ワタクシ流業界絵コンテ#12
人が成長するきっかけというのは色々あるのでしょうが、僕にとってのそれは、作品であり、それに関わるスタッフ達との出会いです。TVアニメを下請けの制作会社で作っていると陥りやすいのは、同じ傾向の作品、同じスタッフワークの中で、どうしても『こなす』形での仕事になってしまうところです。確かに最初のうちは覚えることも色々あるので、一生懸命にコンテを描き、演出処理をして、完成したフィルムを見て一喜一憂──出来上がりが、明確な技術の上に成り立っているわけではないので、端から見れば行き当たりばったりなのですが、当人にしてみれば逆に緊張感と充実感に溢れている(笑)。これがある程度のキャリアを積んでいくと、「まぁ、こんなものかな」という計算ができるようになってきます。TVアニメの制作ペースに慣れてきた、といえば聞こえはいいのですが、ややもすると自分の(演出)技術がどこらへんにあるのかが無自覚になりがちです。収入も安定し、一日中ヒーヒー言って処理をしていた頃に比べれば比較的余裕も生まれ、仕事以外の他のジャンルにも興味が湧いてきて…と善いことずくめのはずなのですが、実はまだ、自分の“本当の”ポジションが見えていない時期でもあるのです。アニメの演出もいわば技術職です。クリエーター云々と持ち上げてくださる方もいらっしゃいますが、基本的にはクリエイティブな発想を更に拡げ、フィルムに固定させるには地味な技術の積み重ねが必要です。
前回、お蔵入りになった映画についてチラと書きましたが、タダ飯喰らって落ち込んでいた反面、週単位で小刻みに動いていくTVのペースと違い、月単位、或いは年間ペースで動く劇場映画に関わったことで、僕の中には「果たして自分の実力というものはどこいら辺にあるのだろう?」という思いも湧き起こり始めました。そんな中での『赤ずきんチャチャ』との出会い──これは正にラッキーでした。そしてこの作品を機に僕は色々な人達と出会っていくことになります。『チャチャ』無くしては現在の僕はあり得ないと思います。まぁ、それは今だから言えることで、当時の僕は、今まで関わってきたものとは全く違うジャンルのアニメが出来ることにひたすら喜んでいました。御存知ない方が大多数だと思いますので説明いたしますと、『赤ずきんチャチャ』とは、『まる子』同様に『りぼん』という少女漫画雑誌に連載されていた人気作品で、師匠のセラヴィーのもとで魔法の修行に励む少女チャチャがボーイフレンドのリーヤ達と繰り広げるギャグ漫画です。そして、TVアニメになるに際してある要素が付け加えられていました。それは〝戦う美少女〟〝変身〟。どこか牧歌的な雰囲気の漫画版とは全く正反対なこれらの要素は明らかに『美少女戦士セーラームーン』を意識しています。こんなジャンルは、会社の今までの流れでは引き受けなかった傾向のものです。正にラッキーでした。(つづく)
NHK出版『放送文化』2001年3月号掲載