば、ゲイルは熟考型であり、シルフィは直情型である。その辺りをジョセフは一目見るなり解ったと言う。
「足を見ればな、わかるんじゃよ」
(そういや……似たような奴の話を聞いた事があるな。)
チーム・バスカッシュのマネージャーが、やはり足を見て人の性格や健康状態を言い当てるという。先日カフェで見たネットの記事をサミエルは思い出した。
(はるか・グレイシア、だっけか? 世の中には似たような特技を持っている奴もいるもんだな)
はるかはシューズのデザイナーだという。足に関心を持つ人間が、その名の通りのビッグフットに興味を持つのもアリなのかもしれない、とサミエルは思った。
(んにしてもなァ……あちらの作ったシューズはバカ売れ。こっちはバスケ教室でチンタラだ。親父は何がしたいんだ、一体)
× × ×
次の日、サミエルが店に顔を出すと、トラックが数台、巨大なロール状の荷物を搬入していた。サミエルは驚喜した。
「始まる?!」
店先で受領書にサインしていたジョセフに、サミエルは興奮の面持ちで話しかけた。
「お、親父! つ、ついに! ついにか?!」
「何がついでじゃ?」
「違う! ついに作るのか? ビッグバッシュ!」
「ほほう、いいネーミングじゃの」
ジョセフはニヤリと笑った。
「三番街のジムん所の倉庫を借りた。今から素材を運ぶから手伝え」
「喜んで!」
夕方にゲイル達がやって来ると、早速二機の足の採寸に取りかかる。工業製品である筈のビッグフットに対し、ジョセフは二機それぞれに別々にシューズのデザインを始めた。
「機体の特性というより、操縦している人間の特性に応じて、という感じじゃな」
「だからずっと二人につきっきりでコーチをしていたというわけか」
「遊んでいたと思ったか? 甘いぞ、サミエル」
ジョセフ曰く、ゲイル機のシューズはクッション性を重視し、前足部と後足部にそれぞれ反発性の異なる素材を使うという。
「ゲイルの得意はドライブ・インじゃ。着地の衝撃を吸収して、それを一歩を踏み出す反発力に変える」
対してシルフィード機のシューズはサポート性を重視。足が靴の中で遊ばないようにミッドソールに特殊なプレートを仕込む事になった。
「トーイの得意はロッカーモーションじゃからの。横の動きが激しいから靴がしっかり足にフィットしていないといかんのじゃ」
「何だ、トーイって?」
「シルフィードのあだ名じゃ。昔の仲間からはそう呼ばれていたらしいからの、わしらもそう呼ぶ事にしたんじゃ」
「わしらって、いつの間に?」
「昨日からだよ。な、トーイ」
「……ダン・JDが付けてくれたんです」
照れくさそうに、トーイことシルフィは自身の過去を話し出した。ローリングタウン出身であること、エクセレントシティにやって来たのはダンとその仲間達のお陰である事など。一緒に住んでいる彼女は、歌手を目指して路上でいつも歌っているという。
「バスケとは縁を切ろうかとも思ったんですが……やっぱり辞められませんね」
「へえ。こんな所にチーム・バスカッシュに関わり合いのある人間がいるとはね。これも何かの縁かねえ」
感心しきりのサミエルは、さりげにもう一枚の図面がある事に気がついた。
「あれ?」
「お。どうしたんじゃ?」
「親父、この図面は何だ?」
「ああ。そいつは、わしのじゃよ」
「何ィ?!」
「ビッグフットってのはいいのう。どうやらわしと相性が良かったようじゃ。思うように体…じゃなくて機体が動くわ」
「おいおい、年甲斐もねえことぁ辞めてくれよ」
「何言ってるんじゃ、この先二人のシューズが出来たとして、日々改良をしなきゃいかんのじゃぞ。わしが側にいなければ、誰がシューズの具合をチェックするんじゃ」
「いや、だからそれは俺が──」
「お前はマネージャーじゃ。いいか、試合のスケジュール調整と、シューズの営業は任せたぞ。二人へのギャラをどんどん稼ぐがいい」
「頼むぜ、マネージャー」
「頼みましたよ、サミエルさん」
「ああ、わかった! わかりましたよ!!」
そして一ヶ月後、エクセレントシティでは、老人と大男と少年という変わった三人組のバスカッシュチームの噂で持ち切りになる。
初出:Blu-ray「バスカッシュ!」shoot:6(2010年1月20日発売)初回特典
(発売・販売元:ポニーキャニオン)
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)