ワタクシ流業界絵コンテ#15
前回、演出家も音響作業にもっと関心を持てばもっとフィルムは面白くなる、ということを書きました。それはもちろん正論です。しかし、TVシリーズの場合、演出家は五本に一本くらいのローテーションで各話を担当しますが、役者も含めた音響のスタッフは毎週フィルムに接して作業しています。数字の上から言うと、作品に対する経験値は、音響スタッフの方が実は大きいのです。ましてや役者さんは、毎週ああだこうだと悩みつつ、自分なりのキャラクター像を組み立てて演じています。したがって、演出家ががっぷり四つに組むためには、まずはフィルムをわかりやすい形に仕上げることから始めなくてはなりません。
演出に成り立ての頃は、「音響の人の邪魔にならないようにね」というプロデューサー氏の言葉にカチンとなりましたが、同時に「では、どうすれば邪魔にならないのか」ということも考えました。音響の知識も演劇理論もわからない若造演出が、太刀打ちできるものといえば、それはフィルムだけしかありません。『ちびまる子ちゃん』の頃、僕はとにかく、
セリフの間
効果音のタイミング
が適切になるように気をつかいました。そしてそれは正解だったようです。ある時、役者さんからこういう言葉をいただきました。
「佐藤さんの演出する回は、すごく台詞がハマリます」
その頃辺りからでしょうか、音響作業の流れであるとか、音響監督がどういうことに気をつかって役者へサジェスチョンしているのかが、おぼろげながら見えてきました。それは音だけに限らず、原画動画、美術や仕上げ、撮影編集の各セクションに対してもそうです。絵を描くだけでない、アニメーションの流れというものが若造なりに見えてきたのです。音響スタッフとのやり取りの仕方もこの頃憶えました。そうなってくるとしめたモノで、何をどうすれば自分のやりたいことに近づけられるかアレコレ試していきました。
と、同時に「限界」のようなものも見えてきました。『まる子』や『リカちゃん』はゆったりとしたテンポの作品だからよいとして、これがアップテンポの、例えば『マカロニほうれん荘』のようなスラップスティックギャグを原作のテイストを生かしての作品化は絶望的に不可能なのではないか、現行の流れではどうやっても面白くならないのではないかということです。
絵的なテンポを早くするには?
音的なテンポを早くするには?
こうしたテーマを課して臨んだのが『赤ずきんチャチャ』でした。こんなこと考えてる奴は俺だけだろなァと思いつつ…しかし、『チャチャ』の現場にはいたのです。他に三人も――
NHK出版『放送文化』2001年6月号掲載
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)