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船橋アパートメント<誰が住むのか>
西沢立衛:船橋アパートメント(2004.壁式コンクリート造)
西沢立衛さんの設計した船橋アパートメントについて。この集合住宅は、いわゆるワンルームマンションという部屋一つにユニットバスとキッチンという形式をとるもの。普通のワンルームマンションではユニットバスとキッチンを狭くしてワンルームをできるだけ大きくする。しかし、この船橋アパートメントで用いられたのはスリールームであった。これは適当な大きさの部屋が三つありこれがそれぞれキッチン・ユニットバス・ワンルームというように割り振られるという形式のものである。
スリールーム化によって何が起こるのだろうか。それは、風呂場が広ければ風呂場に何かをおいてそこに新しい形の居場所を作り出すといった、ワンルームだけが居場所でないという認識を植えることができる。「誰が住むのか」ということが象徴的に出てくる住宅なのである。
すなわち、ここには、別々の人格が作っているというような感覚がある。これは、誰かが引いたグリッドの空間にもう一人がここを何の部屋にしようとかを決めるのである。この二重人格さが「機能からは空間はつくれない」ということを示しているように見える。
この建築を見て、建築家はどこまで手を出すのが最適解であろうかということも考えさせられる。「至れり尽くせり」が当たり前の世界で決められないという逃げの自由さを設計するのではなく、自由さを与えることが吉となる解を設計で見いだせるか。