ワタクシ流業界絵コンテ#09

 当時、『ちびまる子ちゃん』は二人の監督によって作られていました。総監督的な役割を芝山努さんが担い、個々の話数の完成度を須田裕美子さんが担うやり方です。僕はこのお二人にTVシリーズとは、原作モノとは、ということを二年間みっちり教わりました。件の『ちびまる子ちゃん』の絵コンテですが、部分的なものも入れると、少なくとも五、六回は描き直したと思います(実際はもっとあった筈ですが)。現在、絵コンテの〝直し〟というのはスケジュールの都合上、二回が限度です。しかも大抵は、監督からメモなり口頭なり、具体的なサジェスチョンが担当者に伝えられるので、単純にそれに沿って描き直せばいいわけです。で、よっぽど〝使えない〟コンテの場合は別の絵コンテマンに振り直すか、監督自ら描き直してしまう場合が殆どです。僕の場合は、というと「原作の良さを殺さないように」「とにかく直してみて」と具体的な指示のないままに描き直しに苦戦していました。指示できないくらいに非道い出来なのか、というと芝山監督曰く、「外の人だったら合格点だけど」ということなので全くダメではないようです。
「ただ、今回の話数はまる子初めての長編だからね。須田さんのこだわりに付き合ってあげてよ」
 原作の『ちびまる子ちゃん』というのは一話につき16ページ程の短編であるため、30分に収めるにはボリューム不足です。かと言って余計なオリジナルのエピソードを付け加えては原作の味が薄れて(ひどい場合は殺されて)しまいます。というわけで、当初は無難に30分二本立て、という形で作られていました。しかし、6話は、「まるちゃんたち犬をひろう」という原作の方でも人気のあるお話で、涙あり笑いあり。まる子が子犬を拾って何とか飼おうと家族やクラスメートを巻き込んでてんやわんやする話です。
「これを10分少々の話にしてしまうのは勿体ない」という監督、プロデューサー諸氏の決断によって初めて30分まるまる一話で行くことになったそうです。まぁ、これが成功すれば原作を食いつぶすペースも多少は遅らせることができますし一挙両得(笑)。とはいえ、原作通りにやれば原作のニュアンスを生かせるかというと必ずしもそうでないのが映像というやつです。当時、須田監督は事あるごとに「女の子の気持ちは分からないまでも無神経なことはしないように」と言っていました。それは日常描写のささいなことから、オリジナル要素を入れるときの方向性まで様々でした。どうしても各話を担当する演出家は自分の話さえ面白ければ、と思ってしまうのでキャラクターの性格や世界観を歪めてしまいがちです。今でこそ僕も「作品の世界観が」とか偉そうなことを言っていますが、当時は演出一年生、何がなんだかわからぬままコンテ直しに励んでいました。では僕が具体的にどうOKをいただいたのか、その顛末は次回──

NHK出版『放送文化』2000年12月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)